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騎士団との旅立ち。
レオノールの傷。⑤
しおりを挟む「・・・坊やは、・・貴方は、本当に私の・・子ども・・なの?」
「・・・嘘だ。こんなの・・。
こんなの母上じゃない!!
だって、母上はいつだって僕を愛してくれていたのに・・。
そんな僕を忘れる訳なんか・・。」
目と目が合った母にいつもの自分を愛おしむような温かさは無かった。
ただ、そこにあるのは・・・。
見知らぬ他人を見るような自分と同じ蒼色の瞳があるだけだった。
「レオノール様・・。レムリア様は、記憶が抜け落ちてしまっているようなのです。
きっと、また思い出しますから・・。」
カーラが、僕の肩を掴んで諭すように言って聞かせた。
だけど、現実味のない目の前の状況に心と頭はついてこなかった・・。
「・・綺麗ね。いい香りのお花・・・・。
この・・お花は・・・・何て名前・・かしら?」
エターナルアプローズを見上げたレムリアが、少しだけ嬉しそうに笑っていた。
幼子のように笑う母はまるで別人のようだった。
「母上は、・・ご自分のお好きな花の名さえも・・。忘れてしまわれたのですか?」
カラカラに渇いた喉から、信じられないほど低い声が出て驚いた。
部屋の中が一瞬の静寂で静まり返った・・。
「何で・・!?どうして、僕を忘れるの??
母上のくせに、僕を産んだのは貴方なのに・・・!?
あんなに・・。あんなに僕を大切だと言っていたのに・・・。母上は、大嘘つきだ・・!!」
バシッ・・!!!
驚いた顔で瞳を揺らす母を横眼に、苦い感情に支配されたレオノールは
エターナルアプローズを床に叩きつけた。
「レオノール様・・っ!?」
カーラの悲鳴に似た声が部屋に響いた。
全速力で部屋の扉の前まで小さな身体で走り抜けた。
一秒でも早くこの部屋を出たかった。
気が付くと・・。涙が零れていた。
そんな自分の顔を誰にも見られたくなくて、開け放たれていた母の部屋から飛び出した。
扉の前にはエリアスが驚いた表情で立ち尽くしていた。
「・・・レオノール??・・お前・・。真っ青だぞ??」
「グルルル・・・。」
その横に母の神獣であるエリアスの二倍の大きさはあるグリフォンが羽を休めて
蹲っていた。鋭い茶色の瞳で僕を捉えていた。
「神力があったって・・。神獣なんかいたって、何の意味もないじゃないか・・・。
何が神の国だ・・。」
「主である母上も守れない神獣なんて、僕はいらない・・・!!」
言いようのない怒りで支配されたレオノールは唸るような声で
グリフォンを睨んだ。
グリフォンは、顔を上げてレオノールを黙って見つめていた。
エリアスは、一瞬瞳の色を濃くしてレオノールを睨んだ。
「何てことを言うんだよ、レオノール!?馬鹿なことを言うな!!
お前の気持ちは分かるが・・。」
「・・・もう、いらない!!
神獣も、この国の天子でいる自分もっ・・。
母上に忘れられた自分なんて・・。価値などないに等しい・・・。」
その言葉を吐き捨てると、哀しそうに見上げたグリフォンと目があった。
唇をぐっと噛んだまま俺はその場から逃げるように走り出していた。
涙で滲んだ景色だけが果てしなく続いていた。
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