謎ルールに立ち向かう中1

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26.男子も吹奏楽部に入りたい 後編

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2時間目が終わった後の休み時間、教室では彼が吹奏楽部に入ろうとしているという話を聞いたクラスメイトたちが噂話をしていた。

「あいつ、テニス部辞めて吹奏楽部に入るらしいぜ」

「男子なのにな。男で吹奏楽部はねぇよ。女好きなだけじゃないのか?」

2018年、平成ももうすぐ終わろうとしているというのに、この教室では吹奏楽部は女子だけがやるものだという偏見が未だに残っているらしい。そして吹奏楽部といえば、このクラスにはややこしい2人がいる。喜久子と光だ。もはやクラスではただの文句言いのような扱いになってきたこのコンビ。やはりこの噂を聞きつけてグチグチ文句を言っている。

「突然途中からウチに入部されても困るわよねぇ。しかも男子が。どういうつもりなの?吹奏楽部は女子がやるもんでしょ。どうして和を乱すようなことするんだろう。分からないわ」

個人の考え方があると言ってしまえばそれまでだが、やはりまだ固定観念があるようだ。





6月21日(木)。ついに勝の吹奏楽部入団計画が決行される日が来た。勝と松本先生が、ソフトテニス部顧問の近藤和正(こんどう・かずまさ)の元へ向かう。

「失礼します。近藤先生いらっしゃいますか?」

「はいはい、お、神取。どうしたんだ急に」

「突然なんですが、僕、テニス部を辞めて吹奏楽部に入ることに決めました」

よほど緊張したのか、「決めました」とはっきり言ってしまった。こんな時は日本人らしく「退部を検討してまして…」なんて言えば角が立たずに済むのだろうが、はっきり言えばそれは嘘になる。退部の検討はもうすでに終わっており、勝のなかでは退部が決定している。何も間違ってはいない。本当のことを伝えただけだ。

「なんだ、『決めました』って。決めるのはこちらだ。まだ何も話してないのに勝手に決めるな。そもそも一度入った部活を途中でやめるなんて恥ずかしいとは思わないのか!最後までやり遂げてこそ意味があるんだ。どうなんだ?」

「他に入りたい部活があるのに別の部活を続けてる方が恥ずかしいです。僕は音楽をやりたいんです。やりたいからやるんです」

勝は強気だ。近藤先生の一言でカチンときて火がついたようだ。

「なんだその言い方は!そもそも男が吹奏楽部に入るなんて。今は部員全員女子生徒じゃないか。その中に入っていくんだぞ。周りがどう思うか考えたことあるのか」

「ないです」

近藤先生は勝が何か続けて喋るだろうと思って5秒ほど黙っていたが、勝は何も言わない。

「何か言ったらどうな…」

「吹奏楽部は女子だけのものという偏見に怒りを覚えました。あなたのような人を一人でも少なくするためにも、僕は吹奏楽部で活動します。早く退部届けの書類をもらえますか?」

「なんだその態度は!ふざけやがって!」

キレて勝の胸ぐらを掴もうとした近藤先生の手を掴み、そのまま話さない男がいた。松本先生だ。月曜日に勝についていくと約束した松本先生は勝と近藤先生が話している間何も言わなかったが、ついに口を開いた。

「近藤先生、もうやめましょう。彼は吹奏楽部に入りたいと私に直々に話しに来てくれたんです。私はこの熱意を受け取って、吹奏楽部の一員として迎えたい。彼の意見を尊重しましょう」

「いや、別に、辞めるなと言ったわけではないんだがね、少し考えたらどうなのかと思ってね。まだ、その、結論を出すのは早いんじゃないかと」

結論は出ているのだ。勝はテニス部を辞めて吹奏楽部に入る。決まっているのだ。

「彼が一生懸命考え抜いた答えが吹奏楽部入部なんです。結論は出てるんですよ」

松本先生は勝の熱意をどうしても受け取ってやりたかった。彼がこのままテニス部を辞められずに続けていたら、一生後悔するかもしれない。それだけは避けたかったのだ。

「まぁ、そういうことなら仕方がない。退部を了承しよう」


勝は、

「一度始めたものは止めてはならない」
「吹奏楽部は女子だけのもの」

という2つの偏見を捩伏せ、見事吹奏楽部の一員となった。
彼はこれからも偏見と戦い続けなければいけないかもしれないが、その覚悟は十分にできている。
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