悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

文字の大きさ
39 / 259
第一章 魔法祭で負けてたまるものですか

デビルキングの襲来

しおりを挟む
 アビ・パラストカーティに滞在中のお礼を伝え、わたしたちは帰ることとなった。
 また水竜に乗って、王国院まで向かう。
 今回はわたしの側近だけ早く帰り、ホーキンス先生、メルオープ、ルートくんはゆっくり戻ることとなった。
 また長時間の飛行は体的にきついがヴェルダンディのためにはこれくらいでへこたれている時間はない。

「伝承が本当で助かりました。これでヴェルダンディも助けられます」
「そうですね。しかし、こういったことはこれっきりにしてもらいたいです。マリアさまにもしものことがあるかもしれないと考える者たちは大変なのですよ。特に王国院に残った者たちは」


 リムミントとディアーナのことだろう。
 たしかに王国院内でのことを任せたせいで負担も大きくなっている。
 少しはみんなを労わないといけないと考えていると、ラケシスが乗っている水竜がレイナを後ろに乗せて近寄ってくる。


「セルラン、マリアさまにもっと強く言ってあげてください。最近は無茶な行動が増えすぎな気がします」
「いいではありませんか。わたくしは今の姫さまの方が魅力的ですよ。神のお考えはわたくしたちでは理解できないように、姫さまもまたわたしたちでは想像もつかない先を見通されているのですよ。それならば黙って付いていくことこそが真なる配下ですよ」


 ラケシスが当然のように言うがわたしは行き当たりばったりなので、あまり期待値を上げないでいただきたい。


 ……まあ、失望されるよりはまだいいですが。


 レイナもラケシスに言い返すつもりはないらしく、ため息を吐くだけだ。
 セルランも肩を竦めた。

「今度サラスに伝えて、マリアさまの再教育計画でも練ってもらおうか」
「ちょっと、さらっと危険なことを言わないでください!」


 サラスの教育なんて受けたくもない。
 それをわかって言っているセルランの顔は悪ガキのような顔をしていたので、背中を軽く叩いた。
 軽く笑いあっているときにステラの声が響いてきた。

「全員、トライードを構えよ! 姫さまを守れ!」


 何事かと思うと、背後からデビルの群れが襲ってきた。
 常に怒ったように怖い形相をして大きな犬歯を見せつけながら、こちらにやってきている。
 かなり早い速度でこちらへ向かってきていた。


「マリアさま、お掴まりください。全員、遅れるな」


 わたしはセルランの体を力一杯抱きしめて、次の行動に備える。
 今戦うのは魔力の消費を早めてしまうので圧倒的に不利になってしまう。
 だが少しずつこちらとの距離を縮められていた。


「仕方がない、ステラ、ルキノ、撃退しろ! 」

 二人は了承して、水竜を敵の群れへと攻撃に向かわせる。
 下僕とアスカは二人に身体強化の魔法をかけてサポートする。
 二人の騎士のトライードがデビルの体を引き裂いていく。
 かなり強い魔物だが、わたしの護衛騎士はそこらへんの騎士ではない。
 しっかり魔物の生態について勉強しているので、的確に弱点を突いていく。


 このまま殲滅しそうになったと思いきや、デビルたちは五体ほど固まり始める。

「キシャキシャ……キャキャ」


 気持ち悪い鳴き声を響かせながら、その体は溶けて混ざり合った。
 次第に大きな別の生物へと姿を変えていく。
 先ほどのデビルと似た顔でありながら、その図体は人間の五倍はある。
 そして頭には黒いツノが大きく生えていた。
 その姿をみたセルランは驚愕で目を見開く。


「デビルキングだと……、自分の体を依り代に呼び寄せたというのか」


 セルランの焦りがこちらにもわかる。
 少し距離があるにも関わらず、かなりの威圧感がこちらにも伝わるのだ。
 デビルキングの目がこちらに向いた瞬間、恐ろしい殺意がこちらの全身を蝕んでいるような気にさせる。
 わたしは震える体を隠しながら、この凶悪そうな魔物について尋ねた。


「……デビルキングとはなんですの?」
「デビルの絶対者です。上級騎士が十人以上いなければ倒せない最高ランクの魔物です。このままでは全滅……ステラ!」

 ステラはセルランの声に呼ばれ近付いてきた。
 その間にルキノが敵を止めるため、一人で立ち向かう。
 アスカと下僕が後方から攻撃の魔法を、レイナとラケシスは補助と回復の魔法で援護する。
 わたしは嫌な予感がしてしまった。

「わたしが魔物たちを食い止める。そのため、マリアさまを代わりに送り届けよ」
「何を言ってますの! さすがに今のセルランではあの数は無理です!」


 デビルキングは強い魔物だと自身で言った。
 それにも関わらず、一人で戦おうなど流石に無謀だ。
 普段のセルランなら何とかしてくれるかもしれないと期待したかもしれない。
 しかし魔力を消費している今ではそれも難しいだろう。
 セルランは優しい表情でこちらを諭すような優しい声を向ける。


「マリアさまを守ることこそが我らの存在意義です」
「いやです! 大事な側近を助けるために一人の側近を見捨てたのでは何も意味がありません」


 わたしは自分がわがままを言っている自覚があった。
 しかしそれでもセルランを失うわけにはいかない。
 わたしは必死に考える。
 この状況を打破する方法を。
 王国院も目前であるので、全員の魔力が尽き掛けている。

「姫さま、今はわがままを言っている場合ではありません。セルランを信じてどうかこちらに」


 ステラがこちらに手を差し伸べてきた。
 ここで手を取ればわたしは助かるだろう。
 だがわたしは……。

 ……わたしのセルランを殺させはしない。

 その時、わたしの魔力が抑えきれなくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...