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9 先生のプライベート 風花視点
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私の名前は、弥生 風花。
高校生だが今は不登校になってしまい、家にこもっていた。
しかし今は引きこもっているが、前のような後ろめたい理由ではない。
私はイヤホンを付けて、タブレットを集中して見る。
「そうだ、そこは場合分けして実数解を──」
タブレットに映るのは、私の家庭教師をしてくれる如月先生だった。
今日は自習の日だったが、私が分からないところを聞くとすぐにオンライン越しに教えてくれる。
どうにか難しかった問題を解くことができた。
「ありがとうございます、先生」
「別に気にするな。分からなくなったら何でも聞け。俺の好みだったら──」
「夕飯の時間になったのでまた今度教えてくださいー」
「あっ、すぐ教えるからあと一分ッ──!」
私はすぐさま通話を切る。
それと同時に部屋のドアがノックされた。
ちょうど足音が聞こえたので、慌てるようにタブレットを机に隠して返事をする。
入ってきたのは調理用エプロンを身に付けた母だった。
「ごめんね、風花。ちょっとお醤油切らしちゃって。買い物行ってくれる?」
「うん、いいよ」
私はお財布を持って近くのスーパーに買いに行く。
帰ったら勉強をしないといけないと考えていると、目の前を見慣れた男性が通り過ぎる。
──如月先生だ!
今日はオフのためかラフな黄色のパーカーを身に付けている。
顔はかっこいいのに、いつも眠そうな目をしているせいで格好良さが半減しているといつも思う。
どこに向かうのかと興味があって付いていくと、最近出来た駅前の大型施設へ入っていった。
距離を空けて付いていくと、如月先生は本屋の受験コーナーへ向かう。
学生たちばかりの中で大人がいると少し不自然に思えるが、誰よりも真剣に本を読む姿には思わずドキッとした。
すると知らない若い茶髪の女性が、如月先生に歩み寄っていた。
「あら、貴方も来ていたのね」
見た目はデキるOLと言ったところだろうか。
ボブのショートと勝気な顔で少し近寄りがたかった。
如月先生も相手に気付いて、顔を歪ませた。
「っげ、貴子……」
下の名前で呼ぶのに、どうにも仲が良さそうではなかった。
しかしどんな関係なんだろう。
貴子と呼ばれた彼女は、如月先生が持っている参考書を見てフッと笑っていた。
「何よ、その薄っい本。今の貴方が受け持っている生徒ってみんな高校三年生でしょ? 今からそんなので間に合うわけ?」
「誰でもお前みたいに最初から難しい問題集出来るわけじゃねえんだよ。それに俺が絶対に受からせるからいらない心配だ」
私の胸が高鳴った気がする。
ここから見えた参考書は普段私が使っているレベルの物だ。
おそらく私のために探していたのかもしれない。
ただ貴子さんはそれが面白くないようだった。
「ふーん、急に真面目になって……でも今度の模試の成績が悪かったら、あんたの生徒も奪われるかもしれないのに呑気なのものね」
──えっ……!
私の成績次第で先生が変わってしまう。
いつもふざけた調子で教えてくる困った先生だが、私のためにあれこれ手を焼いてくれて、寝る間を惜しんで頑張ってくれている。
それが分かっているからこそ、私も信頼して教えてもらっているのに、もし別の人に代わられたら、やる気を維持できるか自信がない。
「そういえば不登校の子を受け持っているのでしょ?」
おそらく私のことだ。
貴子さんが腕を組んで仁王立ちをする。
自分を頼れと言うような分かりやすい態度をしていた。
「貴方がどうしてもって言うのなら私が代わりに──」
「いらないね」
如月先生はそれで話は終わりとまた参考書を見直す。
断られると思っていなかった貴子さんが口を空けて呆けていた。
だがすぐに言葉を言い返す。
「どうせ貴方がやっても、成績が上がらなければお金に──」
「金じゃねえ」
ピシャリっと冷たい声が響く。
負担とは違う冷淡な部分を初めてみた。
「わりいな、貴子。俺は今年は本気でやるつもりだ。俺の受け持ちの子たちは全員受からせる」
眠そうな目なのに迫力を感じた。
貴子さんはプライドを傷付けられたせいか、目をキッと向ける。
「ならお互いに夏の模試で競おうじゃない!」
「どうして俺がそんなことをせんといかん」
「あら、自信がないのかしら? そうよね、口では成績を上げるって言ってもずっと腑抜けていた貴方に教えることが出来ないものね」
わざわざ喧嘩腰で煽る。
だが如月先生は簡単に釣られてしまった。
「いいぜ受けてやる。全員の生徒の平均でいいか?」
「そんなの私の圧勝じゃない。私の受け持ちで貴方の生徒と志望校が合うのは確か──あっ、茶大があるじゃない! お互いにその子の成績が高いかで勝負よ」
何の因果か、私が実際に戦うようだ。
しかし本当に二人の関係性が気になる。
高校生だが今は不登校になってしまい、家にこもっていた。
しかし今は引きこもっているが、前のような後ろめたい理由ではない。
私はイヤホンを付けて、タブレットを集中して見る。
「そうだ、そこは場合分けして実数解を──」
タブレットに映るのは、私の家庭教師をしてくれる如月先生だった。
今日は自習の日だったが、私が分からないところを聞くとすぐにオンライン越しに教えてくれる。
どうにか難しかった問題を解くことができた。
「ありがとうございます、先生」
「別に気にするな。分からなくなったら何でも聞け。俺の好みだったら──」
「夕飯の時間になったのでまた今度教えてくださいー」
「あっ、すぐ教えるからあと一分ッ──!」
私はすぐさま通話を切る。
それと同時に部屋のドアがノックされた。
ちょうど足音が聞こえたので、慌てるようにタブレットを机に隠して返事をする。
入ってきたのは調理用エプロンを身に付けた母だった。
「ごめんね、風花。ちょっとお醤油切らしちゃって。買い物行ってくれる?」
「うん、いいよ」
私はお財布を持って近くのスーパーに買いに行く。
帰ったら勉強をしないといけないと考えていると、目の前を見慣れた男性が通り過ぎる。
──如月先生だ!
今日はオフのためかラフな黄色のパーカーを身に付けている。
顔はかっこいいのに、いつも眠そうな目をしているせいで格好良さが半減しているといつも思う。
どこに向かうのかと興味があって付いていくと、最近出来た駅前の大型施設へ入っていった。
距離を空けて付いていくと、如月先生は本屋の受験コーナーへ向かう。
学生たちばかりの中で大人がいると少し不自然に思えるが、誰よりも真剣に本を読む姿には思わずドキッとした。
すると知らない若い茶髪の女性が、如月先生に歩み寄っていた。
「あら、貴方も来ていたのね」
見た目はデキるOLと言ったところだろうか。
ボブのショートと勝気な顔で少し近寄りがたかった。
如月先生も相手に気付いて、顔を歪ませた。
「っげ、貴子……」
下の名前で呼ぶのに、どうにも仲が良さそうではなかった。
しかしどんな関係なんだろう。
貴子と呼ばれた彼女は、如月先生が持っている参考書を見てフッと笑っていた。
「何よ、その薄っい本。今の貴方が受け持っている生徒ってみんな高校三年生でしょ? 今からそんなので間に合うわけ?」
「誰でもお前みたいに最初から難しい問題集出来るわけじゃねえんだよ。それに俺が絶対に受からせるからいらない心配だ」
私の胸が高鳴った気がする。
ここから見えた参考書は普段私が使っているレベルの物だ。
おそらく私のために探していたのかもしれない。
ただ貴子さんはそれが面白くないようだった。
「ふーん、急に真面目になって……でも今度の模試の成績が悪かったら、あんたの生徒も奪われるかもしれないのに呑気なのものね」
──えっ……!
私の成績次第で先生が変わってしまう。
いつもふざけた調子で教えてくる困った先生だが、私のためにあれこれ手を焼いてくれて、寝る間を惜しんで頑張ってくれている。
それが分かっているからこそ、私も信頼して教えてもらっているのに、もし別の人に代わられたら、やる気を維持できるか自信がない。
「そういえば不登校の子を受け持っているのでしょ?」
おそらく私のことだ。
貴子さんが腕を組んで仁王立ちをする。
自分を頼れと言うような分かりやすい態度をしていた。
「貴方がどうしてもって言うのなら私が代わりに──」
「いらないね」
如月先生はそれで話は終わりとまた参考書を見直す。
断られると思っていなかった貴子さんが口を空けて呆けていた。
だがすぐに言葉を言い返す。
「どうせ貴方がやっても、成績が上がらなければお金に──」
「金じゃねえ」
ピシャリっと冷たい声が響く。
負担とは違う冷淡な部分を初めてみた。
「わりいな、貴子。俺は今年は本気でやるつもりだ。俺の受け持ちの子たちは全員受からせる」
眠そうな目なのに迫力を感じた。
貴子さんはプライドを傷付けられたせいか、目をキッと向ける。
「ならお互いに夏の模試で競おうじゃない!」
「どうして俺がそんなことをせんといかん」
「あら、自信がないのかしら? そうよね、口では成績を上げるって言ってもずっと腑抜けていた貴方に教えることが出来ないものね」
わざわざ喧嘩腰で煽る。
だが如月先生は簡単に釣られてしまった。
「いいぜ受けてやる。全員の生徒の平均でいいか?」
「そんなの私の圧勝じゃない。私の受け持ちで貴方の生徒と志望校が合うのは確か──あっ、茶大があるじゃない! お互いにその子の成績が高いかで勝負よ」
何の因果か、私が実際に戦うようだ。
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