転生伯爵令嬢は、裏切り者からの寵愛に戸惑う。

館花陽月

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青薔薇の栄光。

マルダリア王城に咲く薔薇。①

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激しい腰痛の中、何とか起き上がった私は爽やかな朝日が昇りきった時間に
(遅め)アルスタイン侯爵邸での朝食のテーブルに着いた。

すでに兄や、カイル、エヴァンは朝食を済ませていたようで書斎で作戦の打ち合わせを行っていた。
クロードは、王都から駆け付けた父と話をしている様子だった。

長く大きな楕円のテーブルの上で、向かい合うように私とレオが椅子に座っていた。

それに加えてテーブルの上では・・。
何故か、私とレオの神聖獣たちが食事をしていた。

大きな肉の塊が用意されていたが、2人とも大きな口を開けてペロリと平らげていく
様子は何とも野性・・いや、豪快だった。


「ブッキュウ・・・。ブブウ。(あたしのご飯あげる)」


「ガルル、ガルガルルルッ・・。(いいよ、俺のも食えよ。好きだろ、飯。)」


「・・なぁ、シア。
神聖獣の言葉って、こんなに最初から解る物なのか?
リヴァイアサンとエリザベートの会話、何だか通じるんだが・・。」


「まぁ、あの2体は動作を見たまんまの単純な会話だもの。
仲良く肉を渡し合って、微笑ましくがっついてるだけよ。
・・それにしても。朝からすごい食欲ね??」


空っぽになった皿を見て、アルトハルト侯爵家の侍女達はコックに新しい肉塊を
注文しに慌てて飛び出して行った。

私はテーブルの上に盛られた最後に手をかけながら、ダルそうに大きな口で頬張っていた。

レオは、フォークを丁寧に口に運びながらふっと笑った。

「シアにそれは言われたくないだろう??・・・あ、すまない。
フルーツのお替り持ってきてくれ。」

近くにいた執事に、命じたレオはクスクスと笑っていた。

「それよりも・・だ。一体、あれはどうなってるんだろうな??」

レオは、ナイフとフォークを皿の上に置くと、部屋の隅にちらりと視線を投げた。

私は、その視線の先の光景に少しだけ口角を上げると新しく運ばれてきた
フルーツに手を伸ばした。

「ああ・・。それね??気になっていたんだけど、突っ込まない方がいいかと思って。」


部屋の隅に、畏まって控えているエーテルの腰を抱きかかえたルカが嬉しそうに
エーテルに話しかけて注意されていた。

エーテルも満更じゃなさそうに、頬を赤らめてプイッと視線をそらしたり
腰を掴む手を抓ったりしていた。

最初から、ルーカスに対して不思議な反応を見せていたエーテルの想いを
私は薄々感づいてはいた。

「良かったわね、エーテル!!ふふっ、雨降って地固まる・・・。だわね?」

「何だ、それは???地固まる???変な言葉だな・・。どういう意味だ??」

レオが、カップを口に運びながら鮮やかな蒼い瞳で問いかけてきた。

私は、リンゴの芯を皿に戻してナプキンで口を拭くと顔を上げた。

「色々あったけど、良い方向になるってことよ!?
ルカったら、大分鈍いんだもの。やっとエーテルの想いを受け止めたのね。長かったわぁ!!」

私も手元のカップを掴むとずずっと紅茶を啜って微笑んだ。

「シアは・・。人の事は敏感なんだよな。
自分の事になると人外に鈍くて生存能力を危ぶむくらいの鈍感さを見せるのに。
頭の中の構造、どうかしてるんじゃないか??自分の認知部分だけ線が切れてるとかなのか?」

「失礼ねぇ!!エーテルとルカのは分かり易いのよ。
レオの気持ちなんて、天邪鬼すぎて理解不能だったわ!!
喧嘩を売ったり愚弄してきたり意味が解らなかったんだからね??
そう言うレオだって・・。アイーネ様に押し倒されて良い様にされていたじゃないの??
・・・自分だって、特に鋭い方ではないでしょう??」


「俺は敏感だ。
シアのように、鈍すぎて誘拐、拉致、監禁される前には流石に気づくからな・・。
それとも、それがシアの性的趣向だと言うのなら、仕方があるまい。
覚悟を決めて、いくらでもお相手するんだが??」

「おう、レオ。手錠で良ければ俺の貸すぞぉ??
ベッドの柱に良くフィットすんだよなぁ・・。
支柱式の奴に使えば足枷も良い感じに使え・・・。ぐはっ。」

エーテルがルカの頬を平手で打つと赤い楓マークがくっきりと浮かび上がっていた。

「・・・アレクシア様、大変失礼いたしました。
下品で耳障りな会話を・・。申し訳ありません!!」

エーテルが困ったようにこちらを見上げると、ルーカスが腰を屈めてエーテルに
こそこそ耳打ちをした。

次の瞬間、真っ赤になったエーテルはルーカスの足を思いっきり踏みつけた。

「手錠と足枷か。駄目だろ・・。そんなの。
シアを裸体のままで拘束するなんて、うっ・・。ゴホッ。ゴホゴホッ。」

真っ赤になって口を押えたままむせ込んだレオを私は冷たい視線で見つめていた。

・・趣向??

誘拐、拉致、監禁が好きって??
ド変態じゃない!?

「ねぇ??今、誰も裸で拘束するなんて言ってなかったわよ??
レオの願望よね・・。この変態っ!!」

「誤解だ、シアっ。俺は別に普通ので・・。普通って・・何だ?
ああ、だからな・・。ゴホッ。」

これ以上言うなとばかりにキッとレオを睨みつけると、
皿の上の最期の苺をグサッとフォークで刺した。

「ブッキュウ・・!!」

新たな肉塊が運ばれてきたエリザベートは嬉しそうに
リヴァイアサンに食べさせてあげていた。


仲睦まじい神聖獣を私は複雑な想いで見つめていた。

「なぁ、エーテル、お前の二の腕触ってたら興奮してきた。
待ちきれねぇよ。ちょっくら、外行かねぇか??」

「・・・馬鹿ッ。何て事を言うのよ??アレクシア様の前でやめてっ!!」

肉塊を分け合っている自分達の神聖獣のイチャイチャと、部屋の隅のルカとエーテルの
ラブラブっぷりに当てられたレオは不思議そうに苦く笑った。

「戦いの前だと言うのに、・・・ここは平和だな。」

レオの呟きに私は笑って頷いた。


その時、食堂の両開きのドアがノックされて返事の後にエヴァンが品良く入出してきた。

「レオノール君、食事中にすまない。
さっき、ユヴェールの麒麟がここに使いとしてやってきたんだ。」

ドアから颯爽と現れたエヴァンは、手紙のような物を手にとって笑顔を浮かべていた。

「・・・夜に動き出す予定でしたよね??早まるのですか??」

私が、驚いて声を上げるとエヴァンは首を振って否定した。

「遅効性の下剤と、食中毒を起こす薬を兵士達の朝食に混ぜてあるのだと報告が来た。
夕方には城に潜入し、宵闇に乗じて乗り込むことにする。その作戦は完璧に成功したようだが・・。」

どうやったのか解らないけど、兵の食事に薬を盛るなんて外道・・。
鮮やかな手口ね。・・・素晴らしいじゃない!!

「あいつらしいな・・。魅了を使えば余裕だろ?でもやり方は汚ねぇな・・。
あいつ、残念なお義兄ちゃんだな。真似すんなよ、エーテル??」

「もう、いいから黙ってよ。ルカ!!」

ルカの言葉に私は吹き出しそうになった。

「流石、クリスだな・・。兵の数だけ把握出来てないから不安だったんだが、何とか
なりそうだな。突入ルートについてはエヴァン様の方から何か提案はあるんですか??」

「その事についてなのだが・・。
まずは王城の左翼にある塔に侵入する隊と、
ユヴェールやクリスと合流して、王城の中で組織の指導者を見付けて、拘束をする隊とに別れようと思う。」

「王城の左翼にある塔・・。ですか??」

訝し気な表情でエヴァンを見ると、エヴァンは真剣な面持ちえ私を見下ろした。

何かを堪えるように、唇を噛み締めていた。

「あそこには、我々の組織の秘密が隠されている。
組織に雁字搦めにするために形代として取られた契約の証として咲き誇る薔薇が置かれている。
その薔薇は、我々、組織と契約した者の命と同じ。
その薔薇を手折れば、我ら組織の契約を交わし、薔薇の名を賜った我らの
命も手折られてしまう恐ろしい神力がかけられた薔薇なのだよ・・。」


「・・・混沌の青薔薇で、僕の母が以前の組織に属した時に組織の指導者と契約したことで、
母の命も母の物ではなくなってしまった。薬を撒かれて国民たちが苦しんだ時、母から・・。
過去の組織との契約の話を聞いたんだ!!
組織との契約を今となっては悔いてたんだけど、僕は・・。
脅されて、国民の命と母を守る為に、僕自身も契約を交わすしかなかった・・。」


後ろから入ってきたカイルは、金色の瞳を潤ませながら私を見ていた。

私の見た、カイルの過去の映像を思い出していた・・。

組織のメンバーから告げられた時の、苦悩し、苦しんでいた
カイルのあの表情の全てを私はやっと理解した。

「シア・・。ダラス様から全部聞いた。
君は「見る」力を持っていて、僕のために・・。
神力にかかった振りをして、一緒に来てくれたって話だったんだね?
自棄になって、あんな卑怯な力を大好きな君に使ってしまって恥ずかしいよ・・。
愚かな自分に反吐が出る。・・・本当にごめんね、シア。」

苦しそうに、瞳を揺らしたカイルと見つめ合った私は小さくその言葉に頷いた。



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