二者択一で転生した令嬢は将来も選択したい

館花陽月

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月の出る晩に。

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涙がすうっと流れた。

「なに・・・これ・・・・。こんな記憶知らない・・・・。」

月の光が窓辺に差し込み、図書室で父親と兄に詰られ、責められ、取りあえず頭をぶつけた形にして
お医者様に見せることになった私だったが。
今日は疲れたからお医者様にお会いするのは明日の楽しみにしておくと告げた。

それはもう、酷く心配していた父と兄を必死で説得し、今日は早く休むからお先に失礼すると部屋へ戻ると
夕食も取らずにふかふかの天蓋つきのクィーンサイズであろうデカ広ベッドに横になりそのまま寝落ちしていたらしい。

野原であった美しい美形はアルベルト「殿下」・・・・。

私を8歳の時から深く愛してくれていた人。

ぼんやりとした頭で考えると、現世での記憶が薄れ今の世界での「私」の記憶が増えている感覚に
恐ろしくなった。

「私は私でいたいのに・・・。殺されるほど愛されるよりも、殺したいほど愛するほうを選んだはずなのに
これじゃあ前者の選択ストーリーじゃない・・・。誰かを傷つけない選択肢、そう自分だけが傷つく恋愛なんてないのよね。
でも、このままじゃアルベルト様がお可哀想だわ。彼の思いを知れば知るほど、何も分からない私なんかじゃ釣り合わない。・・・あんな命がけの深い思いに答えられないわ。」

たった数時間の睡眠で得た情報量は凄まじいものだった。

言葉や淑女然とした振る舞いも、この王国や世界の常識も目が覚めると色々な情報が頭に入っていた。
転生してすぐの頓珍漢で取ってつけの振る舞いではボロが出るだろうから、助かったのだが。

あん○パンを食べたみたいじゃない。
睡眠学習みたいなものかしら?

窓の外にまん丸い月が見えた。

不安を打ち消すように、月に向かってうろ覚えになっている猫の合言葉を叫ぶ

「ハチ公よりも、やっぱりモヤイ!」

月が一瞬瞬いて一片の光が窓辺に差し込み虹色の丸いボールが月から降りてくる。
驚いて窓辺に駆け付けると、白い空間で見たあの虹色の猫が輝きを少し燻らせて見上げていた。

「ねぇ、猫ちゃん。私の現世での記憶が消えていくの・・・・。少し眠っただけなのに・・。
ここの世界の記憶が流れ込んできたの。私が私じゃなくならないか不安なの。」

「大丈夫。あなたはあなただ。
魂の色も変わっていない。ルナであるあなたもあなた。
・・・ちょっと難しいかな?」

「難しいわ。私、アルベルト様のことを少しだけ思い出したの。
でも、転生してきた時は全く分からなくて貴方なんて知らない!って言ってしまったの。彼の想いもなにも
分からずに傷つけたわ。私、もうアルベルト様に合わす顔がないわ。不敬罪で殺されてしまう!!」

不安そうな私の手の上に猫が優しく頬ずりをしてきた。

「アルベルト様はそんなお方じゃないよ。我はすべてを知っている。君の選択はいつも正しいから
・・・・・きっとあなたは彼を助けられるだろう。
アルベルト様もそうだね。あなたへの思いはそんな柔なものじゃない。そして君も殺したいほど彼を愛すだろう。彼の思いほどではなくとも。」


「え??!両想い設定になるってこと?無理よ!!私、だれかを好きになったことないもの。
恋愛スキル0よ。彼が愛してやまないルナの歌も・・癒しの歌も歌えないもの・・・。」

猫はくるりと宙を舞うと、虹色の光が当たりを照らした。
「分かった。君にルナと同じ癒しの歌の能力を再生してあげるよ。これも大切な’要素’になるからね。」

ん?要素って何?
問う暇もなく

猫は気づくと目の前までやって来て、そっと私の喉に手を翳し、眩い光がぱあっと放たれた。
熱いような、気持ち良いような、焦れるような不思議な違和感が喉元を走った。

「あれ?なんか暖かいわ。」

「あなたの気持ちは君のものだよね。優しく人を労わる気持ちが歌に乗ると癒しの歌になるんだ。
思いだけでも、技術だけでもダメなんだ。
ルナにしか出来ない奇跡だけれど、同じ魂を持つ君にもできる奇跡なはずだよ。」


「柔な思いじゃできない。相手を思いやる気持ちが形になって人を癒せるのなら、今は現代みたいに
薬や医療の恩恵がない国でそんな素晴らしい力を頂けて嬉しいわ。不安なんて言ってないで
もう、やってみるしかないわね。」

私は少しだけ楽になって笑って見せた。

「さっきの君の相手の質問の答えはここでは教えられない。
絵里香、今はルナとして生きて目にしている事実から真実を自分で見つけて。そして・・・選択をするんだ。」

名前はまだない猫はそう言って「またね!」と宙に浮かんで消えた。

あぁっ。まだ聞きたいことは沢山ある!

マジック的な消え方にびっくりして
「ちょっと待って!!選択選択って・・わかんないよ。お願い行かないでぇ!!!」

淑女にあるまじき大声で叫んでしまった。

しかし猫はもう行ってしまったようで、何も返答はなく・・・・・。


そのときバンッ!!とノックもなしに
ドアが開け放たれ、心配した父と兄が真っ青になりながら走りこんできた。

やっばい・・・。冷や汗が背中を伝う。

過保護&オーバーリアクションの彼等にかかると私はどんな目に合うのだろう。

「ルナー!!!!大丈夫なのか??お兄ちゃんはどこにもいかないぞ?
アルベルトなんて捨ててしまえ!」

「そうだ。お前がこんな記憶喪失になってしまったのも、元はといえば殿下がお守りくださら・・・。
いやもしかすると、お前に猥褻な真似を・・・。まさか!!?そうなのかぁ?!」

二者二様なので・・・・。
落ち着くまでは生暖かい目で見守るとしましょうか・・・。

部屋にあったテーブルセットの椅子に腰かけ、様子を見に来たメイドに命じて
「何か軽く食べれるものをちょうだいな」と頼むと、ギャーギャーと喚きながら
妄想の世界に入ってしまった父と兄を見守りながら、ベーコンエッグサンドを頬張った。

メイドが静かに入れてくれた紅茶を「ありがとう」と受け取り、口元に運ぶ。
ああ、紅茶のいい香りは大好き。

ここのご飯の美味しさにほくほくしている私は、気づいたら泣き叫ぶ領域まで
妄想の世界にトリップしていた父と兄の様子を見ながら苦笑いした。

猫の言葉が本当だとしたら、私のお相手は?
殺したいほど愛する高スペックなお相手はアルベルト様で宜しいのかしら?

「あー。こんなことなら、カイザルにすれば良かったんだよ!!父上!!」

兄の泣き叫び声にハッとする。

ちょっと待って。筆頭公爵家のご令息のカイザルもまた高スペック!!

そのルートもあるの?!

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