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第一章 魔法祭で負けてたまるものですか
入学式とゴーステフラート
しおりを挟む「ラナ・シュトラレーセがどのことを言っているかはわたくしには分かりません。それは王国院内でも噂にでもなっているのですか? どうやらわたしの目には闇の衣が覆っていたみたいで何も見てませんの」
わたしの言葉にラナとアリアは目を見開いている。
一瞬では何を言っているのか分からなかったようだ。
「でも、そうね。もし仮にその嘘の噂を少しでも払拭するためにこちらに何かしたいのなら、一つだけお願いがあるの」
「お、お願いとは?」
ラナは絞り出すように緊張した声を出す。
何を要求されるのか、なぜ今回のことを公にしないのか。
ラナは聡明な女性である。
おそらく頭の中でこちらの考えを読み解こうとしているのだろう。
「わたくし、季節祭で優勝したいので、わたくしたちの領土に協力しなさい。共同研究に関しては、すべての成果を奪うわけではありませんので安心してください」
まさかの要求に二人は口が開いている。
だがすぐにハッとなり、深々とお礼をする。
「我がシュトラレーセの力の限りを尽くします。寛大な御処置に感謝を」
「ああ、それとアリアさんーー」
わたしがもう一度口を開くと二人ともまた肩を震わせる。
何か命令するわけではないのに、ここまで恐がられていると少しばかり良心にくるものがある。
……ちょっとこのままじゃギクシャクしそうね。
少しでも気持ちを楽にしてもらわないと。
「学生たちが無事で良かったですわね」
わたしは少しでも気分を変えてもらうため満面の笑みで言う。
その言葉にアリアはゆっくり目線を下にやり涙が静かに流れるのがわかった。
わたしはまさかここで泣くは思わず、声を掛けようか迷ってしまう。
人前で泣くのは貴族の令嬢としてあまりよろしくない。
それに気付いたラナが、一旦下がらせる。
もう一度わたしの目を見るその顔は先ほどよりは緊張は取れておりお礼を口にする。
「マリアさまのような素晴らしき主人を持てる三領地が羨ましい限りです。どうぞ何なりとお申し付けください」
「わたくしもあなたたちのような素晴らしい領地を持てるスヴァルトアルフが羨ましいわ」
そこでシュトラレーセは寮へと戻っていく。
何個かの領土の挨拶が終わり、次はゴーステフラートから三人の領主候補生がやってくる。
その中の一人は昨日訓練場にいたユリナナだった。
レティアとわたしに挨拶をする。
ユリナナはわたしの派閥から乗り換えるということを言っていた。
ここで問い詰めなければならない。
「ごきげんよう、ユリナナさん。昨日はよく眠れましたか? 今日はぜひ教えてほしいことがありますの」
「……何なりと」
ユリナナは息をのみ、こちらに表情を読み取られないように笑顔を向ける。
彼女は分かっているはずだ。
わたしと手を切るのは自身の将来を左右することを。
だが、そうする理由を一つだけ知っている。
「ヨハネを選ぶつもりではありませんよね?」
わたしが従姉妹の名前を出すがユリナナは特に表情を崩しはしない。
後ろにいるセルランが息を飲むのがわかる。
ユリナナの両隣にいる二人の領主候補生はユリナナとわたしと交互に見る。
おそらくこの二人は何も聞かせられていないのだろう。
「わたくしはいつでも水の神のための剣であり、盾でもございます」
言質を取らせないつもりだ。
曖昧に濁してはいるが、ヨハネが主人となれば、守る対象が彼女になる。
ここですべてを晒すことはないようだ。
「そう、あなたの忠誠は嬉しいわ。でも一つ忠告ですが、わたくしともし敵対するのであれば、ヨハネ共々安穏な日々は送らせませんから」
「ありがたい忠告、心に刻んでおきます。マリアさまも足元の雑草にたまには目を向けてみてください。思わぬものが混じっている時がありますゆえ」
ここで皮肉を返すということはもう黒も同然。
だが、ここでユリナナを失うのは魔法祭でかなり不利を強いられる。
三領土のなかでは一番優秀なので、どうにかこちらへの裏切りは止めなければならない。
それかユリナナを潰してしまい、他の領主候補生にこちらの派閥へ入れさせるか。
「そういえば、パラストカーティの下級貴族を側近へお引立てされたと噂を耳にしましたが本当でしょうか?」
「あら、もう噂が広まっていますの? 」
「はい。さすがマリアさまです。身分で贔屓されずに登用されるとは。派閥として入っている我々にはまだ側近の話がきておりませんので、いつお引立てくださるかと楽しみにしておりますの。まさか我々にはお話はないということはありませんよね」
ユリナナの目が光る。
本来派閥に最初から入っているゴーステフラートが一番贔屓されるはずだ。
なのに未だ一人も側近にしてもらっていないのに、派閥に入っておらず、しかもパラストカーティの下級貴族を側近にするなど前代未聞だ。
派閥をないがしろにするのならば、ゴーステフラートは敵対関係になるぞ、という意味を込めている。
「もちろん、ゴーステフラートにもお話をしようと思いましてよ。やむを得ない事情があって、あなた方に伝えるのが遅れてましての。三領地の顔合わせの際に説明しますので、ご安心ください」
「そうですか。それを聞いて安心しました。ではまたお会いする日を楽しみにさせていただきます」
ユリナナとの話は終わり、その後のシュティレンツとパラストカーティの挨拶で今日の一番のイベントが終わった。
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