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第一章 魔法祭で負けてたまるものですか
わたくしの命令は絶対よ
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わたしはクロートへ真剣な眼差しを向ける。
このままクロートと寮へ戻って説教をされている場合ではない。
クロートは眼鏡を片手であげて、こちらを見返す。
「お願いですか、わたしは姫さまの教師でございますが文官としても多少の能力はあると自負しております。わたしに出来ることならなんなりとお申し付けください。もちろん、お説教を優しくするという内容でしたらお断りていただきますがね。部屋にある布をありったけ使って窓から降りようとするなんて淑女のすることではありません、とステラ様にレイナ様も大変ご立腹でしたからね」
……っう、やっぱりお説教は確実かぁ。
レイナとステラの説教だけは恐いから聞きたくない。
っじゃなくて!
「わたくしの護衛としてしばらく付き合ってください。これは命令です」
こうなったら命令でも何でも使うしかない。
今日の一件で、確実に部屋に一人は監視が付く。
そうなればわたしが何かしようとするたびに側近たちが確認してくるだろう。
それにさっきのことでもわかったが、この手紙の内容は毎回殺傷沙汰になっている。
そうすると、まだ魔法の制御のできないわたしでは身の危険が大きすぎる。
わたしの命令であれば、中級貴族のクロートでは基本的に逆らえない。
「命令ですか。大変申し訳ございませんがそれをお受けすることはできません。わたしはあいにくと騎士ではございませんので、納得のできる理由がなくその命令を受託できません」
「わ、わたくしの命令ですよ! いいから従いなさい! そんな態度ですとまたセルランから注意されますよ!」
わたしはまさか自分の命令を拒否されるとは夢にも思わなかった。
先日の件を引き合いに出して、どうにか首を縦に振らせようとする。
だがそれでもクロートは意見を曲げない。
「わたしの主人はシルヴィ・ジョセフィーヌです。たとえ姫さまといえどもわたしに命令はできません。シルヴィ・ジョセフィーヌからも姫さまの命令を無理して受ける必要はないと言われております」
「だからってわたくしの命令に従わないのならあなたの将来に関わりますわよ! 次の当主はわたくしですわよ! 従いなさい! 」
わたしはとうとう大きな声を張り上げてしまった。
いつもは淑女としての振る舞いを意識して、子供の時のような癇癪は起こさないようにしていた。
それをこの男はどう言っても聞き入れない。
クロートはわたしの言葉に身じろぎせずに受け止める。
そして片膝をついて頭を下げる。
「姫さま、次期当主となられる貴方にどうして側近でないわたしが教師として指導するのかお考えください。わたしがもし貴方様の意見をすべて肯定するだけでしたら、何のための教師でしょう。わたしは別に姫さまの命令を受けたくないのではありません。何の理由もなく従うことはできないと申しているだけです。これから貴方様は次期当主としての研鑽を積んでいかなければなりません。そうでなければ、もし姫さまが間違えてしまった時にだれも止めることができないまま、悲惨な未来を粛々と受け止めるしかございません。どうかこの機会にわたしの諫言を受け止めていただきたいのです」
クロートの言葉はわたしを非難するものではないのがわかる。
わたしは悲惨な未来の言葉を聞いたことによって、夢のことを思い出す。
一度心を鎮めることを意識してやっと冷静になる。
……そうよ、あの未来を変えるために頑張ろうと決めたじゃない。
あの未来でも、もしかしたら誰かが止めようとしたのを聞き入れなかったせいかもしれない。
「わかりました。あなたの意見はもっともです。クロート、実はこのような手紙が来ましたの。あなたの意見を聞かせてほしい」
わたしは自分のポーチに入れていた謎の手紙をクロートへと渡す。
クロートは一言断って内容を一読する。
レンズが黒いせいでほとんど表情がわからないが、つっかえることなく読み進めているのでそこまで驚きはないようだ。
読み終えるとわたしに手紙を返す。
「変わった手紙ですね。まるで何かがそこで起きるのを知っているみたいな文面です。わたしがすぐに来られたのも、訓練場に姫さまが立ち寄ったことを聞いて護衛騎士たちと手分けをしてきたからですからね。あの訓練場でも何かあったのですか? どの領主候補生たちも言葉を濁すので、あまり追求しませんでしたので」
「実はあそこで領主同士で喧嘩が起きましたので、それを仲介しました。もう少しで怪我では済まない争いになっていたことでしょう。だからどうしても魔術の実験場に行ってその手紙の真意を探らなければなりません」
「そうですね、それに四の鐘ですと、魔術の実験場へ行くのにギリギリです。正直、姫さまの安全を守るために護衛騎士を連れて行きたいですが、時間がないので騎士の代行を務めましょう」
今度はわたしのお願いを了承してくれた。
先ほどの魔法の扱いをみれば十分に護衛としても問題ない。
……たしかクロートは文官でしたわよね?
セルランとどっちが強いのかしら。
セルランはわたしの護衛の中で一番強い。
親譲りな魔力の才に加えて、騎士の成績もトップクラスで卒業したのである。
だがクロートに関しては伝承通りであれば、魔法の才では他の追随を許さない。
普通なら文官と騎士なら埋めようのないほどの戦闘技術があるが、クロートの戦いは素人では決してなかった。
どちらが強いのかは考えてもわからないが、クロートがいれば安心できるという信頼はあった。
わたしたちはすぐに訓練場とは真逆の西にある棟へと向かう。
魔法の練習や実験をするために必要なものが数多く揃っており、領地ごとの研究所も入っているため、自領を発展させるためどこの領土も設備投資をする。
実験場はその名の通り、魔法を使用するための場所であり、危険な魔法を使う場合は許可が必要だが、基本は自由に使っても問題ない。
魔法の障壁が張られているため、外へ漏れ出る心配もない。
わたしたちは、実験場の大扉の前に立つ。
「まだ授業も始まらないので、ここも静かですね」
「どこも勉強の予習も忙しいからでしょう。流石に研究に熱中しすぎて落第では、その後の進退にも関わりますゆえ。……おや? 実験場の扉が少し開いている。これでは実験場の外へは被害を出さない魔法の障壁が発動しません。注意が必要ですね」
そう言ってクロートから先に実験場に入ろうとすると、クロートが口と鼻を手で押さえて、マリアが入ろうとする前に手で制する。
「いったいどうしたとーー」
「いけません! ここはかなりの毒素があります! 魔法を一度使います」
わたしが驚く間も無く、クロートは魔法を唱え二人を光の膜で覆い尽くす。
外気を遮断するので、空気が汚染されていても問題なくなる。
クロートは少しキツそうにしながら、わたしに説明する。
「魔道具の探知が反応してくれたおかげで、吸い込む量は少しで済みました。一度この空気を外に出すために建物に穴を空けて空気を入れ替えます。何があるかはわからないのでわたしの側からは離れないでください」
「ええ、それよりも大丈夫ですか? 顔色がかなり悪そうです」
クロートは頑張って苦痛を隠そうとしているが、隠しきれないほどの汗が滲んでいる。
「ここの倉庫にはかなりの触媒があるはずです。それで解毒の魔法を使います。では行きます」
クロートとわたしが中に入ると、大勢の生徒が倒れている。
総勢五十はいる。
マントの色は水色と黒色の二つだけだった。
……またパラストカーティですの?
もう一つはシュトラレーセ!?
シュトラレーセは毎年国への貢献度でトップで争う優秀な領土だ。
これほどの人数が毒で死ぬには国の損失も大きい。
一刻も早く救い出さないといけない。
わたしが驚いていると、クロートは水の魔法を放つ。
一人だけ黒いローブを羽織った仮面の者がおり、クロートはそいつ目掛けて魔法を放っていた。
反応が遅れたみたいで忌々しそうに舌打ちをして、大きな袋を投げて盾にする。
袋が破けて大量の実験道具が粉々に砕け散る。
クロートは続けて何度も魔法を放つが、器用な身のこなしで避けていく。
「お前は何者だ! 一体何をしている」
クロートの問いには答えず、筒を取り出して光の剣を作り出す。
間違いなく、先ほども見た剣である。
そしてその正体も簡単であった。
「あれはトライード! あなたどこの領土の者ですか! わたくしの五大貴族の名において命じます。ここで一体何をしているのですか!」
光の剣はトライードと呼ばれる筒を魔力を込めるだけで剣に変えるものだ。
魔法を使えるのは貴族だけ。
ならばこの目の前にいる仮面の人物は貴族だ。
このままクロートと寮へ戻って説教をされている場合ではない。
クロートは眼鏡を片手であげて、こちらを見返す。
「お願いですか、わたしは姫さまの教師でございますが文官としても多少の能力はあると自負しております。わたしに出来ることならなんなりとお申し付けください。もちろん、お説教を優しくするという内容でしたらお断りていただきますがね。部屋にある布をありったけ使って窓から降りようとするなんて淑女のすることではありません、とステラ様にレイナ様も大変ご立腹でしたからね」
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っじゃなくて!
「わたくしの護衛としてしばらく付き合ってください。これは命令です」
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今日の一件で、確実に部屋に一人は監視が付く。
そうなればわたしが何かしようとするたびに側近たちが確認してくるだろう。
それにさっきのことでもわかったが、この手紙の内容は毎回殺傷沙汰になっている。
そうすると、まだ魔法の制御のできないわたしでは身の危険が大きすぎる。
わたしの命令であれば、中級貴族のクロートでは基本的に逆らえない。
「命令ですか。大変申し訳ございませんがそれをお受けすることはできません。わたしはあいにくと騎士ではございませんので、納得のできる理由がなくその命令を受託できません」
「わ、わたくしの命令ですよ! いいから従いなさい! そんな態度ですとまたセルランから注意されますよ!」
わたしはまさか自分の命令を拒否されるとは夢にも思わなかった。
先日の件を引き合いに出して、どうにか首を縦に振らせようとする。
だがそれでもクロートは意見を曲げない。
「わたしの主人はシルヴィ・ジョセフィーヌです。たとえ姫さまといえどもわたしに命令はできません。シルヴィ・ジョセフィーヌからも姫さまの命令を無理して受ける必要はないと言われております」
「だからってわたくしの命令に従わないのならあなたの将来に関わりますわよ! 次の当主はわたくしですわよ! 従いなさい! 」
わたしはとうとう大きな声を張り上げてしまった。
いつもは淑女としての振る舞いを意識して、子供の時のような癇癪は起こさないようにしていた。
それをこの男はどう言っても聞き入れない。
クロートはわたしの言葉に身じろぎせずに受け止める。
そして片膝をついて頭を下げる。
「姫さま、次期当主となられる貴方にどうして側近でないわたしが教師として指導するのかお考えください。わたしがもし貴方様の意見をすべて肯定するだけでしたら、何のための教師でしょう。わたしは別に姫さまの命令を受けたくないのではありません。何の理由もなく従うことはできないと申しているだけです。これから貴方様は次期当主としての研鑽を積んでいかなければなりません。そうでなければ、もし姫さまが間違えてしまった時にだれも止めることができないまま、悲惨な未来を粛々と受け止めるしかございません。どうかこの機会にわたしの諫言を受け止めていただきたいのです」
クロートの言葉はわたしを非難するものではないのがわかる。
わたしは悲惨な未来の言葉を聞いたことによって、夢のことを思い出す。
一度心を鎮めることを意識してやっと冷静になる。
……そうよ、あの未来を変えるために頑張ろうと決めたじゃない。
あの未来でも、もしかしたら誰かが止めようとしたのを聞き入れなかったせいかもしれない。
「わかりました。あなたの意見はもっともです。クロート、実はこのような手紙が来ましたの。あなたの意見を聞かせてほしい」
わたしは自分のポーチに入れていた謎の手紙をクロートへと渡す。
クロートは一言断って内容を一読する。
レンズが黒いせいでほとんど表情がわからないが、つっかえることなく読み進めているのでそこまで驚きはないようだ。
読み終えるとわたしに手紙を返す。
「変わった手紙ですね。まるで何かがそこで起きるのを知っているみたいな文面です。わたしがすぐに来られたのも、訓練場に姫さまが立ち寄ったことを聞いて護衛騎士たちと手分けをしてきたからですからね。あの訓練場でも何かあったのですか? どの領主候補生たちも言葉を濁すので、あまり追求しませんでしたので」
「実はあそこで領主同士で喧嘩が起きましたので、それを仲介しました。もう少しで怪我では済まない争いになっていたことでしょう。だからどうしても魔術の実験場に行ってその手紙の真意を探らなければなりません」
「そうですね、それに四の鐘ですと、魔術の実験場へ行くのにギリギリです。正直、姫さまの安全を守るために護衛騎士を連れて行きたいですが、時間がないので騎士の代行を務めましょう」
今度はわたしのお願いを了承してくれた。
先ほどの魔法の扱いをみれば十分に護衛としても問題ない。
……たしかクロートは文官でしたわよね?
セルランとどっちが強いのかしら。
セルランはわたしの護衛の中で一番強い。
親譲りな魔力の才に加えて、騎士の成績もトップクラスで卒業したのである。
だがクロートに関しては伝承通りであれば、魔法の才では他の追随を許さない。
普通なら文官と騎士なら埋めようのないほどの戦闘技術があるが、クロートの戦いは素人では決してなかった。
どちらが強いのかは考えてもわからないが、クロートがいれば安心できるという信頼はあった。
わたしたちはすぐに訓練場とは真逆の西にある棟へと向かう。
魔法の練習や実験をするために必要なものが数多く揃っており、領地ごとの研究所も入っているため、自領を発展させるためどこの領土も設備投資をする。
実験場はその名の通り、魔法を使用するための場所であり、危険な魔法を使う場合は許可が必要だが、基本は自由に使っても問題ない。
魔法の障壁が張られているため、外へ漏れ出る心配もない。
わたしたちは、実験場の大扉の前に立つ。
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そう言ってクロートから先に実験場に入ろうとすると、クロートが口と鼻を手で押さえて、マリアが入ろうとする前に手で制する。
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「いけません! ここはかなりの毒素があります! 魔法を一度使います」
わたしが驚く間も無く、クロートは魔法を唱え二人を光の膜で覆い尽くす。
外気を遮断するので、空気が汚染されていても問題なくなる。
クロートは少しキツそうにしながら、わたしに説明する。
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「ええ、それよりも大丈夫ですか? 顔色がかなり悪そうです」
クロートは頑張って苦痛を隠そうとしているが、隠しきれないほどの汗が滲んでいる。
「ここの倉庫にはかなりの触媒があるはずです。それで解毒の魔法を使います。では行きます」
クロートとわたしが中に入ると、大勢の生徒が倒れている。
総勢五十はいる。
マントの色は水色と黒色の二つだけだった。
……またパラストカーティですの?
もう一つはシュトラレーセ!?
シュトラレーセは毎年国への貢献度でトップで争う優秀な領土だ。
これほどの人数が毒で死ぬには国の損失も大きい。
一刻も早く救い出さないといけない。
わたしが驚いていると、クロートは水の魔法を放つ。
一人だけ黒いローブを羽織った仮面の者がおり、クロートはそいつ目掛けて魔法を放っていた。
反応が遅れたみたいで忌々しそうに舌打ちをして、大きな袋を投げて盾にする。
袋が破けて大量の実験道具が粉々に砕け散る。
クロートは続けて何度も魔法を放つが、器用な身のこなしで避けていく。
「お前は何者だ! 一体何をしている」
クロートの問いには答えず、筒を取り出して光の剣を作り出す。
間違いなく、先ほども見た剣である。
そしてその正体も簡単であった。
「あれはトライード! あなたどこの領土の者ですか! わたくしの五大貴族の名において命じます。ここで一体何をしているのですか!」
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