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夢のFIRE生活
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彼女はまだ起きる気配がない。
俺は妙に目が冴えてしまったので、これからの計画でも立てることにした。
地図を広げる。
さて、これからどうしようか。
個人事業主「土木の錬金術師」として活動し、金を稼ぐ。
これは決定だ。
だが、これまで馬車馬のごとく働いた反動だろうか。働く意欲がわかない。
そうだな。
働かなくても生きていける環境をつくろうではないか。
FIREだ。
経済的自立をし、早期リタイアをしよう。
やりたい仕事だけして、のんびり生きていくのがいい。
前世で作れなかったような嗜好を凝らした構造物を沢山作って、金を稼ぐ。
良いではないか。
この世界の人々にとっても助けになるはず。
転生させた神のようななにかにも、満足していただけるだろう。
もう一度地図を見る。
うん。ここがいい。
国の南、マルー海岸沿いに丸をつける。
海の見える家を建てよう。魚でも釣って、酒で口を濡らし、のんびり暮らす。
たまに出張して、橋でもトンネルでも作る。
まあ、その前に、マスタード大尉が言っていた西方の大森林の魔獣戦線を凌がねばならないのだが。
ふんふん、ふーん
鼻歌混じりで家の絵を描いていると、少女がのそのそと起きてきた。
「おはよう」
声をかけると、ん、と短い返事があった。
「朝風呂も気持ちがいいよ。良かったら入ってきたら?」
「ん」
彼女はのそのそと起き上がり、寝ぼけ眼で風呂へ向かった。
彼女の機嫌がいいかどうかは見分けがつかなかった。終始目は細めているし、口元もへの字に曲がっている。
だが、そんな姿からも気品が漂っているような気がしてならない。
昨日の火の魔法からみても、没落貴族の子なのではないか、と思ってしまう。
彼女が風呂から出てきた。
「じゃ、マッサージしたら帰るから。お世話になりました」
しおらしく頭を下げてくる。
「朝ごはんも食べていきなよ。マッサージは食後にお願いする」
「そ」
本当は食前がいい。食後に背中を押されると吐きそうになる。
だが、この枝のような彼女に朝食を食べさせる理由が他に見つからなかった。
ご飯、少なめにするか。
「食べてすぐは、マッサージよくないよ。少し休んでからしてあげる」
俺の不安を汲み取ったのか、彼女がフォローを入れてくれた。
気がきくではないか。
二人してたっぷり朝食を取りおえ、二人して食休みだ。
「あなた、何してる人なの」
意外にも彼女から話しかけてきた。
「前は軍で働いていたよ。辞めたばっかりさ。今は無職だ」
「無職なのに、温泉宿に泊まって女を買うなんて、軍は金払いがいいね」
「買ってないってば。最後の方は無給だったよ」
ため息が出てしまう。
「わたしと喋るの、つまらない?」
いや、と首を振る。
「君は何してる人なの?」
「ご覧の通り、物乞い。火を売ったり、身体を売ったり。でもどうせすぐ死ぬ。食べていけないから」
「物乞いをする前は?」
「捨て子が集められる施設にいた。酷いところ。ご飯は三日に一度。風呂は週に一度。男は大きくなると兵隊になって前線に送られるし、女は身体を売らされて、稼ぎが悪くなると売春宿に売られてた。わたしは嫌になって逃げた」
彼女は淡々と言う。別にそれが、極めて辛いということではないかのように。
「同じように逃げて、物乞いをする子供は沢山いる?」
無言で頷く。
「死ぬほどいる」
比喩じゃなくて、ね。
この国は駄目だ。
政治が下手だ。
富が、貴族や王族の少数に集中し、その他大衆は死ぬほど搾り取られている。
痩せ細り、力を奪われている。
「俺、皆を太らせたくなってきた」
皆を太らせて、元気にして、こんなバカな国壊してしまいたい。
前線でゴミのように突撃させられ、石ころみたいに死ぬ兵士たち。
彼女のように、飢え、疲弊し、死んでいく子供たち。
「まずは君から。太らないか?」
「なにその狂った誘い。デブ専?」
彼女の目は氷のように冷たい。
「俺は、軍に居たころ消耗品みたいに使われてたんだ。疲れちゃったんだ。これからは個人事業主の錬金術師として金を稼ぐ。その金で、海辺の田舎でゆっくり暮らそうと思った。でも、それだけじゃ心からのんびりできない。どこかでわかってた。自分だけ快適でも、居心地が悪いって」
「そう。で、わたしが太ってどうするの?太らせてから抱くの?」
フルフルと首を振り否定するが、段々どうでも良くなってきた。
「皆太って、考える余裕が出てきたら、この国はもう少しマシになるんじゃないかな」
そうかもね
「俺はタック。君は?」
「スノゥ」
◯
腹ごなしも済み、彼女がマッサージをしてくれた。
驚くことに、彼女のマッサージはとても良かった。なんというか、手のひらが妙に温かい。
その手で腰を揉まれると、溜まりに溜まった疲労感が溶けるようだった。
これも火の魔法なのか?
「じゃ、わたし帰るから」
「え、ああ。うん、それじゃ、またどこかで」
俺は妙に目が冴えてしまったので、これからの計画でも立てることにした。
地図を広げる。
さて、これからどうしようか。
個人事業主「土木の錬金術師」として活動し、金を稼ぐ。
これは決定だ。
だが、これまで馬車馬のごとく働いた反動だろうか。働く意欲がわかない。
そうだな。
働かなくても生きていける環境をつくろうではないか。
FIREだ。
経済的自立をし、早期リタイアをしよう。
やりたい仕事だけして、のんびり生きていくのがいい。
前世で作れなかったような嗜好を凝らした構造物を沢山作って、金を稼ぐ。
良いではないか。
この世界の人々にとっても助けになるはず。
転生させた神のようななにかにも、満足していただけるだろう。
もう一度地図を見る。
うん。ここがいい。
国の南、マルー海岸沿いに丸をつける。
海の見える家を建てよう。魚でも釣って、酒で口を濡らし、のんびり暮らす。
たまに出張して、橋でもトンネルでも作る。
まあ、その前に、マスタード大尉が言っていた西方の大森林の魔獣戦線を凌がねばならないのだが。
ふんふん、ふーん
鼻歌混じりで家の絵を描いていると、少女がのそのそと起きてきた。
「おはよう」
声をかけると、ん、と短い返事があった。
「朝風呂も気持ちがいいよ。良かったら入ってきたら?」
「ん」
彼女はのそのそと起き上がり、寝ぼけ眼で風呂へ向かった。
彼女の機嫌がいいかどうかは見分けがつかなかった。終始目は細めているし、口元もへの字に曲がっている。
だが、そんな姿からも気品が漂っているような気がしてならない。
昨日の火の魔法からみても、没落貴族の子なのではないか、と思ってしまう。
彼女が風呂から出てきた。
「じゃ、マッサージしたら帰るから。お世話になりました」
しおらしく頭を下げてくる。
「朝ごはんも食べていきなよ。マッサージは食後にお願いする」
「そ」
本当は食前がいい。食後に背中を押されると吐きそうになる。
だが、この枝のような彼女に朝食を食べさせる理由が他に見つからなかった。
ご飯、少なめにするか。
「食べてすぐは、マッサージよくないよ。少し休んでからしてあげる」
俺の不安を汲み取ったのか、彼女がフォローを入れてくれた。
気がきくではないか。
二人してたっぷり朝食を取りおえ、二人して食休みだ。
「あなた、何してる人なの」
意外にも彼女から話しかけてきた。
「前は軍で働いていたよ。辞めたばっかりさ。今は無職だ」
「無職なのに、温泉宿に泊まって女を買うなんて、軍は金払いがいいね」
「買ってないってば。最後の方は無給だったよ」
ため息が出てしまう。
「わたしと喋るの、つまらない?」
いや、と首を振る。
「君は何してる人なの?」
「ご覧の通り、物乞い。火を売ったり、身体を売ったり。でもどうせすぐ死ぬ。食べていけないから」
「物乞いをする前は?」
「捨て子が集められる施設にいた。酷いところ。ご飯は三日に一度。風呂は週に一度。男は大きくなると兵隊になって前線に送られるし、女は身体を売らされて、稼ぎが悪くなると売春宿に売られてた。わたしは嫌になって逃げた」
彼女は淡々と言う。別にそれが、極めて辛いということではないかのように。
「同じように逃げて、物乞いをする子供は沢山いる?」
無言で頷く。
「死ぬほどいる」
比喩じゃなくて、ね。
この国は駄目だ。
政治が下手だ。
富が、貴族や王族の少数に集中し、その他大衆は死ぬほど搾り取られている。
痩せ細り、力を奪われている。
「俺、皆を太らせたくなってきた」
皆を太らせて、元気にして、こんなバカな国壊してしまいたい。
前線でゴミのように突撃させられ、石ころみたいに死ぬ兵士たち。
彼女のように、飢え、疲弊し、死んでいく子供たち。
「まずは君から。太らないか?」
「なにその狂った誘い。デブ専?」
彼女の目は氷のように冷たい。
「俺は、軍に居たころ消耗品みたいに使われてたんだ。疲れちゃったんだ。これからは個人事業主の錬金術師として金を稼ぐ。その金で、海辺の田舎でゆっくり暮らそうと思った。でも、それだけじゃ心からのんびりできない。どこかでわかってた。自分だけ快適でも、居心地が悪いって」
「そう。で、わたしが太ってどうするの?太らせてから抱くの?」
フルフルと首を振り否定するが、段々どうでも良くなってきた。
「皆太って、考える余裕が出てきたら、この国はもう少しマシになるんじゃないかな」
そうかもね
「俺はタック。君は?」
「スノゥ」
◯
腹ごなしも済み、彼女がマッサージをしてくれた。
驚くことに、彼女のマッサージはとても良かった。なんというか、手のひらが妙に温かい。
その手で腰を揉まれると、溜まりに溜まった疲労感が溶けるようだった。
これも火の魔法なのか?
「じゃ、わたし帰るから」
「え、ああ。うん、それじゃ、またどこかで」
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