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15. 自己肯定感に関するディスカッション 後編
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後半のディスカッションが始まった。
今度は自分の良いところではなく、グループのメンバーの良いところを言い合うというワークである。おそらく、大半の中学生はこちらの方が得意であろう。
思春期に差し掛かったところの子どもにとって、異性の入り混じるグループで互いを褒め合うというのは多少恥ずかしい部分もあるかもしれないが、自分自身のことをほめるよりは幾分かマシであることが容易に想像できる。
「はい、そしたら次はグループメンバーを褒め合ってください。どんな形式でも結構です。とにかくみんなの良いところを見つけまくってね!」
先ほどのディスカッションの流れでいくならば、光が真っ先に口を開いてイニシアチブを取ろうとするはずなのだが、先ほどとは打って変わって彼女は何も話さない。
光以外の4人は光が話し出すのを少しの間待っていたが、彼女が何も言わないことがわかると一気に話し出した。
「ノリはさあ、心に響く言葉が多いんだよね。ぼく、結構君の言葉に助けられてるよ」
聡馬が嬉しそうに語った。
聡馬とノリは小さいころから仲が良く、度々お互いの家を行き来していた。運動が苦手で人付き合いも得意ではなかった幼少期の聡馬にとって、ノリは唯一といってもよい友達だったのだ。
「5年生くらいだったかな、ノリがぼくと仲良くしている姿を学校で見て、他のノリの友達がぼくにも話しかけてくれたんだ。それまでは全然友達もいなかったんだけどさ。何人かが集まって来た時にノリが『聡馬はすげえ面白いやつだよ。1日1回は場爆笑させてくれるんだ』って言ってくれて。それで僕は小学校の時に抱えてた心のモヤモヤをすべて捨て去ることができたんだ」
人前で話すのが苦手な聡馬がこんなに長文を話すなんて。幼馴染であるノリですらも驚いた。
「へえ、石原君、すごく感動的だわ。二人の友情がはっきり見える。そういえばクラスでもよく話してるもんね」
みなみは感心した。
「ノリ、君がみんなのことを褒めてみてよ。君は誰かのいいところを見つけるのが本当に上手ってのはぼくが一番よく知ってるんだからね」
「あ、ああ。そしたらいくよ。まず林さんから行きますか。林さんの話し方はものすごくゆったりしていて優しくて、聞いてて落ち着くよね」
「え、ええ、なんか恥ずかしい。面と向かって男の子に褒められたことなんてないんだもん」
みなみは真っ赤な顔をした。みなみも心美同様、両親から強い圧力を受けて育ったためか誰かに褒められた経験なんてほとんどないのだ。
「それから林さんは…」
ディスカッションは大いに盛り上がった。しかしながらこの間、全く口を開かなかった人物が1人だけいる。光だ。自分の良いところを言う時のマシンガントークは一体どこに行ってしまったのか。
結局光は互いを褒め合う輪の中に入ることすらできず、授業終了のチャイムが鳴った。
ノリは聡馬と一緒に下校することにした。やはり話題は光のことだ。
「聡馬、あの佐野光っていう子、みんなで褒め合ってるときに何にも言わなかったよね。どうしたんだろう?」
「あくまでも俺の予想なんだけどさ」
聡馬の名推理が始まった。
「きっと自分より相手の方が立場が上っていうのが許せないんだろうね。あの子でしょ、スクールカーストがどうこうってずっと言ってるの。自分が一番上に立って全部思い通りにしたいんだろうねきっと。誰かを褒めちゃうと、自分の方が下てことを認めることになるって考えてるんだよ」
聡馬は幼少期にはノリ以外にほとんど友達がおらず、ノリとクラスが違う時はずっと教室で人間観察をしていたらしい。そのため、クラス全体の序列や、それぞれのカテゴリに属する子たちの典型的な考え方等には詳しい。スクールカースト上位を狙う子には聡馬が言うような発想が多いようだ。
ノリはそんな光に興味深々である。もちろん、女子としてではなく、思春期における自己肯定感についての研究対象として。
今度は自分の良いところではなく、グループのメンバーの良いところを言い合うというワークである。おそらく、大半の中学生はこちらの方が得意であろう。
思春期に差し掛かったところの子どもにとって、異性の入り混じるグループで互いを褒め合うというのは多少恥ずかしい部分もあるかもしれないが、自分自身のことをほめるよりは幾分かマシであることが容易に想像できる。
「はい、そしたら次はグループメンバーを褒め合ってください。どんな形式でも結構です。とにかくみんなの良いところを見つけまくってね!」
先ほどのディスカッションの流れでいくならば、光が真っ先に口を開いてイニシアチブを取ろうとするはずなのだが、先ほどとは打って変わって彼女は何も話さない。
光以外の4人は光が話し出すのを少しの間待っていたが、彼女が何も言わないことがわかると一気に話し出した。
「ノリはさあ、心に響く言葉が多いんだよね。ぼく、結構君の言葉に助けられてるよ」
聡馬が嬉しそうに語った。
聡馬とノリは小さいころから仲が良く、度々お互いの家を行き来していた。運動が苦手で人付き合いも得意ではなかった幼少期の聡馬にとって、ノリは唯一といってもよい友達だったのだ。
「5年生くらいだったかな、ノリがぼくと仲良くしている姿を学校で見て、他のノリの友達がぼくにも話しかけてくれたんだ。それまでは全然友達もいなかったんだけどさ。何人かが集まって来た時にノリが『聡馬はすげえ面白いやつだよ。1日1回は場爆笑させてくれるんだ』って言ってくれて。それで僕は小学校の時に抱えてた心のモヤモヤをすべて捨て去ることができたんだ」
人前で話すのが苦手な聡馬がこんなに長文を話すなんて。幼馴染であるノリですらも驚いた。
「へえ、石原君、すごく感動的だわ。二人の友情がはっきり見える。そういえばクラスでもよく話してるもんね」
みなみは感心した。
「ノリ、君がみんなのことを褒めてみてよ。君は誰かのいいところを見つけるのが本当に上手ってのはぼくが一番よく知ってるんだからね」
「あ、ああ。そしたらいくよ。まず林さんから行きますか。林さんの話し方はものすごくゆったりしていて優しくて、聞いてて落ち着くよね」
「え、ええ、なんか恥ずかしい。面と向かって男の子に褒められたことなんてないんだもん」
みなみは真っ赤な顔をした。みなみも心美同様、両親から強い圧力を受けて育ったためか誰かに褒められた経験なんてほとんどないのだ。
「それから林さんは…」
ディスカッションは大いに盛り上がった。しかしながらこの間、全く口を開かなかった人物が1人だけいる。光だ。自分の良いところを言う時のマシンガントークは一体どこに行ってしまったのか。
結局光は互いを褒め合う輪の中に入ることすらできず、授業終了のチャイムが鳴った。
ノリは聡馬と一緒に下校することにした。やはり話題は光のことだ。
「聡馬、あの佐野光っていう子、みんなで褒め合ってるときに何にも言わなかったよね。どうしたんだろう?」
「あくまでも俺の予想なんだけどさ」
聡馬の名推理が始まった。
「きっと自分より相手の方が立場が上っていうのが許せないんだろうね。あの子でしょ、スクールカーストがどうこうってずっと言ってるの。自分が一番上に立って全部思い通りにしたいんだろうねきっと。誰かを褒めちゃうと、自分の方が下てことを認めることになるって考えてるんだよ」
聡馬は幼少期にはノリ以外にほとんど友達がおらず、ノリとクラスが違う時はずっと教室で人間観察をしていたらしい。そのため、クラス全体の序列や、それぞれのカテゴリに属する子たちの典型的な考え方等には詳しい。スクールカースト上位を狙う子には聡馬が言うような発想が多いようだ。
ノリはそんな光に興味深々である。もちろん、女子としてではなく、思春期における自己肯定感についての研究対象として。
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