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聖女ルルドの恋模様
音楽祭は奈落の底から⑦
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恥ずかしそうに、目を泳がせて見つめられるからドキドキが止まらない。
「駄目、僕が君をこうやって大切に運びたいから」
「ぐはっ・・。恥ずかしくて、また心臓が止まっちゃうから・・。やめてよ!!」
ジタバタ動き出す彼女が可愛くて仕方がない。
本当に良かった・・。
目覚めた彼女が聖女の加護を受けていて、二度とあんな思いをしなくてもいいなら・・。
二度と・・。あんな思いも、後悔もしたくない。
暴れるアリアを抱えながら階段を抜けて、舞台の裾に引っ込んだ僕たちは急いで身なりを整え直した。
一年の最後の順番に出演することにした。
生徒会役員のアドルファスが、いなくなったと知らせを受けて、僕たちの順番を変更していたこと。用意が出来たら呼名してくれる手はずにしておいてくれたことで何とか事なきを得ることが出来た・・。
1つ年上のアドルファスは言葉は少ないけど、いつも無言で察してくれる。僕にとって頼れる兄のような存在だった。
「1年特位クラス所属カイン=オーガスタ、同じく1年特位クラス所属アリア=グランデリア。」
アドルファスの落ち着いたバリトンボイスが響いた。
座席の全てを埋め尽くす観客の数に一瞬怯んだ私の手をカインがぎゅっと強く握りしめた。
私達は、何もなかったかのように落ち着いた表情で深くお辞儀をした。
割れんばかりの盛大な拍手に迎えられて、あの日のセレナーデの旋律をカインの長い指が滑るようにピアノの上を縦横無尽に奏でる。
客席に座っていたカリーナと目が合うと、視線を合わせて笑った。クリトスと、ケイドル、ジェイクが並んで手を振っていた。
乗り出して手を振っているクリトスが座席から落ちそうになって瞬間は噴出しそうになった。
ステージの裾からはアドルファスがこちらを見つめている。
あの日のカリーナと、カインの孤独に届くように優しさを込めて息を吸い込んだ。
胸に浮かぶ温かい思い出が優しく二人の孤独を包み込んでくれますように・・。
祈るような歌が講堂に響き渡り、ライトが私とカインを照らした。
ピアノの旋律と合わさって美しい歌声は天に届くように奏でられた。
どうか安らかに王妃様・・。
そして、2人にも安らかな眠りを。
気が付くと音楽は止み、ハッとした私は顔を上げると割れんばかりの拍手に包まれていた。
立ち上がって涙を流す人、スタンディングオーベーションに私は後ろのカインを見つめた。
嬉しそうに微笑むカインはゆっくりと頷いて笑顔になった。
並んでお辞儀をすると、拍手は更に大きくなった。
「素晴らしい歌をありがとう。」
僕を、僕たちを救ってくれて有難う。
その言葉は、胸のうちに飲み込んだ。
「こちらこそ。とても素敵な伴奏をどうもありがとう。」
客席のカリーナを見ると、身体を震わせながら嗚咽が出る程泣いていた。
ケイドルとジェイクが慌てた様子でハンカチを渡している光景が印象的だった。
クレトスも顔が惚けていたが、何故か同じ状態だったが放置されていた。妙にその光景がシュールだったのでクスっと笑った。横に並ぶカインが軽く咳払いをした。
「この間の告白の返事は卒業式でいいから・・」
ボソッと耳元で告げられた不穏な発言に固まった。
「・・ご、ごめんなさい。でも、私の人生は今はそれどころじゃなくて・・。」「今はでしょ?好きになってもらうには時間が必要だよね。・・だから、覚悟してね?」
挑むような澄んだ瞳は、鷹のように王者の風格を出していた。横並びだった筈のカインの引き締まった頬が間近に迫ってきて目を丸くした。「君は僕のベストパートナーだよ。いつか、僕だけのアリアにしたい」
次の瞬間に、大勢の前でチュッと頬に口づけを落とされた。
「えっ!?ちょっ、ちょっ!?何で?・・嘘ぉぉ?」呼吸が止まりそうなくらい口をパクパクしている私にイタズラが成功したように舌を出してカインが微笑んだ。
ざわめく客席に、奇麗に腰を折った礼をしてご機嫌な様子だったカインに手を引かれたまま舞台袖へと歩き出した。
放心状態の私はずるずるとドレスと共に引きずられて退場した。
「きゃぁぁあ!!」「いやあぁあぁ!!」「うぉぉおおお!!」←(クレトス)
女学生達の悲鳴の中に野太い奇声も混じって講堂が騒めきの中にいた。
「今の何だ!?おいっ、今のは見間違えか?アリアの可愛い頬にチュッて・・。チュッてしたあぁぁっ!!あいつっ、お姫様抱っこにチュウって王子様みたいじゃないか!!」
「みたいではなくてカイン様は王子様ですよ」ジェイクが笑いながら突っ込みをしていた。
「もはや自分も王子だって事も忘れてそうだな。意外とカインもやるじゃない。侮れないなぁ」
「お、お兄様・・。なんて大胆っ!!」
涙が止まったカリーナは口を開けたまま、呆然としていた。
舞台脇で壁に寄りかかるアドルファスの表情は眼鏡で見えなかった。
前代未聞の見世物に全校生徒が大熱狂のまま音楽祭は終了した。
「駄目、僕が君をこうやって大切に運びたいから」
「ぐはっ・・。恥ずかしくて、また心臓が止まっちゃうから・・。やめてよ!!」
ジタバタ動き出す彼女が可愛くて仕方がない。
本当に良かった・・。
目覚めた彼女が聖女の加護を受けていて、二度とあんな思いをしなくてもいいなら・・。
二度と・・。あんな思いも、後悔もしたくない。
暴れるアリアを抱えながら階段を抜けて、舞台の裾に引っ込んだ僕たちは急いで身なりを整え直した。
一年の最後の順番に出演することにした。
生徒会役員のアドルファスが、いなくなったと知らせを受けて、僕たちの順番を変更していたこと。用意が出来たら呼名してくれる手はずにしておいてくれたことで何とか事なきを得ることが出来た・・。
1つ年上のアドルファスは言葉は少ないけど、いつも無言で察してくれる。僕にとって頼れる兄のような存在だった。
「1年特位クラス所属カイン=オーガスタ、同じく1年特位クラス所属アリア=グランデリア。」
アドルファスの落ち着いたバリトンボイスが響いた。
座席の全てを埋め尽くす観客の数に一瞬怯んだ私の手をカインがぎゅっと強く握りしめた。
私達は、何もなかったかのように落ち着いた表情で深くお辞儀をした。
割れんばかりの盛大な拍手に迎えられて、あの日のセレナーデの旋律をカインの長い指が滑るようにピアノの上を縦横無尽に奏でる。
客席に座っていたカリーナと目が合うと、視線を合わせて笑った。クリトスと、ケイドル、ジェイクが並んで手を振っていた。
乗り出して手を振っているクリトスが座席から落ちそうになって瞬間は噴出しそうになった。
ステージの裾からはアドルファスがこちらを見つめている。
あの日のカリーナと、カインの孤独に届くように優しさを込めて息を吸い込んだ。
胸に浮かぶ温かい思い出が優しく二人の孤独を包み込んでくれますように・・。
祈るような歌が講堂に響き渡り、ライトが私とカインを照らした。
ピアノの旋律と合わさって美しい歌声は天に届くように奏でられた。
どうか安らかに王妃様・・。
そして、2人にも安らかな眠りを。
気が付くと音楽は止み、ハッとした私は顔を上げると割れんばかりの拍手に包まれていた。
立ち上がって涙を流す人、スタンディングオーベーションに私は後ろのカインを見つめた。
嬉しそうに微笑むカインはゆっくりと頷いて笑顔になった。
並んでお辞儀をすると、拍手は更に大きくなった。
「素晴らしい歌をありがとう。」
僕を、僕たちを救ってくれて有難う。
その言葉は、胸のうちに飲み込んだ。
「こちらこそ。とても素敵な伴奏をどうもありがとう。」
客席のカリーナを見ると、身体を震わせながら嗚咽が出る程泣いていた。
ケイドルとジェイクが慌てた様子でハンカチを渡している光景が印象的だった。
クレトスも顔が惚けていたが、何故か同じ状態だったが放置されていた。妙にその光景がシュールだったのでクスっと笑った。横に並ぶカインが軽く咳払いをした。
「この間の告白の返事は卒業式でいいから・・」
ボソッと耳元で告げられた不穏な発言に固まった。
「・・ご、ごめんなさい。でも、私の人生は今はそれどころじゃなくて・・。」「今はでしょ?好きになってもらうには時間が必要だよね。・・だから、覚悟してね?」
挑むような澄んだ瞳は、鷹のように王者の風格を出していた。横並びだった筈のカインの引き締まった頬が間近に迫ってきて目を丸くした。「君は僕のベストパートナーだよ。いつか、僕だけのアリアにしたい」
次の瞬間に、大勢の前でチュッと頬に口づけを落とされた。
「えっ!?ちょっ、ちょっ!?何で?・・嘘ぉぉ?」呼吸が止まりそうなくらい口をパクパクしている私にイタズラが成功したように舌を出してカインが微笑んだ。
ざわめく客席に、奇麗に腰を折った礼をしてご機嫌な様子だったカインに手を引かれたまま舞台袖へと歩き出した。
放心状態の私はずるずるとドレスと共に引きずられて退場した。
「きゃぁぁあ!!」「いやあぁあぁ!!」「うぉぉおおお!!」←(クレトス)
女学生達の悲鳴の中に野太い奇声も混じって講堂が騒めきの中にいた。
「今の何だ!?おいっ、今のは見間違えか?アリアの可愛い頬にチュッて・・。チュッてしたあぁぁっ!!あいつっ、お姫様抱っこにチュウって王子様みたいじゃないか!!」
「みたいではなくてカイン様は王子様ですよ」ジェイクが笑いながら突っ込みをしていた。
「もはや自分も王子だって事も忘れてそうだな。意外とカインもやるじゃない。侮れないなぁ」
「お、お兄様・・。なんて大胆っ!!」
涙が止まったカリーナは口を開けたまま、呆然としていた。
舞台脇で壁に寄りかかるアドルファスの表情は眼鏡で見えなかった。
前代未聞の見世物に全校生徒が大熱狂のまま音楽祭は終了した。
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