悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

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第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

緊急事態

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 わたしは急いで手紙を隠した。
 まだこれを誰にも見せるわけにはいかない。


「マリアさま、レティアさまが来られますのでお着替えをお手伝いします」

 レイナがやってきたのでわたしはベッドの上に戻って入室を許可した。
 すぐさま着替えを済ませてレティアと食堂へと向かう。
 食事の後にはメルンの実が出された。
 レティアはフォークでメルンの実を食べると美味しそうに顔を緩ませた。

「メルンの実が出るなんて久し振りですね」
「そうね。料理人も当たりを探すのが大変だから出したがらないですからね」

 側近たちもご満悦のようで満足した。

「あら?」

 わたしはテーブルに座る人数が少ないことに気が付いた。

「どうしました?」

 レティアがわたしの視ている先を見渡した。
 レティアも少し怪訝な顔をした。

「ヨハネの派閥にいる者たちが誰もいませんね。下僕、何か知ってーー。あれ? 下僕は?」

 いつも隣に来る下僕が居なかった。
 わたしがヴェルダンディを見ると彼も知らないようだった。
 戻ってからどこにいったのか。

「アスカ、ヨハネ派閥はどこに行ったか知っていますか?」
「はい。どうやらヨハネさまが集会をしているみたいです」

 ヨハネがこちらに来て何か企んでいるようだ。
 一体派閥を集めて何をするつもりなのか。

「お食事中大変申し訳ございません。マリアさまとレティアさまに至急お話があるとシルヴィ・ジョセフィーヌがお呼びです。通信の魔道具がある部屋までお越しくださいませ」

 ここの寮長がわたしを呼びにきた。
 お父さまからわたしに緊急の呼び出しなんて珍しい。
 レティアと顔を見合わせて、すぐさま部屋へと向かった。
 部屋の中央にある水晶に魔力を通すと、目の前にお父さまの姿が粗く映った。

「緊急の呼び出しをしてすまない」
「いえ、シルヴィ・ジョセフィーヌの命であるなら何よりも優先すべきことです」

 今回は公務であるため、家族で見せるような砕けた話し方はしない。
 お父さまは重々しく頷いた。

「現在、ゴーステフラート、シュティレンツ、パラストカーティで大量の魔物が発生した。それもこれまで類をみないほどの数だ。ドルヴィとスヴァルトアルフにも緊急の要請を行ったが被害はどんどん拡大中だ」
「大量の魔物? 一体どうしてそんなことに……」


 これまで小規模の魔物の発生は起きているが、この国の王族まで協力を要請するなんて只事では済まない。
 そしてわたしは一つの真実に気が付いた。

「まさか、わたくしが伝承を……復活させたから?」

 魔物は豊富な魔力がある土地を好む。
 そして現在、どの土地も魔力が潤い始めている。
 血の気が失せた。

「お姉さま……」

 レティアがわたしの手を握ってくれた。
 手が冷たくなったせいか、レティアの手の温もりを感じる。

「マリアよ。今回のことはお前のせいではない。我々も対策を怠ったのだからな」
「何か、わたくしもお手伝いさせて頂けませんか! 」

 自分で招いた問題は自分で解決したい。
 わたしは前のめりにながら懇願した。
 だがお父さまは首を振った。

「だめだ。お前がいたところで何かが変わるわけではない。だが一つだけ頼みがある。セルランを呼び戻してくれ。今回ばかりはセルランの力がないことにはどうにもならないのだ」
「セルランですか?」

 わたしは後ろで控えているセルランに目をやった。
 セルランは呼ばれていることに気が付いて、わたしの近くにやってきた。

「シルヴィ・ジョセフィーヌ、わたしはマリアさまの安全を守らないといけません。今回お側を離れることは、それよりも優先すべきことでしょうか?」
「うむ、お前の考えも分かるが、今回ばかりはこちらが大事だ。あまりにも強大な魔物が各領土に一体ずつ現れており、何人もの騎士が犠牲になっている。グレイルも一体の魔物に勝ちはしたがしばらく動けないほどの重傷を負った」
「父上が!?」


 セルランの動揺はわたしの動揺でもある。
 セルランを除けばジョセフィーヌ最強の騎士であるグレイルがたかだか一体の魔物にそうなるなんて。

「まさか、シュティレンツで出現した魔物が現れたのですか」

 グレイルが苦戦するほどの魔物に一体だけ心当たりがある。
 シュティレンツの洞窟でセルランを追い詰めた牛の魔物。
 もしまたあれほどの魔物が出たら、騎士が何人いても犠牲が増えるだけだ。


「いや、前に報告をもらった魔物とは姿は違った。だがもうそんな魔物を討ち取れるのはセルランしかいない。マリアよ、彼に命令してくれ。領土の危機なんだ」

 シルヴィの言葉に頷こうとしたが、躊躇いが生じた。
 前の牛と戦ったときは相討ちに近かった。
 もし次も勝つ保証なんてない。
 そうなればわたしはセルランを失ってしまうのだ。

「マリアさま」

 セルランがわたしの方へ向き直り、膝をついた。

「ご安心くださいませ。前は不甲斐ない姿をお見せしましたが、二度同じ醜態を晒すつもりはありません。マリアさまから頂いたガントレットさえあれば、恐るるに足りません」

 そのガントレットを見て、少しばかりわたしはズキッと心が痛んだ。
 ウィリアノスさまが言った通り、わたしは魔力を込めただけでゼロから作ったものではない。
 だが、ここでそこを気にしてはいけない。
 それがあればセルランの生存率が上がるのだから。
 わたしは次期当主として感情に流されてはいけない。


「セルラン・ジョセフィーヌ。マリア・ジョセフィーヌが命じます。グレイル騎士団長に代わって、総指揮を執りなさい。わたくしたちの領土に仇なす敵を一掃しなさい」
「この命に代えても」


 セルランは直ちに部屋を出て、お父さまのところへ向かう準備をするだろう。
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