悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

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第一章 魔法祭で負けてたまるものですか

お姉さまと呼びなさい

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 王国院に在籍している生徒は全員集合している。
 各領土ずつ列を作って整列して魔法祭の順位発表を待っていた。
 わたしは普段なら五大貴族という地位を利用して観客席で観ているだけだったが、今日は出場者一丸となって勝利を目指したので一緒に立って整列している。


「流石に緊張します。一位ですよね?」


 わたしは不安な気持ちを抑えるためにレイナとアスカに確認した。
 二人とも苦笑いを浮かべてわたしを励ます。


「もちろんですよ! マンネルハイムは優勝、それに研究の発表も好評だったではないですか」
「わたくしもあの鎧の強化にかなり協力したので、今回は研究でほかの領土に負けているわけがありません! マリアさまは胸を張ってわたくしたちを信じてください」


 そうよね、とわたしも納得した。
 ここまでやってダメならそれはもう時の運がなかったのだろう。
 気分を変えるため雑談をしていると、王国院長のムーサが生徒の前に立つ。
 白のローブを身に纏い、歳を召しているにも関わらずその佇まいは未だ現役の雰囲気を持っている。


「学生のみなさん、本日は魔法祭お疲れ様でした。どの領土も今日のために頑張っていることは知っていますが、今年は特に盛り上がったようにも思えます。特に王族と五大貴族の血族が盛り立てたことで今までにない団結力が垣間見られました」


 そこから長々と話が続いていく。
 わたしもムーサの言葉に感じるものがあった。
 ムーサの話が終わり、次に今回の表彰となる。
 まずは結果がわかっているマンネルハイムからだ。
 順位は最下位から呼ばれてることになっている。
 最初に前に出たのはアクィエルだった。


 ……あっ、最下位でもしっかり出るんだ。


 わたしの心の声が聞こえたのか振り向いたのでどきっとした。
 あまりバカにしすぎるとこちらにも返ってきそうなので、笑う代わりに手を振ってみせた。
 ハンカチを握りしめて、こちらを恨めしい顔で睨んでフンっと鼻を鳴らした。

「マリアさま、あまり挑発はしないでください」


 これでもダメみたいだ。
 わたしはレイナに注意されたのでおとなしくしておく。
 おそらくあちらもわたしたちと戦ったせいで同様の被害状況だったのだろう。
 それを考えれば領民の規模からいっても順当だろう。
 三位はシュトラレーセだった。
 ラナとアリアは出場していないため別の者が出てきた。
 二位はウィリアノスがガイアノスの代わりに前に出てきた。
 ガイアノスはおそらくかなり立場が危うくなっているに違いない。


「ではいってきますね」


 わたしは全員に見送られながら、他の代表者が空けている真ん中を通って先頭へと向かった。
 ウィリアノスは気まずそうにこちらの顔をチラチラと見ていた。
 決心したのかあちらから声を掛けてくれる。


「ガイアノスが済まなかったな。俺がいながら婚約者のお前を守ってやれなかった」
「そんなことはありません。あれはガイアノスがおかしくなっていただけですから。どうか気に病まないでくださいませ」
「そうか、この謝罪はいつかする。あと……おめでとう」


 ウィリアノスは少し顔を赤くしながらそっぽを向く。
 その反応に心が浮き上がるような感覚になる。
 隣でアクィエルが、ギャアギャアうるさいが無視できるほど幸せな気分になっていた。
 そのままムーサの前まで行った。


「マンネルハイム一位、ジョセフィーヌ領。貴方の領土は幾重にも策や道具を駆使して領土間の魔力差を補ったことは大変素晴らしいものです。教育者としてこれほど成長した者たちを見られること以上に幸せなことはありません。これからも日々精進して、騎士祭でも驚かせてくれることを期待しております。一位おめでとうございます」
「ありがとうございます」


 わたしはムーサから一位のトロフィーをもらって一礼をした。
 そして後ろを振り返り、全員に見えるように両手でトロフィーを掲げた。
 会場から大きな拍手をもらい実感する。
 初めは死にたくない一心で始めたことだが、気付けば一生懸命に行事に取り組んでこの結果が現れた。
 わたしに付いてきた者たちも晴れやかな表情のため、少なくとも間違ったことはしていないことはわかる。
 一度列に戻り直して、次は研究所ごとの発表だ。
 各領土から優秀な発表だった場合は制限なく呼ばれていく。
 やはり大きな領土ほど呼ばれる研究所は多い。


「マリア研究所」


 わたしの研究所も呼ばれたので、アリアも呼んで一緒に前へと向かった。
 アリアは少し緊張しているようでもじもじとしている。
 この子は本当にレティア並みに可愛いな、と思い少し微笑ましい気分になった。

「行きましょうか」
「は、はい。まさかわたしたちの研究が選ばれるなんて」
「あら、わたくしは絶対選ばれると思っていましたわよ。だってアリアさんの研究は素晴らしいものだったではないですか」


 合成魔法の研究なんてまだどの領土も着手していないので、アリアが先駆者であると考えれば選ばれない方がおかしい。
 共同研究のため一応わたしも前に出ているが、魔力を貸しているだけのためわたしこそが場違いだ。
 ちょっとこの場に出るのは恥ずかしい思いもあるため、もう少し魔法学と魔法工学についてはしっかり勉強しようと思った。

「どん底からマンネルハイム優勝を導いていたマリアさまにそう言ってもらえると嬉しいです。もしよろしければわたしのことはアリアと呼んでくださいませんか。マリアさまにはそう言っていただきたいのです」


 もじもじ恥ずかしげに言うアリアが可愛すぎてわたしは悶絶した。
 これはやばい。
 意識が持っていかれそうになる。
 ここでわたしに魔が差してしまった。

「いいですわよ。でしたら、アリアはわたしのことをお姉さんと呼んくれませんか」


 えっ、と声が漏れてアリアは固まってしまった。
 そこでわたしは正気に返ってやばいと今更思ってしまった。
 つい欲望の部分が出てしまい、アリアに無理強いをしたようだ。

「ご、ごめんなさい。嘘よ、嘘! ただレティアのように可愛かったからつい言ってしまっただけですから」
「いいえ、ただその嬉しくて……ま、マリア……姉さま」


 ……かはっ!


 わたしは吐血したかと思うほどのインパクトを受けたと錯覚した。
 予想以上の破壊力にわたしが耐えきれなかった。
 耳まで赤くしているアリアに誰が正気で保たれようか。

「だ、大丈夫ですか?」
「ええ、平気よ。アリア、今日からそう呼ぶようにね」


 これで可愛い妹が二人できた。
 ラナにもあとで説明して了承を得ないといけないと考えると隣で煙草の臭いした。


「マリアさま、優勝おめでとうございます」


 せっかくの良い気分を冷ましてきたのは、いつものように眠そうな顔をしているホーキンス先生だった。
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