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平均点取れないラジオ
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2023年6月29日(木)。
通葉市のFMラジオ局「ツバメFM」でパーソナリティを務める佐竹友則は、6分後に迫る生放送の進行の最終確認をしていた。
「えーと、今日のお便りは、大学でパッとしない『飛べないツバメ』ちゃんと、仕事場の人間関係が微妙な『走りたくないダチョウ』くんか」
番組タイトルは「平均点取れないラジオ」。
人生どん底とまではいかないのだが、もう少しのところで「普通」に届かない、つまり「平均点を取れない」人生を送っていると感じるリスナーから、パーソナリティの友則に相談のお便りが届くというコーナーである。
時計は23時29分を指している。番組開始は23時30分だ。
「本番5秒前、4、3、…」
ディレクターの声が小さなガラス張りの部屋に響いた。
「はい、始まりました、『平均点取れないラジオ』。お相手は私佐竹友則で、今夜も元気にお送りいたします!」
友則はいつものように、機械のようにハキハキと喋り出した。あまりにスムーズで、人間らしさがほぼ感じられない。
「今日最初のお便りは、ペンネーム 飛べないツバメちゃん からです」
友則はお便りを読み始めた。
「トモさんこんばんは。私は今年から通葉大に入学しましたが、思ってるような大学生活を遅れていません。友達はおとなしい子ばかりだしサークルでも彼氏が見つかりそうにないし…もっとキラキラしたいんです。勉強もサークルもそれなりに楽しいので、大きな不満はないんですけど、このギリギリ平均点に届かない私の人生に助言をください」
よくある、大学生の「普通のお便り」だ。
「なるほどなぁ。大学だけが全てじゃないからさ、学校の外にも楽しみを見出すのはどうだろう?例えばバイトとかさ…」
◇
「なになに、『平均点取れないラジオ』?こんなコーナーあるんだ。聞いてみよっと」
「平均点取れないラジオ」を聞いているのは、通葉学院大学メディア情報学部2年生の猪子奈々。
今年からラジオ放送を専攻しており、勉強も兼ねて地元のラジオを聴いているというわけである。
「続いてのお便りは、ペンネーム 走りたくないダチョウ くんからです」
相変わらず機械のように淡々と番組を進める友則。奈々は少し訝しげな表情で友則の声を聞いた。
「ダチョウくん、仕事ってなかなかうまく行かないもんなんだよ。7割しんどくて、残りの3割がちょっと楽しいくらいで上出来なんだ。君の人生、俺は平均点を優に超えてると思うけどね」
「なんか普通のことしか言ってないわね…。これでラジオ番組が成り立つのかしら」
奈々には、友則の発言に深みや親身さが感じられなかった。ありふれた無難なことばかりを話す友則に、奈々はあまり好印象を持てずにいる。
「なんか、全然面白くないわけじゃないんだけど、いまひとつ特徴がないのよねこの番組…あ!」
「実は『平均点取れない』って、この番組自体のことなのね」
通葉市のFMラジオ局「ツバメFM」でパーソナリティを務める佐竹友則は、6分後に迫る生放送の進行の最終確認をしていた。
「えーと、今日のお便りは、大学でパッとしない『飛べないツバメ』ちゃんと、仕事場の人間関係が微妙な『走りたくないダチョウ』くんか」
番組タイトルは「平均点取れないラジオ」。
人生どん底とまではいかないのだが、もう少しのところで「普通」に届かない、つまり「平均点を取れない」人生を送っていると感じるリスナーから、パーソナリティの友則に相談のお便りが届くというコーナーである。
時計は23時29分を指している。番組開始は23時30分だ。
「本番5秒前、4、3、…」
ディレクターの声が小さなガラス張りの部屋に響いた。
「はい、始まりました、『平均点取れないラジオ』。お相手は私佐竹友則で、今夜も元気にお送りいたします!」
友則はいつものように、機械のようにハキハキと喋り出した。あまりにスムーズで、人間らしさがほぼ感じられない。
「今日最初のお便りは、ペンネーム 飛べないツバメちゃん からです」
友則はお便りを読み始めた。
「トモさんこんばんは。私は今年から通葉大に入学しましたが、思ってるような大学生活を遅れていません。友達はおとなしい子ばかりだしサークルでも彼氏が見つかりそうにないし…もっとキラキラしたいんです。勉強もサークルもそれなりに楽しいので、大きな不満はないんですけど、このギリギリ平均点に届かない私の人生に助言をください」
よくある、大学生の「普通のお便り」だ。
「なるほどなぁ。大学だけが全てじゃないからさ、学校の外にも楽しみを見出すのはどうだろう?例えばバイトとかさ…」
◇
「なになに、『平均点取れないラジオ』?こんなコーナーあるんだ。聞いてみよっと」
「平均点取れないラジオ」を聞いているのは、通葉学院大学メディア情報学部2年生の猪子奈々。
今年からラジオ放送を専攻しており、勉強も兼ねて地元のラジオを聴いているというわけである。
「続いてのお便りは、ペンネーム 走りたくないダチョウ くんからです」
相変わらず機械のように淡々と番組を進める友則。奈々は少し訝しげな表情で友則の声を聞いた。
「ダチョウくん、仕事ってなかなかうまく行かないもんなんだよ。7割しんどくて、残りの3割がちょっと楽しいくらいで上出来なんだ。君の人生、俺は平均点を優に超えてると思うけどね」
「なんか普通のことしか言ってないわね…。これでラジオ番組が成り立つのかしら」
奈々には、友則の発言に深みや親身さが感じられなかった。ありふれた無難なことばかりを話す友則に、奈々はあまり好印象を持てずにいる。
「なんか、全然面白くないわけじゃないんだけど、いまひとつ特徴がないのよねこの番組…あ!」
「実は『平均点取れない』って、この番組自体のことなのね」
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