転生伯爵令嬢は、裏切り者からの寵愛に戸惑う。

館花陽月

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騎士団との旅立ち。

レオノールの傷。⑥

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あの日の苦い思い出に、言いようのない痛みが溢れそうになった。


今も深く母を愛して止まない父・・。

その父の記憶すらも完全に失くしてしまった母。

もし、今アレクシアが自分の記憶を全て忘れてしまったら
俺は父のように笑って愛しているなどと言えるのだろうか・・。

俺はどうなってしまうのだろう・・・。


無言のまま、果てしなく続くエターナルアプローズの花の列に沿って
その大きな大輪の花を摘み取っていく。

自分の感情で八つ当たりをしてしまった母上のグリフォンの悲しそうな瞳が
思い出されると、辛く情けない気持ちで一杯になった。

生まれた時から一緒だったグリフォンは、公務やファーマシストの仕事で
忙しい父や母に代わっていつも自分の側で遊んでくれていた。

母の神獣グリフォンは「シリウス」と言う名がついていた。

大きな鷲のような立派な翼を持つ、美しい鳥獣だった。

いつも自分を温かく見つめてくれていたのに・・。

「謝りたかった・・・。よく背中に乗せて遊んでくれていたのに。
だけど、ちゃんと謝る時間さえなかったのだな。」

誰もいない夜の庭園で虚しい言葉だけが零れ落ちた。

ジャリッ・・・。

背後に聞こえた音に驚いたレオは、後ろを振り返った。


「・・・レオノールか。ここで何をしておるのじゃ??」

大きな身体と、威厳のあるオーラで現れた父に一瞬驚くと摘んだ花をそっと
地面へと置いた。


「父上・・・。
解毒剤が不足したので、ここに転移して花を摘みに戻りました。
父上の方こそ、どうしてこんな宵にこちらへ?」


「なぁに、ただの散歩じゃ。
ロージアナの報告はエリアスから入っている。
ザイードの姫も大変だったようじゃな・・。
それよりも・・。お前のその心の乱れは一体どうしたのじゃ??」


見透かされている・・。

情けない自分に少しだけ嘲笑交じりに笑った。


「別に・・・。少し疲れただけです。
色々と現地では事件ばかりが起こってたので。」


「・・・そうか、お前。レムリアを思い出していたのか?」

レオノールは、無断で自分の心を読んだ父に苛立ちを覚えた。

その言葉を聞いた瞬間、再び踵を返して花を摘み始めた指の先に痛みが走った。

図星だと言わんばかりに鋭い薔薇の棘のように
刺さって抜けない痛みが身体中を駆け抜けていた。

深いため息とともに、リオルグは目を閉じた。

「本当にすまなかったな・・。
儂のせいで、お前があんなに早くに母を亡くすことになったのじゃ。」


レオは翳るような瞳でリオルグを見た。


「違う・・。あれは・・。薬のせいだったのでしょう?
青薔薇を冠した組織が・・。
あいつらが!!
殲滅したと思っていた混沌の青薔薇エンヴィアスローゼンの謀りだったはずだ。
母は、解っていてあの薬を口にしたのです。だから、貴方のせいではない・・・。」


「11年前の夜・・・。
他国を呼び寄せた建国記念日の祝いの席で、乾杯のグラスを手に杯を掲げて
飲み干そうとした瞬間だった。
レムリアが、「こっちの方が美味しそう!!貴方、こっちを飲んで下さいな。」
そう言って、グラスを取り上げて笑ってな・・。
そのまま、儂のグラスのぶどう酒を一気に飲み干してしまったのじゃ。
相変わらず自由な妻だと大笑いした自分の愚かさに反吐が出る。
その舞踏会の最中、レムリアが化粧室の前で倒れているのを侍女が発見した時にやっと
真実に気づいたのじゃ。・・・遅かったがな。」

「母上が次に目を覚ました時には、一切の記憶が消えていたと・・。
あの日の夜に父上から直接ちゃんと説明を受けました。
だから、状況も理解しています。
そこからの貴方や、ファーマシスト達のあの努力の上に解毒剤が完成した今がある。
俺はそう思っています・・。」


「レムリアの飲んだ毒の成分が解らずに、解毒薬の調合には苦労したのじゃ・・。
もしも、優秀だったレムリア自身がその解毒剤を自分で作ることが出来ていたら
もっと早くに完成していたはずだったんじゃ・・・。」


神殿の者たちは祈祷や祈りを捧げ、ファーマシストは医師と協力してレムリアの
飲んだ毒の解毒剤の開発を急いだ。

飲んだ毒は、その量や調合で脳の前頭前野の領域に影響を及ぼす記憶障害として
現れるもの・・。

そして、心臓や肺などの循環器や呼吸器疾患を不全に陥る調合。
また脳の偏桃体に影響を及ぼし、暴力的な改変を起こしてしまう物が出来ることが解った。

レムリアは心臓や肺機能の障害と、記憶障害の両方が見られた。

その為に、不調に陥る部分に特化して効く薬の調合を目指して
研究が続けられてきたのだった。


「それでも・・。
お前は毎日、寝たきりで意識を失ったままのレムリアに会いに通っていたな。
レムリアが大好きなエターナルアプローズを持って。」

懐かしそうに、小さなレオノールの姿を思い浮かべたリオルグは切なそうにレオを見た。

目を覚まさなくなったレムリアの枕元一杯には
美しく咲き誇るエターナルアプローズで溢れていた。

「おかしな話ですよね・・。貴方から話を聞いて妙に納得したんです。
確かに母上なら、そうしたのだろうと・・。
あの嗅覚に優れていた母だからこそ、父上のグラスの液体の違和感に気づいたのだと。
納得はいかなかったのに、頭で全てを理解することが出来たのです。
・・・例え、全てを忘れたとしても。俺はそんな母を誇りに思いました。」


しかし、その研究が完成するまだ待たずしてレムリアは眠るように息を引き取った。

母が薬を飲んで、一か月も経たない内に心臓は弱り
そして動かなくなったのだった。

その日は呆気なくすぐに訪れた・・。

レオノールの事も、リオルグの事も忘れたままで母は逝ってしまった。

母のベッドの側でその知らせを聞いた。

立ち尽くしたまま・・。
涙など一滴も出なかった。


いつもレムリアの側で静かに蹲っていたシリウスもこの世界から消えていた・・。

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