謎ルールに立ち向かう中1

ぎらす屋ぎらす

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20. 女子も野球がしたい 前編

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5月30日(水)。

人生初の定期テストも終わり、再び日常が戻ってきた。とはいっても先月入学したばかりの中学生にとっては、まだ非日常の連続なのかもしれない。
梅雨が近づいてはいるものの、夕方の外の空気は心地よい。ノリは部活を終え、帰宅した。
ノリは夕食時には必ずプロ野球を見ることにしており、今日もいつものように、成長期の体に白米を流し込みながらテレビをつけた。ノリは自分の住む県をホームグラウンドにしている通葉ロンディーニの大ファンであり、毎日試合結果や選手の成績、その他球団の情報をしっかりチェックしている。

「あれ、試合やってない。雨天中止か」

ノリが住む地域とロンディーニのホーム球場は少し離れた位置にあり、県内でも大きく気候が違うことがある。ノリが住む地域は今日一日は非常に天気が良かったにもかかわらず、ロンディーニスタジアム付近は大雨のようだ。

「くそう、今日は大物大卒ルーキー鳩山が先発だったのに」

ノリは残念そうにチャンネルを変える。ケーブルテレビの別のスポーツチャンネルを見ると、見覚えのないユニフォームを着た集団が野球をしている。選手たちはとても小柄で、長髪の選手もたくさんいる。

「何だろうこの人たち。昔流行ったヤンキー野球部ドラマかなんかかな?それにしてはカメラワークが妙にリアルだな…」

次の瞬間、ノリは目を疑った。

「え、全員女の子じゃん!」

ノリが見ているのは女子プロ野球、通葉ジュピターズ対東京サタンズの試合だったのだ。

「女子プロ野球なんて存在すら知らなかったなあ。でも、女の子が野球ってどうなんだろう。ちょっと見てみるか」

2回裏、ジュピターズの攻撃が始まった。初回は三者凡退だったようで、4番の西畑美紀内野手が打席に立っていた。

「おお、打率 .452って。恐ろしい数字だな」

中継を聞くところによると、西畑は全日本でも4番を打ち、世界最高の打者とも呼ばれているらしい。入団以来打率4割をキープし続けている、モンスターのようなスラッガーだ。
ノリは打席の西畑を見つめる。ものすごいバットコントロールだ。きわどい球に食らいつき、ファウルを連発する。

「ひええ、粘るなあ。打撃技術はものすごいぞこれ」

ノリはすっかり西畑のファンになってしまった。

(カキーーーーン)

少し目を離した隙に、テレビ越しでもびっくりしてしまうほどのものすごい音が鳴り響いた。

「西畑の打球は!もう誰も追わない!どんどん伸びて!伸びて!防球ネットに直撃しました!西畑、今季第1号の特大ソロホームラン!」

ノリは度肝を抜かれた。男子プロ野球でもなかなか見られないような、まさに目の覚める打球。
ダイヤモンドを回る西畑の表情から、

「女の子だって野球がしたい。男子だけのものじゃない」

という思いを感じた。





翌日、ノリは光二軍団に女子プロ野球の話をした。

「でもさ、女子プロ野球ってレベル低いんじゃないの?見たことはないけど、男子の方が見てて面白いよ絶対」

なーちゃんが言う。

「いや。それがさ、120m級のホームランが出たんだよ昨日。ピッチャーの球も120km/hくらい出てたし、守備もうまかったよ」

「いやあ、でも野球って男の子がやるもんでしょ。女子はソフトボールがあるじゃん」

優子にも偏見があるようだ。ノリにはなぜ女子が野球をやることが許せない人がいるのか全く理解できなかった。
そんな憤りを覚える中、1人の女子がノリに話しかけてきた。ソフトボール部の北尾えりなだ。
彼女は4月に書き、現在は教室の掲示板に貼ってある自己紹介シートの「将来の夢」の欄に、「プロ野球選手」と書いていた。その時のクラスメイトからの白い目は、全くの無関係者であるノリでさえもよく覚えているほどひどいものだった。

「私、ジュピターズの大ファンなの!試合よく見に行ってるんだよ、通葉市民球場だったらそんなに遠くないし」

(後編へ続く)
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