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青薔薇の栄光。
マルダリア王城に咲く薔薇。⑦
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「キィッ・・。」
アンブリッジの部屋へと付き添ったユヴェールは、自分の母の部屋へと入出した。
一瞬、鼻に様々な種類の花の芳香が入って来た事に驚いて足を止めた。
「さぁ、ユヴェール、遠慮せずにお入りなさい。
・・そこのソファーにかけてね。今、美味しいお茶を用意させるわね??」
侍女に耳打ちして託けると、アンブリッジは嬉しそうにユヴェールに振り返って緑色の瞳を輝かせていた。
母の部屋は白い壁と白い床が広がり、美しく掃除が行き届いていた。
監禁されているような窮屈感は見いだせなかった。
「母上・・。あの・・。
自分には、急ぎの用があるんです。
それが片付いてからまたこちらでゆっくりと、お茶を頂くのでも宜しいでしょうか??
私の部屋に、クリスを待たせたままなので。」
「お言葉だけど、ユヴェール??
お茶を一杯だけ、離れていた母と頂く数分の時間すら猶予はないのかしら??そんなに急を要する用事って何かしら??
国王も、エヴァンがいない城で一人・・。
不安に一人で耐えてきた母に、そんな気使いや、慈悲の心を貴方は持ち合わせていないと言うのかしら??」
ユヴェールの腕を掴んだアンブリッジは悲しい表情を浮かべて、ユヴェールを見上げた
不安そうにカタカタ震えている母を、宥めるようにため息を吐いた。
「解りました・・。では、お茶を一杯だけ。
母上と一緒に頂きます。」
ユヴェールは手前のソファに母を座らせると、奥のソファにどっかりと腰かけた。
ユヴェール後ろから付き従っていた麒麟も、そっとソファ近くの絨毯の上に腰を下ろしていた。
「まぁ、嬉しいわ。
どんなに美味しいお茶でも、たった一人で飲むのはつまらないものなの。」
「母上、どうして兄上と父上は・・。
この城から姿を消してしまったのですか??」
ユヴェールの元に届けられたクリスの銀狼の伝聞では、危篤状況の父を連れたエヴァンがアルスタイン侯爵邸に逗留しており、シアからの治療を受けて一命を取り留めたとだけは聞いていた。
何があったのかは、直接兄に聞こうと思っていた。
「そうねぇ・・。
何の説明もなしに、国王と王太子はこの城を
捨てて、逃げるように出て行ったのよ。
無責任だと思わない??
その後、青薔薇の栄光と言う組織にこの城を占領されてしまって・・。
あの2人は国を捨てて、王城やそこに住まう家族すら売り渡してしまったようね。
私達は肩身の狭く、心細い思いをして来たわ。
・・意味も解らず飛び出して、いつ帰ってくるかも分からない夫と息子を待つ不安は相当な物よ?」
儚げな印象を持たせるように、線の細い母を心配そうに見上げたユヴェールの瞳には痛みと、苦悩の色が色濃く表れていた。
「あり得ない・・。
母上は、疑問に思わないのですか??
あの2人がこの国を手放したと??
この城を売ったなんてそんな事・・。
あの責任感の人一倍強い兄上が・・。
そんな事は、天変地異がひっくり返ったってある訳ないのに!!何かの間違いではないのですか??」
一瞬だけ、ユヴェールとアンブリッジの間に不穏な間が開いていた。
「お待たせしました。アンブリッジ様、お茶をお持ちしました。」
現れた侍女はティーセットと、三段に分けられたお皿に盛られた美しい甘未の並ぶ銀色の足をゆっくりと銀盆から降ろしていた。
くつろいだままの姿勢を取っていた麒麟は、クンクンと鼻を動かして芳しい紅茶の香りを嗅いでいた。
「私だってそう信じたかったのよ・・。
だけど、便り1つも届かないのよ??
何処にいるのかさえも告げずに、このような不便な
生活をいつまで続ければいいのかしら??
だから、ユヴェール。この国の第二王子である貴方が戻ってきてくれたことは僥倖に思うわ!!
これからは、貴方がこの国を守る為に・・・。
私と一緒に、手に手を取って頑張っていかなければ・・。ねぇ??」
美しい王妃は、赤い口紅がたっぷりと塗られた唇で口角を上げると運ばれてきたお茶のカップを自分の手に取った。
「母上、必ず兄上は父上を連れてこの城へと戻ってきますよ。信じてあげなくてはいけません。
きっと何か、深い理由があるのだと思うんです・・。」
カチャッ・・。
ユヴェールの前にも、芳しい香りの赤みの強い紅茶が置かれた。
「そうかしら・・。元々エヴァンは、何を考えているのか解らない子だったから。
得体のしれない恐ろしさがある子だったもの。」
「兄上は、誰よりもこの国の事を思って行動しておりましたよ??母上が兄上を信じてあげなくては、兄上が可哀そうです。」
母の呟きに、理解が出来ないユヴェールは首を振って否定した。
アンブリッジの、カップを持った手は小刻みに震えていた。
手前に置いてある紅茶の入ったカップの取っ手を掴んだユヴェールは、ぐいっと口に近づけようとした。
「グルルルン・・・!!ガルッ!!」
側に居た麒麟が、急に身体を起こすとユヴェールがカップを持ち上げた腕へと体当たりをした。
「うわっ・・。何をするんだよ!?
待て、落ち着いてくれ!!」
腕から麒麟を振り払った瞬間に持っていたカップが宙を舞った。
パシャッ・・。
パリーーーーーーン・・・・・。
驚いたまま呆気にとられたユヴェールの真下の床の絨毯には黒い染みが広がっていた。
麒麟は、唸りながらその染みに向かって吠えていた。
息を飲んだまま、絨毯の上から漂う甘い臭いに覚えがあったユヴェールは顔色を変えて母を見上げた。
バシッ・・!!
次の瞬間、アンブリッジはキツイ形相に代わると
麒麟の背中を真っ赤なハイヒールの靴で軽々と大きな巨体を蹴り上げた。
「ギュアオォォン・・・。」
キリンは、大きな身体を壁にバシッと叩きつけられるとズルズルと床に落ちて
震える身体でアンブリッジを見上げていた。
「お前という奴は・・。
主を裏切るなど許せぬっ!!
神獣の風上にもおけぬ愚行だろうがっ!?
こいつに、情でも移ったと言うのか??
馬鹿な息子に味方したことを・・・。
生涯悔いるといい!!」
更に強い光が空間を切り裂き、ビリッと強い雷のような光が麒麟の身体を直撃した。
「・・母上??!お止め下さいっ!!
何故、このような酷い事をっ!!」
「煩いっ!!・・・邪魔をするな!!
お前に、こいつに愚弄された私の気持ちが解るか!?」
ユヴェールは痛みを覚える麒麟の前に駆け寄って、ぎゅうっとその身体を抱きしめた。
「ごめんな。お前は庇ってくれたんだね。
痛かっただろうな・・。」
「ガルッ・・・。ガルルルッ。」
ユヴェールを見上げる緑色の瞳は、哀しそうに見えた。
僅かな神力を送り、麒麟の痛みを取ってやると喉を鳴らしていた麒麟の頭を優しく撫でた。
「この麒麟の主は・・。母上だと申しておりましたが、それはどういう事なんですか??
それにその神力・・・。
今まで知りませんでした。
母上に神力があることも、高位の神獣すらも軽々と吹き飛ばす程のその力の正体は何なのですか??」
ユヴェールは、頭を整理しながら荒く息を吐きながら母を見上げた。
兄上は・・。
父王は、この方から逃げたのか??
恐ろしく、得たいの知れない母は・・。
本当に、この方は私を産んでくれた母上なんだろうか??
ユヴェールは、不意にその真意に辿り着いた。
緑色の瞳は、信じられない物でも見るようにいつもは穏やかな母に底知れぬ恐怖を感じていたのだった。
「ふふふっ・・。あははははっ!!
愚息の中でも、更に平凡であったユヴェール。・・我が息子よ。
お前を産んだ母であるぞ??それには違いない。
ただし、私は・・・。青薔薇の栄光を率いていたエヴァンと対立を深めていてな・・。あいつと来たら・・。
アルトハルトや、この世界の破壊に散々反対していたのだよ。
煩わしいので、国王を殺すと脅していたのだが・・。あの出来損ないめ・・、父王を連れてここから逃げ出したのだよ。」
「解るか??
あいつは、この私に恐れをなして私から逃げたのだ・・!!
この城を捨て、国民すらも捨ててな・・。ふはははっ。エヴァンは、情けない王太子であるな!!あはははっ!!」
目の前で高笑いをしている女性は、
誰なんだ??
今まで、知っている母ではない恐ろしい異形の化け物ではないのか・・。
「あ・・。兄上が、・・青薔薇の栄光の??
まさか・・。
それに、母上が父上を殺そうとした?
全然解らないよ・・!!
これは、今起こっていることは何なのか・・??どういう意味なのですかっ??」
それに、尊敬する兄は青薔薇の栄光を率いてたってことも頭を鈍器で殴られたような衝撃を感じていた。
「お前の神獣の麒麟は、元々私の手の者なのだ。
お前の神力など微々たる物。
本来は、エヴァンなどではなく、お前を後継にしたかったのに。
ユヴェール、お前には、その才がなくてな。
・・・アルトハルトに行く事が決まり、私の麒麟を貸してやったのだ。それに、お前は・・。
その神獣の本来の使い道を知らぬだろう??」
その言葉に、衝撃を受けたユヴェールは後ろで唸り声を上げていた麒麟を信じられない表情で振り返っていた。
心なしか、麒麟もユヴェールを潤んだ瞳で見上げていた。
まるで、ごめんなさいとでも伝えるようなその瞳にユヴェールは涙を堪えて震えていた。
「いいんだ・・。」
そう伝えるように、ユヴェールは麒麟の頭にそっと手を置くと母の方に振り返って立ち上がった。
「そうか・・。道理で。
何故あのタイミングで母上が僕の部屋にやって来たのかって・・。ずっとぐるぐる頭の中で考えていました。ここはアルトハルトではない!!
何故、母上の口から神獣と言う言葉が出るのか・・。ずっと引っかかっていたんだ!!」
「神力は少ないようだが、お前、頭はそこまでは悪くないようだね??どうしてお前をここに呼び出したかは・・。察してはいるのか・・??」
いつものように優しい母の口調ではなかった。
ユヴェールを嘲るように見下ろす母に、痛みを覚えていた。
「何かの役割を・・、俺に担わせるつもりだろうね。母上の残虐さは、先ほどの言葉からヒシヒシと伝わって来るよ・・!!
信じられない現実に頭が痛いが・・、事実として受け入れるしかなさそうだね??僕は貴方には従わない!!貴方に敵対する勢力に与する者なんだ。」
「残念だよ、母上・・。
貴方の味方は出来ない!!・・失礼する。」
ユヴェールは軽蔑したような眼差しで、母を見るとゆっくりと部屋の出口のドアに向かって歩を進めた。
背を向けたユヴェールを見つめるアンブリッジは不敵な笑みを浮かべていた。
「逃がすか・・。愚か者が。」
アンブリッジがソファの上から立ち上がって、ユヴェールの方へと口角を上げて笑っていた。
「バターーーーン・・。」
拒んで、逃げようとした麒麟を睨みつけて従わせると、アンブリッジはユヴェールが出ようとするドアの取っ手を神力で壊して閉じ込めた。
「えっ・・??あれ??何で??
・・可笑しいな??出れないんだけど!!」
麒麟の首を掴んだアンブリッジはズルズルと大きな身体を担ぎ上げてユヴェールの側へと歩き出した。
焦りの色を浮かべたユヴェールは、不穏な気配を感じて後ろを振り返った。
同じ色の碧の瞳と目が合ったユヴェールは、ゾッと圧倒されるような
底知れぬ寒気が全身を駆け抜けた。
「・・・ちょっと。何をしているんです??
母上。その手を離してくださいっ!!」
「お前が知らずに可愛がってきた恐ろしい力を持っているのだ・・。この神獣、麒麟はな・・。
特殊な神力を使うことが出来るのだ。
お前はまだ、知らぬのだろう??」
ユヴェールは、麒麟の瞳と目が合うとぐらりと身体から力が抜けていくような不思議な感覚に襲われていた。
「人の心をただ静かに・・。
奪うことが出来るのだ。ククッ・・。
あはははっ!!」
アンブリッジの部屋へと付き添ったユヴェールは、自分の母の部屋へと入出した。
一瞬、鼻に様々な種類の花の芳香が入って来た事に驚いて足を止めた。
「さぁ、ユヴェール、遠慮せずにお入りなさい。
・・そこのソファーにかけてね。今、美味しいお茶を用意させるわね??」
侍女に耳打ちして託けると、アンブリッジは嬉しそうにユヴェールに振り返って緑色の瞳を輝かせていた。
母の部屋は白い壁と白い床が広がり、美しく掃除が行き届いていた。
監禁されているような窮屈感は見いだせなかった。
「母上・・。あの・・。
自分には、急ぎの用があるんです。
それが片付いてからまたこちらでゆっくりと、お茶を頂くのでも宜しいでしょうか??
私の部屋に、クリスを待たせたままなので。」
「お言葉だけど、ユヴェール??
お茶を一杯だけ、離れていた母と頂く数分の時間すら猶予はないのかしら??そんなに急を要する用事って何かしら??
国王も、エヴァンがいない城で一人・・。
不安に一人で耐えてきた母に、そんな気使いや、慈悲の心を貴方は持ち合わせていないと言うのかしら??」
ユヴェールの腕を掴んだアンブリッジは悲しい表情を浮かべて、ユヴェールを見上げた
不安そうにカタカタ震えている母を、宥めるようにため息を吐いた。
「解りました・・。では、お茶を一杯だけ。
母上と一緒に頂きます。」
ユヴェールは手前のソファに母を座らせると、奥のソファにどっかりと腰かけた。
ユヴェール後ろから付き従っていた麒麟も、そっとソファ近くの絨毯の上に腰を下ろしていた。
「まぁ、嬉しいわ。
どんなに美味しいお茶でも、たった一人で飲むのはつまらないものなの。」
「母上、どうして兄上と父上は・・。
この城から姿を消してしまったのですか??」
ユヴェールの元に届けられたクリスの銀狼の伝聞では、危篤状況の父を連れたエヴァンがアルスタイン侯爵邸に逗留しており、シアからの治療を受けて一命を取り留めたとだけは聞いていた。
何があったのかは、直接兄に聞こうと思っていた。
「そうねぇ・・。
何の説明もなしに、国王と王太子はこの城を
捨てて、逃げるように出て行ったのよ。
無責任だと思わない??
その後、青薔薇の栄光と言う組織にこの城を占領されてしまって・・。
あの2人は国を捨てて、王城やそこに住まう家族すら売り渡してしまったようね。
私達は肩身の狭く、心細い思いをして来たわ。
・・意味も解らず飛び出して、いつ帰ってくるかも分からない夫と息子を待つ不安は相当な物よ?」
儚げな印象を持たせるように、線の細い母を心配そうに見上げたユヴェールの瞳には痛みと、苦悩の色が色濃く表れていた。
「あり得ない・・。
母上は、疑問に思わないのですか??
あの2人がこの国を手放したと??
この城を売ったなんてそんな事・・。
あの責任感の人一倍強い兄上が・・。
そんな事は、天変地異がひっくり返ったってある訳ないのに!!何かの間違いではないのですか??」
一瞬だけ、ユヴェールとアンブリッジの間に不穏な間が開いていた。
「お待たせしました。アンブリッジ様、お茶をお持ちしました。」
現れた侍女はティーセットと、三段に分けられたお皿に盛られた美しい甘未の並ぶ銀色の足をゆっくりと銀盆から降ろしていた。
くつろいだままの姿勢を取っていた麒麟は、クンクンと鼻を動かして芳しい紅茶の香りを嗅いでいた。
「私だってそう信じたかったのよ・・。
だけど、便り1つも届かないのよ??
何処にいるのかさえも告げずに、このような不便な
生活をいつまで続ければいいのかしら??
だから、ユヴェール。この国の第二王子である貴方が戻ってきてくれたことは僥倖に思うわ!!
これからは、貴方がこの国を守る為に・・・。
私と一緒に、手に手を取って頑張っていかなければ・・。ねぇ??」
美しい王妃は、赤い口紅がたっぷりと塗られた唇で口角を上げると運ばれてきたお茶のカップを自分の手に取った。
「母上、必ず兄上は父上を連れてこの城へと戻ってきますよ。信じてあげなくてはいけません。
きっと何か、深い理由があるのだと思うんです・・。」
カチャッ・・。
ユヴェールの前にも、芳しい香りの赤みの強い紅茶が置かれた。
「そうかしら・・。元々エヴァンは、何を考えているのか解らない子だったから。
得体のしれない恐ろしさがある子だったもの。」
「兄上は、誰よりもこの国の事を思って行動しておりましたよ??母上が兄上を信じてあげなくては、兄上が可哀そうです。」
母の呟きに、理解が出来ないユヴェールは首を振って否定した。
アンブリッジの、カップを持った手は小刻みに震えていた。
手前に置いてある紅茶の入ったカップの取っ手を掴んだユヴェールは、ぐいっと口に近づけようとした。
「グルルルン・・・!!ガルッ!!」
側に居た麒麟が、急に身体を起こすとユヴェールがカップを持ち上げた腕へと体当たりをした。
「うわっ・・。何をするんだよ!?
待て、落ち着いてくれ!!」
腕から麒麟を振り払った瞬間に持っていたカップが宙を舞った。
パシャッ・・。
パリーーーーーーン・・・・・。
驚いたまま呆気にとられたユヴェールの真下の床の絨毯には黒い染みが広がっていた。
麒麟は、唸りながらその染みに向かって吠えていた。
息を飲んだまま、絨毯の上から漂う甘い臭いに覚えがあったユヴェールは顔色を変えて母を見上げた。
バシッ・・!!
次の瞬間、アンブリッジはキツイ形相に代わると
麒麟の背中を真っ赤なハイヒールの靴で軽々と大きな巨体を蹴り上げた。
「ギュアオォォン・・・。」
キリンは、大きな身体を壁にバシッと叩きつけられるとズルズルと床に落ちて
震える身体でアンブリッジを見上げていた。
「お前という奴は・・。
主を裏切るなど許せぬっ!!
神獣の風上にもおけぬ愚行だろうがっ!?
こいつに、情でも移ったと言うのか??
馬鹿な息子に味方したことを・・・。
生涯悔いるといい!!」
更に強い光が空間を切り裂き、ビリッと強い雷のような光が麒麟の身体を直撃した。
「・・母上??!お止め下さいっ!!
何故、このような酷い事をっ!!」
「煩いっ!!・・・邪魔をするな!!
お前に、こいつに愚弄された私の気持ちが解るか!?」
ユヴェールは痛みを覚える麒麟の前に駆け寄って、ぎゅうっとその身体を抱きしめた。
「ごめんな。お前は庇ってくれたんだね。
痛かっただろうな・・。」
「ガルッ・・・。ガルルルッ。」
ユヴェールを見上げる緑色の瞳は、哀しそうに見えた。
僅かな神力を送り、麒麟の痛みを取ってやると喉を鳴らしていた麒麟の頭を優しく撫でた。
「この麒麟の主は・・。母上だと申しておりましたが、それはどういう事なんですか??
それにその神力・・・。
今まで知りませんでした。
母上に神力があることも、高位の神獣すらも軽々と吹き飛ばす程のその力の正体は何なのですか??」
ユヴェールは、頭を整理しながら荒く息を吐きながら母を見上げた。
兄上は・・。
父王は、この方から逃げたのか??
恐ろしく、得たいの知れない母は・・。
本当に、この方は私を産んでくれた母上なんだろうか??
ユヴェールは、不意にその真意に辿り着いた。
緑色の瞳は、信じられない物でも見るようにいつもは穏やかな母に底知れぬ恐怖を感じていたのだった。
「ふふふっ・・。あははははっ!!
愚息の中でも、更に平凡であったユヴェール。・・我が息子よ。
お前を産んだ母であるぞ??それには違いない。
ただし、私は・・・。青薔薇の栄光を率いていたエヴァンと対立を深めていてな・・。あいつと来たら・・。
アルトハルトや、この世界の破壊に散々反対していたのだよ。
煩わしいので、国王を殺すと脅していたのだが・・。あの出来損ないめ・・、父王を連れてここから逃げ出したのだよ。」
「解るか??
あいつは、この私に恐れをなして私から逃げたのだ・・!!
この城を捨て、国民すらも捨ててな・・。ふはははっ。エヴァンは、情けない王太子であるな!!あはははっ!!」
目の前で高笑いをしている女性は、
誰なんだ??
今まで、知っている母ではない恐ろしい異形の化け物ではないのか・・。
「あ・・。兄上が、・・青薔薇の栄光の??
まさか・・。
それに、母上が父上を殺そうとした?
全然解らないよ・・!!
これは、今起こっていることは何なのか・・??どういう意味なのですかっ??」
それに、尊敬する兄は青薔薇の栄光を率いてたってことも頭を鈍器で殴られたような衝撃を感じていた。
「お前の神獣の麒麟は、元々私の手の者なのだ。
お前の神力など微々たる物。
本来は、エヴァンなどではなく、お前を後継にしたかったのに。
ユヴェール、お前には、その才がなくてな。
・・・アルトハルトに行く事が決まり、私の麒麟を貸してやったのだ。それに、お前は・・。
その神獣の本来の使い道を知らぬだろう??」
その言葉に、衝撃を受けたユヴェールは後ろで唸り声を上げていた麒麟を信じられない表情で振り返っていた。
心なしか、麒麟もユヴェールを潤んだ瞳で見上げていた。
まるで、ごめんなさいとでも伝えるようなその瞳にユヴェールは涙を堪えて震えていた。
「いいんだ・・。」
そう伝えるように、ユヴェールは麒麟の頭にそっと手を置くと母の方に振り返って立ち上がった。
「そうか・・。道理で。
何故あのタイミングで母上が僕の部屋にやって来たのかって・・。ずっとぐるぐる頭の中で考えていました。ここはアルトハルトではない!!
何故、母上の口から神獣と言う言葉が出るのか・・。ずっと引っかかっていたんだ!!」
「神力は少ないようだが、お前、頭はそこまでは悪くないようだね??どうしてお前をここに呼び出したかは・・。察してはいるのか・・??」
いつものように優しい母の口調ではなかった。
ユヴェールを嘲るように見下ろす母に、痛みを覚えていた。
「何かの役割を・・、俺に担わせるつもりだろうね。母上の残虐さは、先ほどの言葉からヒシヒシと伝わって来るよ・・!!
信じられない現実に頭が痛いが・・、事実として受け入れるしかなさそうだね??僕は貴方には従わない!!貴方に敵対する勢力に与する者なんだ。」
「残念だよ、母上・・。
貴方の味方は出来ない!!・・失礼する。」
ユヴェールは軽蔑したような眼差しで、母を見るとゆっくりと部屋の出口のドアに向かって歩を進めた。
背を向けたユヴェールを見つめるアンブリッジは不敵な笑みを浮かべていた。
「逃がすか・・。愚か者が。」
アンブリッジがソファの上から立ち上がって、ユヴェールの方へと口角を上げて笑っていた。
「バターーーーン・・。」
拒んで、逃げようとした麒麟を睨みつけて従わせると、アンブリッジはユヴェールが出ようとするドアの取っ手を神力で壊して閉じ込めた。
「えっ・・??あれ??何で??
・・可笑しいな??出れないんだけど!!」
麒麟の首を掴んだアンブリッジはズルズルと大きな身体を担ぎ上げてユヴェールの側へと歩き出した。
焦りの色を浮かべたユヴェールは、不穏な気配を感じて後ろを振り返った。
同じ色の碧の瞳と目が合ったユヴェールは、ゾッと圧倒されるような
底知れぬ寒気が全身を駆け抜けた。
「・・・ちょっと。何をしているんです??
母上。その手を離してくださいっ!!」
「お前が知らずに可愛がってきた恐ろしい力を持っているのだ・・。この神獣、麒麟はな・・。
特殊な神力を使うことが出来るのだ。
お前はまだ、知らぬのだろう??」
ユヴェールは、麒麟の瞳と目が合うとぐらりと身体から力が抜けていくような不思議な感覚に襲われていた。
「人の心をただ静かに・・。
奪うことが出来るのだ。ククッ・・。
あはははっ!!」
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