ぎらす屋ぎらすのショートショート集

11時か23時か

2020年5月10日。

「いや、だから、今時の人は分かるんですよこれで」

営業職として勤務する浦沢丈は、エリアマネージャーの木田武蔵に対して声を荒げた。

「私らみたいなじじいには、『15時』なんて言っても通じないんだよ！」

争いのタネはなんともつまらないもので、
会議で配布する予定表の時刻を24時間表記にするかどうかということである。

「24時間表記にすれば、『午後12時』だの『午前12時』だの、そんな争いは起きなくて済むんです！」

正論と言えば正論なのだが、丈は毎日1日14時半ほど働かされていることに対する怒りをぶつけるように大きな声を出す。

「いや、しかしだな浦沢くん…」

議論、とすら呼べないバカみたいな言い争いは平行線。結局書類は完成しないまま会議は終わってしまった。



◇


翌日、午前9時。

「あれ、まだ浦沢くんがきていないじゃないか。蒔田くん、浦沢くんに連絡してくれ」

先月大学を卒業して入社したばかりの蒔田和也が、丈に電話をかけた。

「あ、もしもし、浦沢先輩ですか、本日9時から会議ということでお伝えしていたと思うんですが」

「ちょっと木田マネージャーに代わって」

丈は淡々とした声で蒔田に言った。

「あ、もしもし浦沢くん、困るなぁこんなことされちゃ。会議はもう始まってるんだよ」

「24時間馬車馬のように働かせておいて、12時間表記で勤務時間を伝えるなんてどうかしてますよ。私はてっきり午後9時から会議だと思ってました」