失われた記憶の断片

おっさん

文字の大きさ
上 下
1 / 1

記憶の行方

しおりを挟む

失われた記憶の破片

砂漠の広がる小さな村で、老いた旅人がひとり歩いていた。彼の名前はアルドリッチで、長い旅路の果てに村にたどり着いたのだ。

アルドリッチは風に吹かれる砂と輝く星を見上げながら、かつての冒険と出会った人々の思い出にふけった。彼は記憶の中で光り輝く瞬間と苦しい瞬間を追体験した。

村人たちはアルドリッチの話を聞くのが好きだった。彼の物語は彼らを夢の世界に連れて行ってくれるからだ。しかし、アルドリッチは最近、自分の記憶が不確かになっていることに気づいた。過去の冒険の詳細が曖昧になり、まるで砂嵐が記憶を吹き飛ばしたかのようだった。

ある日、村の書物館の司書、エリザベスがアルドリッチのそばに座った。彼女は温かい笑顔で言った。「アルドリッチさん、もしかしたら記憶の一部が失われているのかもしれませんね。でも、記憶の破片は私たちの中に残っています。」

アルドリッチは驚いたようにエリザベスを見つめた。「どうしてそう思うんですか?」

エリザベスは言葉を選びながら語った。「私たちは経験を通じてつながっています。あなたの話を聞いた人々は、あなたの冒険に共感し、一部を自分の経験として取り込むのです。その瞬間は確かに過去のものですが、記憶の一部として語り継がれています。」

アルドリッチは深く考え込んだ。確かに、彼の物語は村人たちの心に刻まれていることを感じたのだ。

「ありがとう、エリザベス。吹き飛ばされた記憶を心配するのではなく、残された破片を大切にすることにします」とアルドリッチは微笑んだ。

村にはアルドリッチの冒険を描いた絵本が作られ、彼の話は代々語り継がれていった。アルドリッチは失われた記憶を惜しまず、村の人々と共に未来を刻み続けたのである。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...