転生伯爵令嬢は、裏切り者からの寵愛に戸惑う。

館花陽月

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マルダリア王国の異変。

アルスタイン侯爵邸の一夜。④

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翌朝になって、開けられたままのカーテンからの光が当たって目を覚ました私は
シーツを身に纏って身体を起こすと、大きな枕の上ですやすや眠るレオを見下ろしていた。


さらっと柔らかいレオの金色の髪を撫でて私は水色の瞳を細めた。
その絹糸のような手触りの心地よさに口角を上げて微笑んでいた。


レオは、濃く長い睫毛を閉ざしたまま幸せそうに眠りについていた。

私の水色の瞳が激しく揺れていた。


ベッドに眠るレオを見下ろした私は、浅く深呼吸をして微笑んだ。

「これから・・・。どんな未来が待っていても愛してる。」

そう呟くと、ポツッと大粒の涙がシーツの上に置いていた手の甲に落とされた。

気が付くと、私の涙袋に溜まった透明な雫が頬を伝った。

「・・・ん。シア???起きたのか・・。おいで?」

レオが、眩しそうに私を見上げるとまだ眠そうな瞳を細めて笑っていた。

眼を擦りながらむくりと起きたレオの視線に入らないように私は下を向いた。

「レオったら。・・・もう、朝よ??起きなきゃ・・。」

パッと顔を反らした私の腕をレオが引いた。

「もう少しだけ・・。こうしていたい。いいか??」

「・・・はいはい。どうせ、腰痛くて動けないから好きにしていいわよ。」

私の身体に手を伸ばすと、レオの大きな腕の中に包み込む様に抱きかかえられた。
シーツに絡み取られて私はふかふかのベッドの上で抱きしめられていた。

冷えた身体を温めるようにレオの温かい胸の熱さを感じていた。

その体温と、心地よいその肌技りにほっとした私はゆっくりと濡れた睫毛を閉じた。


「どうした??顔色が悪いぞ、シア・・。また、悪い夢でも見たのか??」

レオの腕の中で、一瞬だけ思い出した悪夢が脳裏を霞めると
甘い香りの腕の中で私はぎゅっと唇を噛み締めていた。

「大丈夫!!あのね、今日の夢はエリザベートの破壊活動を必死で止めている夢だったから
怒りすぎちゃって疲れちゃったわ・・。そうだ、私ったら寝言叫んでなかったかしら??
夢にまでそんなの見たくないって言うのにね・・。」

レオの腕に必死にしがみ付いた私を不安そうに見下ろしたレオは黙ったまま
それ以上何も聞かずに、優しく私の髪を撫でてくれた。

籠の中で寝ていたリヴァイアサンとエリザベートの姿もそこには見当たらなかった。


朝の光が鮮やかにガラス戸からベッドに差し込んで、昨日の夜の騒々しさが信じられないほど
美しく穏やかな朝がやって来たのだった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


アルトハルト侯爵邸の一室。

二階の客間には、深夜零時を過ぎても明かりが煌々と輝いている部屋があった。

薬の匂いが充満しないように、部屋に取り付けられた大きな窓が3箇所とも大きく開かれていた。

「ふぁぁあぁっ・・!!
・・・・エーテル、この薬をその箱の中に入れてくれるかぁ??」

ルーカスが、欠伸をしながら作り上げた薬が入った瓶を2つエーテルへと手渡した。

「ええ、これを・・。あっちの箱でいいのよね??・・これが最後かしら??」

木箱は5つ分ビッシリと薬で埋まっていた。

驚くべき速さで、ルーカスが調合と神力を合わせた薬を作り出していく様子に
エーテルは感心した表情を向けながら、そのサポートを手伝っていた。

「ああ・・。ったく、クリスはよぉ・・。人使いが荒いからなぁ。どうせ、今頃・・。
城のどっかでぐっすり寝てんだろうなぁ。・・はぁ、不公平だ。」

どっかりと長机の上に両手を伸ばしたまま、体重をかけて項垂れたルーカス
を見てエーテルはクスクス笑っていた。

「お兄様も、敵地にユヴェール様とお2人でさぞや居心地の悪い思いをしていると
思うわよ??ルカ、お疲れ様・・・。朝までゆっくり休んで頂戴ね。」

銀色の髪をリボンで1つに束ねて腕まくりをしていたエーテルは、
労いの言葉をかけるとサラッと髪を揺らしながら美しい銀色の長い髪を下ろして微笑んだ。

その様子を机の上に伸びながら、ルーカスはジッと見つめていた。

「・・・おい、エーテル。一度聞いてみたかったんだけどよぉ・・。
何でお前、俺の事を避けるようになったんだぁ??
昔は、何処までも行く場所に着いて来て・・。こっちが困るぐらいだったじゃないか。
あんなに俺によーく懐いてくれてたのに意味が解んなくてなぁ・・??」

その言葉にギクリと硬直したエーテルは、ゆっくりと青い瞳で見上げたルーカスを真剣な
表情で見下ろした。

まだ身に着けたままのエプロンの裾をぎゅうっと掴むと、はぁと大きなため息を吐いた。

「そうねぇ・・。昔は大好きだったわ。
ううん、残念ながら。実は今でも大好きなのよ?ルーカス・・・。」

赤い瞳が細められて、哀しそうにふっと笑った。

エーテルが、伸びたままで驚きに目を見開いたままのルーカスの側へと近づいて来た。

「だけど、ルーカスは迷惑でしょう??バイコーンを召喚してから・・。
貴方は、前の実直さや誠実さとは程遠いほど尻軽男になったんだもの。
・・・ショックだったわ。だって、他の女性を抱いた手で私の頭を撫でるのよ??」

「は・・。お前、何言ってるんだ・・。馬鹿だろ??や、やめとけって。」

ルーカスは、焦って椅子から立つと真っ赤な顔を大きな右手で鼻まで隠して
不安気に目を泳がせていた。


その言葉に、傷ついたような痛みを浮かべたエーテルは悲しそうに涙を浮かべた。

「何で??馬鹿じゃないわ・・。ずっと、好きだったのよ??
・・何でバイコーンなの??
ルーカスの神獣・・。私と同じユニコーンだったら違った??
・・そんな、くだらない事を何十回も考えたわ。だけど、どんなに考えてもそれは仕方のない事。
召喚した神獣は、主に影響を与える場合が多いわ・・。
私が知っているルカはもういない。もう、いい加減に諦めたいのにっ・・!!」

泣きながら、自分よりも30センチは大きな長身のルーカスの胸をドンっと思い切り叩いた。


「そ、そこはなぁ・・・。お前、エーテルよぉ。
こんな節操のない男より、優しくて誠実でいい男は沢山いるだろう??俺なんか・・・。
絶対に駄目だ。お前には勿体ないんだからよぉ・・!!」

「止めてよ!!私の想いを否定しないで・・。
私だって、何でルカなのか分かんないんだから!!
節操なくて、酒飲みで・・。神獣まで女好きで、シルヴィアに馬乗りになるほどどスケベで・・。
一夜に何人もの女の人と、変態プレイも喜んでするルカなんかっ・・・。」

エーテルは、わなわなと震える身体でルーカスを責めるように睨みつけた。

その迫力は相当のものだったが、持ち前の美貌のせいでその涙に濡れた赤い瞳は美しく輝いていた。

「・・・おいおい。怖いぐらいよく知ってんなぁ・・。
変態プレイのくだりは何でお前が知ってんだよ?
・・・ああ。クリスか??」


ふうっと深いため息と共に、ルカは短髪の頭をがしがしかき上げた。

「そんなに、俺が好きならよぉ・・・。俺に抱かれてみるか?エーテル。」

その言葉に、ぴくりと眉を寄せて涙を濡らした瞳でルーカスを見上げたエーテルの顎を
大きな指が掴んだ。

頬をかっと染めたエーテルに覆い被さるように、ルーカスが身を屈めてエーテルの薄いピンク色の
唇に自分の唇を重ねた。

カッと頬を染めたエーテルは、長く続くその口づけに驚いて目を見開いたままま硬直を続けていた。
ルーカスは、ギシッとエーテルの後ろにあったソファへエーテルの腰を掴んでゆっくりと口付けを深めながら
運んでいく。

「ンッ・・・。ン・・・ああっ。」

ルーカスの荒い口づけは、何度もそこから逃れようとするエーテルの唇を逃さないように
覆い被さって執拗に嘗め回していた。

くたっとなったエーテルの身体を、ソファへと抱きかかえて降ろすとゆっくりとルーカスは唇を離した。

はぁはぁ・・。
と息を絶え絶えになったエーテルの紅潮した薔薇色の頬を見てふっと笑った。


「・・・どうだ??驚いただろ。
獣なんだよ、俺は・・。こうスイッチが入ると吸い付いて
放したくなくなってな。貪り尽くしてしまうんだよ・・。
確かにバイコーンを召喚してから、この欲求は尽きる事がなくて、渇いて仕方ないんだ・・。」

やるせない表情のルーカスは、哀しそうな表情でエーテルを見た。

エーテルの紅い瞳は、激しく揺れていた。

「もう、俺のことなんか諦めて幸せになれ。
こんな人でなしに関わっても、いいことなんかねぇよ!!」

エーテルに背を向けたルーカスは苦しそうに息を吐いた。

その時、大きな背中に細く白い手が巻き付いて驚いたルーカスが一瞬瞠目した。

「ルーカスお願い・・・。一度でいいの。
・・・私、貴方に抱かれたい!!」

カタカタと震えるエーテルの小さな肩の振動を感じて、ルーカスは後ろにいた
エーテルを振りむいて見下ろした。

小さな体と透き通るような白い肌・・・。

銀色の髪と紅く大きな瞳が印象的だった少女が自分を涙目で見上げていた。

「エーテル・・・??お前、馬鹿か??聞いてただろ・・。なのに何で??」

「だって・・。どうしても貴方が好きなの!!
もう諦めたいのに無理なの・・・。だから、最後でいい。お願い、私を抱いてルーカス!!」

その言葉に、ルーカスは一拍考えると自分よりも小さく華奢なエーテルの身体を抱き上げて
腰の高さで思い切り抱きしめた。

「・・馬鹿だな、お前!!こっちはよぉ・・。遠征で性欲が堪ってるんだぞ??
優しく抱いてやれないかもしれないんだぞ??いいのか???」

その言葉に、エーテルは目を大きく見開いて
涙を流したまま嬉しそうに頷いた。

覆い被さってきたルーカスの熱く激しいキスを小さな体で受け止めた。

エーテルは細い腕をルーカスの首に必死で巻き付けながら貪られるような口づけに
応えながら入ってきた大きな舌に蹂躙されて甘い声を上げていた。

見たこともない優しい表情を浮かべたルーカスは、ソファの上にエーテルを宝物のように
横たえると、逞しく大きな身体でエーテルを抱いた。

美しい紅色の瞳から零れる涙をペロリと舌で舐めると、幸せそうな表情を浮かべた
エーテルの頬に、何度も優しく唇を落として微笑んでいた。

月の輝く夜に、エーテルは長い間の初恋を終わらせる決意と共に
心から愛する者に抱かれたのだった。


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