悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

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第一章 魔法祭で負けてたまるものですか

魔法は奥が深いですわね

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 長時間の説教を乗り越えてなんとかクロートも説得できた。
 前から五大貴族用の研究所はあったためそこで研究をすることになる。
 魔術棟の三階へと向かい専用の研究所へと入った。


「初めて来ましたけど、やはり他の領土とは比べ物にならないほど大きいですわね」


 一階と二階で十八領地入っているが、この三階は五大貴族専用の研究所しかないのでかなり広い。
 普段から手入れもされておりさまざまな研究結果が書かれた写本が置いてある。
 また触媒等も豊富でさらには実験場と同じ空間も入っている。
 すべてがここで完結できるようになっているのだ。


「当主候補生であれば何度も足を運んで欲しいものですが、姫さまは魔法を扱うことを禁じられていましたからね。今日からぜひここに何度も足をお運びください」


 クロートは疲れたような顔をしているが何だかんだ許してくれた。
 側近たちもここに入ったのは初めてのため感嘆をもらす。
 一人だけ別の領土であるアリアだけは緊張している。

「わたしなんかが本当にこのようなところに入ってもいいのでしょうか?」
「もちろんよ。アリアさんがここで研究をしてくれるなら、わたしの魔法の特訓もできますしね。そういえばアリアさんは誰と同調をしているのですか? わたくしは相手がいなくてすごく困っていましたのに」
「わたしは普通に専属の教師とやっていただけですよ」
「それはその教師もクロート並みの魔力を持っているってこと?」


 アリアは首を振る。
 どうやらそうではなくて、後天的に魔力が急激に増えたので魔力コントロールは覚えていたのでその要領で使いこなせるようだ。
 魔力は確かに後天的に上がることはあるが、劇的に上がるのはごく稀である。
 それも一般の領地候補生レベルから普通の五大貴族を超える魔力を持つ者は聞いたことがない。


「ではせっかくなので姫さまはアリア様と同調を行ってもらいましょう。わたし以外との感覚について学ぶのもいい練習です」


 わたしは頷いてアリアへ両手を向ける。
 背がわたしの方が大きいのでかなり下向けないといけない。
 アリアはわたしの手のひらと手のひらを合わせた。
 お互いに魔力を感じながら、ゆっくりゆっくり魔力を上げていく。
 どんどん魔力を放出していき、青い光と黄色い光が混ざり合うように空へと上がっていく。
 ある程度限界まで上げきってお互いにゆっくり下げていき、同調の訓練を終えた。


「さすがはマリアさまです。すごい魔力をお持ちです」
「アリアさんもね。あなたが上手く調整してくれるから、暴走もなく終えられました」


 アリアの魔力コントロールはかなり細かい。
 わたしが少し魔力量の調整をミスしてもすぐにカバーしてくれる。
 そこでクロートも次の段階へと練習レベルを上げる。


「では、魔法の基礎訓練を始めたいと思います。アリアさまの研究や特訓は姫さまの特訓後に手伝いますので、それまではお付き合いください」
「かしこまりました。このような素敵な場所でやらせていただけますので、協力は惜しみません」


 簡単な身体強化を部位ごとに行う。
 それが終わったら、次は弱い魔法の強弱を付ける練習。
 どれも魔法を使うための基礎訓練だ。


「結構疲れますわね。よくみんなこんなことを続けられますわね」
「マリアさまは初めてですから無駄に使っている魔力も多いのですよ。騎士は毎日続けていますから、次第に無駄な消費も減って効率よく魔力を使えます」


 やはり積み重ねが大事かと、セルランの説明に納得して、一生懸命訓練をこなしたので体が完全にバテてしまった。
 一度椅子に座って、わたしはクロートとアリアの研究を近くでみることとなった。


「ではまずはどの実験を行うのか教えてもらえるでしょうか?」
「はい。わたしが今やろうとしているのは合成魔法です」


 合成魔法、意味はなんとなくわかるが聞いたことがない言葉だ。
 側近たちの顔を見ても誰一人知らないようだ。
 クロートだけはそれを考えるように、腕を組み頭の中で何かを考えている。


「それは、言葉の通りに考えると、二つの魔法を単独で出すのではなく、あくまでもどちらの特性も壊すことなく発動させるということですよね?」
「はい。ただ二つの魔法を同時に出すにはどうしても詠唱の関係上不可能です。それで魔道具に魔法を一時的にストックさせれば、それも可能ではないかと思っています」


 魔法は一つの魔法ごとに詠唱が必要であり、必ず時間差ができてしまう。
 そのため合成魔法なんてものは本来やってみたいものではあるが、現実的でないものとなる。
 そこでアリアは道具を使えばそれを可能にできるというのだ。
 アリアがどの道具を使っているかを教えてもらい、クロートは研究所内にある触媒や素材を持ってきてから大きな窯の中に入れる。
 そして、大きな棒を使ってかき混ぜていく。
 全員がその窯に注目した。
 ゆっくり魔力を加えながら混ぜていくと、次第に素材たちは形を変えて混ざり合う。
 まるで紙粘土みたいになったあと、クロートが詠唱するとその形がブレスレットへと変わった。

 クロートは一度そのブレスレットを腕へとはめて。弱い火の魔法を出す。
 火はブレスレットの真上で燃えており、続けて弱い風の魔法を唱えてその火の中に混ぜて空へと舞い上がらせると、大きく爆発を起こした。
 それを見て全員が目を見開く。
 セルランですら驚いている。
 アリアは目を輝かせながら大きく拍手をした。

「すごいです! 一瞬でわたしが言ったことを再現するなんて。合成するには魔力の構成要素の比率も細かく変えないといけないのに」


 わたしは何か凄いのはわかるが、まったく理論的なことはわからない。
 こういうのは魔法オタクである下僕に聞いてみるのがいちばんだ。

「魔法は神たちから賜るものです。だけど神の魔法は純粋な力で詠唱ごとに賜わる魔法は異なりますから、本来なら誰が使おうと詠唱が同じであればどれも同じ効果であるはずです。しかしそうはならない、どこで差ができるかは使う者が自身の魔力をどのように魔法に組み込んだかで決まります。魔力は本来不純物ですが、その不純物がなければ魔法もまた機能しないのです。まだマリアさまは魔力のコントロールを覚えていないので無意識で行なっておりますが、やろうと思えば領主候補生クラスの魔法でロウソクの火を付けることもできるのです」


 ……なるほど、よくわかりません。

 わたしは早々に理解を諦めた。
 だがあの弱い魔法であれほど爆発を生めるのなら、もしもっと強大な魔法を合成できれば騎士たちの魔物退治がかなり楽になる。

 ……もしかしてアリアさんはかなり凄いのではありませんか!


 まだ十歳になったばかりとは思えないほど魔法への造詣が深い。
 少しばかり嫉妬の気持ちはあるが、アリアの笑顔はそれまでの苦労があったからこそだろう。
 これから全ての季節祭を乗り越えるには、アリアのように努力している子たちを超えていかねばならない。

「わたしも……負けてられませんわね」


 わたしは誰にも聞こえない声で呟いた。
 すぐに椅子から立ち上がって、今の現状から予想を立てていくしかない。
 魔法祭まであと五日はある。
 それにできることはしなければならない。
 わたしはこぶしを握りしめて、側近たちとマンネルハイムの作戦を練るのだった。
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