悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

文字の大きさ
167 / 259
第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

護送

しおりを挟む
 わたしの声で少しずつざわつきが収まっていく。

「マリアさま! どうか我々を頼ってください!」

 メルオープは胸に手を当てて決死の顔を見せる。
 だがそれはできない。
 もしパラストカーティがシルヴィに逆らえば、すぐさま騎士団が動いて簡単にこの土地が消えてしまう。
 結局は意味がないのだ。

「メルオープ、貴方の気持ちは嬉しいですが今無駄に命を捨てることはありません。クロート、わたくしは貴方の言う通り、城へと向かいます。だからどうか今日のことは見逃してもらえないでしょうか」

 クロートは眼鏡を手のひらで上げて調整した。

「いいでしょう。わたしは何も見ていませんし、何も聞いておりません。姫さまが戻って頂ければそれで万事上手くいきますからね」


 クロートは今回のことは不問としてくれるようだ。
 これで全て丸く収まる。


「マリアさま」

 メルオープが静かに、怒りを押し殺しながらわたしを呼んだ。

「どうか何かあれば我々をお使いください。我々は貴女こそ水の女神だと思っております」

 メルオープは膝を曲げた。
 それに倣うように他の騎士たちも膝を曲げていた。


「ええ、貴女たちはわたくしの剣ですからね」

 わたしはクロートに連れられて、一度パラストカーティの城に戻ってから馬車に乗ってジョセフィーヌ領の我が家に戻る。
 正直体が疲れているときに馬車に長時間乗るのはきついものだ。


「いいかげんこの鎧も脱ぎたいですね」

 わたしは鎧を付けたまま馬車に乗っているので、体が重くて仕方がない。
 一日くらいゆっくりさせてほしいが、これは自分に返ってきた罰だろう。
 そこでわたしのお世話係として、レイナとラケシスは同乗を許されていた。


「このあと、第二都市ラングレスで宿泊をするらしいのでそこまで我慢してくださいませ。少しでも羽を伸ばせるようにわたくしの従兄弟の家で滞在できるようにしましたから」


 レイナとは幼馴染でもあるため、その家族とも縁が深い。
 レイナと同じく真面目な者が多い家系であるので、わたしに取り入って権力を握ろうとする者はいないのでかなり安心できる。
 ラケシスはハンカチを持って悲しんでいた。

「おいたわしいことです。これほどの功績を挙げた姫さまを休ませることなく長距離の馬車で連れ回すなんて。少しは主人の命令ばかり聞くことなく、臨機応変に対応する大人の気概を見せて欲しいものです」
「それはわたしがいないところで愚痴ってもらえないですかね」

 クロートは黒い眼鏡をしているせいで表情が見えないが、声的には特に怒っていないようだ。

「仕方がないのですよ。シルヴィの命令を無視した姫さまの行動は様々な人間の心証を悪くしました。ですが、それと同時に下の者のために動く姿勢に心打たれた者も多いのです。ですから今後の姫さまのためにも今はできるだけ従順な姿勢を示さないといけません。シルヴィも姫さまを処罰などしたくないのですよ。だからわたしだけを派遣したのです」

 そこで優しいお父さまの顔が浮かんだ。
 何だかんだわたしを心配してくれているようだ。
 少しばかり悪いことをしたという気持ちが今になってやってきた。


「マリアさま、今回のことはとても素晴らしいことです。元々は王族がスヴァルトアルフの援軍を邪魔したことが全ての原因なのですから」
「レイナの言う通りです。あのガイアノス……さまがドルヴィになるなんて心配しかありません。いっそのこと、ジョセフィーヌ家がこの国を統べた方がいいのではないですかね」


 二人から励まされ、なんだか気持ちが温かくなる。


「王族は一体何をしたいのかわかりませんね。現に今回も……いえ、今の発言は忘れてください」
「どうしましたの? 隠されると気になります」


 クロートが急に言葉を切るので気になって仕方がない。
 聞き出そうとするが、これ以上教えてくれる気はないようなのでわたしは諦めた。
 日が落ちる前に貴族街にあるレイナの従兄弟の屋敷へ辿り着いた。
 前もって連絡が行っているので、侍従たちとレイナの従兄弟であるこの屋敷の主人が外でわたしを待っていた。
 わたしは御礼を告げて、すぐに体を清めた。
 そして食事を摂ってから、すぐに眠りに落ちることになった。
 朝になり、ドレスへ着替えを始めた。

「ゆっくりできましたか?」

 レイナがコルセットを巻きながら心配そうにわたしに聞いてきた。
 疲れていたのもあってすぐに寝たので体調が良いくらいだ。

「ええ、ぐっすり眠れました。ありがとうレイナ」
「いえいえ」
「そういえばラケシスは?」

 一緒に泊まったはずなので、てっきり朝の支度も手伝ってくれるのかと思ったのだが。
 レイナも心当たりがないようだ。

「どうも昨日の夜からクロートと出かけてから帰っていないそうです」
「それって……まさか駆け落ち?」

 わたしの言葉にレイナの手の力が緩まった。
 お互いに顔を見て、その結論しかないと思ったのだ。
 夜に二人で出て行くなんて、何か特別な事情があるに違いない。
 でも魔力量的に子供を宿せないのなら、結婚はできないので駆け落ちしか出来なくなる。
 まさか自分の側近がシルヴィの側近と駆け落ちするなんて考えられるものか。

「まさかラケシスに好きな人が出来るなんて……。同僚として喜べばいいのか、主君を裏切ったとして憤ればいいのか」
「考えるとこおかしいでしょう! ラケシスだって年頃の女の子なんですから、仕事ができるクロートを好きになっても仕方ないです。でもまさかーー」

 そこでドアをノックする音が聞こえた。

「姫さま、朝から妄想たくましいですが、ラケシスさまに仕事をお願いしただけです。わたしはここにいますので、着替えが終わったら呼んでくださいませ」

 少しばかり苛立った声が聞こえてきた。
 どうやら勘違いのようだ。
 わたしとレイナは、ははっ、と笑いあってすぐにドレスを着るのだった。
 着替えも終わり、クロートを呼んだ。

「もう、ラケシスにお願いするのなら一言お掛けください」


 主人であるわたしに一言あれば勘繰ったりしない。
 これはクロートの報告ミスだ。
 だがクロートはため息を吐くだけだった。

「昨日伝えましたよ。伝えた後、すぐに眠ったので忘れているだけではありませんか?」


 そういえば昨日の夜何か話しを聞いていたような、聞いていなかったような。
 わたしはそこで昨日のことを思い出す。


「姫さま、少しばかりラケシスさまをお借りします。内容についてはーー」
「分かりました。報告は明日聞かせてください」

 そういえばわたしはあまりにも眠くて、クロートの話を適当に流した。
 やっと思い出したので手をポンと叩いた。
 そこでレイナから白い目で見られた。

「マリアさま……」

 ……てへっ。

 眠かったから仕方がない。
 まあ特に何か変なことをしていないのならそれでいい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...