悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

文字の大きさ
185 / 259
第三章 芸術祭といえば秋、なら実りと収穫でしょ!

ヴェルダンディ視点5

しおりを挟む
 俺は今日、遠目からルキノを見ることになる。


「ルキノさま、少しいいですか?」


 メルオープがルキノに話しかけていた。
 セルランに勝つために訓練をしないといけないが、その前にルキノにメルオープを意識してもらわないといけない。


「はい、どうかしましたか?」
「何でも、来年のマンネルハイムへ向けてのメニューを考えているらしいので、わたしもお手伝いしてもよろしいですか?」
「もちろんです! すごく助かります!」

 ルキノの笑顔によってメルオープの顔が少しばかり赤くなる。
 だがそれにルキノは気付いていないのか、少し視線がずれている。
 俺はその視線の先を追った。


「なら図書館で戦術の本をーー」
「あっ、マリアさま!」


 ルキノは一目散にマリアさまの元へ走った。
 俺もすかさず走る。
 主人が通られたのなら何よりも優先すべきである。
 俺とルキノはマリアさまの前で跪いた。

「二人ともおはよう。ルキノ、訓練のお話中にごめんなさい」
「いいえ、マリアさまがお越し下さること以上に大切なことはございません。それではどういったご用件でしょうか」
「ルキノはこの後、部屋に来てもらっていいかしら? セルランも同席しますが構いませんよね?」
「もちろんでございます」

 一体何の話をするんだ?
 セルラン同席の話し合いなんて、まるで付き合うことを主人に了解を取るようではないか。
 俺が動揺していたのをセルランに悟られた。

「どうした、ヴェルダンディ? 」


 一斉に視線が注がれた。
 気持ちが焦るが、どうにか平静を装わなければならない。

「いえ、少し芸術祭に向けての練習で疲れただけです」
「大丈夫、ヴェルダンディ? ダンスパーティーもあるのだからほどほどにね」


 マリアさまから心配されているのに嘘を吐くのは嫌だが、あまり主人を詮索するものではない。

「畏まりました」

 その後、ルキノだけは姫さまに付いていく。
 メルオープがこちらに近付いてきた。

「ルキノさまたちは大事なおはなしをしていたのか?」
「わからない。だが気にしても仕方ない。まだ芸術祭まで時間があるからメルオープの良いところをアピールしていこう」

 まだまだどうなるか分からない。
 そう思っていたが気付けば数日があっという間に過ぎ去り、芸術祭当日となっていた。
 訓練場で各領土毎に踊りや楽器を披露する。
 今年はマリアさまとアクィエルさまがどちらともやる気になっている。


「皆さん、ゼヌニム領にだけは負けてはいけません! これまでの練習の成果を見せてあげましょう!」
「芸術祭こそわたくしに勝利を届けなさい! 本当の芸術を知っている領土はわたくしの領土に決まっていますので、お手本を見せてあげなさい! マリアさん、ぜひ真似してくださいませ!」

 お互いに意識しあっているせいか、踊りや楽器は想像以上に上手くなった。
 だがそれ以上にマリアさまとアクィエルさまの踊りや楽器は誰もが感嘆するほどのレベルになっており、どちらも負けたくないからこそここまで高め合っているのだろう。

「ぜぇぜぇ、やりますわね。流石はマリアさんです」
「はぁはぁ、そっちこそ。まさかわたくしの踊りについていくなんて」

 お互いに全力を出し切っているので、かなりお疲れのようだ。
 傍目から見ても、甲乙付け難いため、勝負となるのは、最後の絵画となるだろう。
 自分が住む領土をお題として、誰が一番上手く表現するのかが課題だ。

「そういえば、今年が誰が描くことになっているんだ?」


 俺は隣に立つルキノに聞いてみる。
 自分の練習やメルオープの恋で頭が一杯だったので、そこまで関心を向けられなかった。

「さあ、どうもわたくしたち、ジョセフィーヌ領からの選出が最後まで無かったと聞いています」
「なんだそりゃ。でもしっかり六個の絵画が置かれているぜ?」


 中央に集められた絵画を魔道具で大きく映し出している。
 まだ布を被せられており、どのような作品か全く分からない。
 先生が一つ一つ発表していくことになっており、最初は自分たちの領土からだ。


「では本日の芸術祭の最後を飾ります絵画を一つ一つ見ていきましょう。まずはジョセフィーヌ領、何と今回の製作者は驚きのあの人。数々の奇跡を起こしており、先日最強の魔物エンペラーを倒してドラゴンスレイヤーの称号を手に入れた、マリア・ジョセフィーヌさまだ!」


 マリアさまの名前を聞いた瞬間、俺たち側近は全員同じことを考えただろう。

 ……終わった。


 マリアさまは一人だけ自信満々に手を振っている。
 後ろに立っているセルランは手で顔を隠して大きなため息を吐いている。
 珍しくマリアさまのお近くにいるサラスさまが目眩を起こしてレイナに支えられている。


「ほう、マリアさまの絵か。まだ一度も見たことないから、ぜひその腕前を見てみたーー!?」

 ルキノも目眩を起こしたので、倒れる前にメルオープがルキノを支えた。


「一体どうしたのだ! ゔ、ヴェルダンディ、ルキノさまは体調が悪いのか?」
「気にしないでくれ、これからその理由が分かるから」


 メルオープはさっぱり意味が分からないと顔に書いている。
 だが仕方がない。
 知っている者などほとんどいないだろう。
 マリアさまは……。

「まだわたしも拝見していないので楽しみにしておりました。では、ぜひご覧ください、水の女神の芸術さ……くひん……を?」


 先生が布を外したその絵にはよく分からない生首や荒廃した風景、そして白黒の背景。
 マリアさまは自信満々の笑顔でこの絵の説明を始めた。

「これは、勇敢な戦士が多いわたくしの領土を表しています。場所は戦場という意味で少し暗いトーンを使っています」

 ……なぜ芸術祭でそれを選ぶのだ。


 普通はもう少し未来ある絵を出せばいいのに、どうしてこのような一般の感性と違うものを表現するのか。
 その絵を見ている全員がポカーンと口を開けていた。
 それに気が付かないのかずっと熱弁するマリアさま。
 そう、マリアさまは自分の芸術に自信があるのかあのように力の入った説明をするのだ。
 誰も注意できる人間がいないため、マリアさまの長いお話が終わるまでずっと立っている。
 俺たち側近は本当に申し訳ない気持ちになるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...