謎ルールに立ち向かう中1

25. 男子も吹奏楽部に入りたい 前編

6月18日（月）。

この日はいかにも梅雨という天気で、朝から雨が降り続いていた。
優子が倒れ、光二が職員室で暴れた（ことになってしまった）事件も落ち着き、1学期の期末テストを1週間後に控える生徒たち。
テストは6月25日（月）から始まる。
部活は今週の水曜日までで、そこからは部活のない木曜日、そしてテスト3日前ということで金曜日から日曜日までは部活がない。
生徒たちの中にはテストを恐れる者もいれば、あと3日で部活が休みになると喜ぶ者もいる。
部活も人によって考え方は様々だ。
ノリや光二のように心から部活を楽しんでいる生徒がいる一方、優子のようにあまりの過密日程によって体調を崩してしまう者もいた。

今日もいつものようにSHRが終わった。他のクラスでは全く意味のないような形骸化したものになっているらしいが、1年2組は担任の倉橋先生がとても美人で可愛いため、比較的男子生徒は彼女の話を聞いているようではある。

 しかし今日は音楽科担当である副担任の松本大河先生が会を進めた。なんでも倉橋先生の授業準備がなかなか終わらないのだとか。

「はい、今日は私が代わりにSHRを進めます。倉橋先生の可愛い笑顔をお見せできなくて残念ですが、倉橋先生は今日も美人でした。心配しないでください」

「うぇーーーい」

野太い野郎たちの声が教室に響き渡った。

をえー、今週は部活は水曜まで。木曜はいつも通り部活がなくて、金曜からはテスト期間のため部活動は一切禁止になります」

いつも通りの話が終わり、松本先生が音楽室に戻ろうとすると、1人の生徒が猛ダッシュで彼の元へ来た。男子ソフトテニス部に所属する神取勝（かんどり・まさる）だ。ひょろっとした体型で、お世辞にも逞しいとは言い難い。この体でテニスができるのか不安になる。

「お、神取くん。どうしたんだい急に。何かあったのか？」

「あ、あの、実は僕、テニス部辞めて吹部に入りたいんです。小さい頃から楽器をいろいろやってきて、まだまだ音楽やりたいんです。でも、周りに変な目で見られるのが怖くて」

松本先生は吹奏楽部の担任でもあるのだ。彼がたまたまSHRの担当であった今日、思い切って自分の夢を伝えた。

「いいじゃないか。自分のやりたいことをガンガンやるのが人生だ。今からテニス部の先生んとこに話しに行くか？ついていくぞ俺も。」

松本先生は理解のある素晴らしい人だ。頭の硬い先生なら、

「一度始めたものを途中で投げ出すなんて…」

とか、

「途中入部は他の生徒の部活の技術についていくのが大変なため認められません」とか、

訳の分からないことを言いそうだが、彼はそうではなかった。

「も、木曜日に言いに行こうと思うんです。今日明日明後日はテニスの練習に行かないといけないし、そこまではテニス部としてプレーを全うしたいです。松本先生、木曜日の放課後付いてきてくれますか？」

「ああ、もちろんだとも。誰になんと言われようと、自分の想いを貫き通すんだぞ。いいな、よし！」

かくして、勝の吹奏楽部入部計画がスタートした。

（後編へ続く）