悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

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第四章 学術祭は無数にある一つの試練

心の呪い

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 王国院に戻ると、そこはまるで天災が起きているようだった。
 洪水にトルネード、火の大玉、どれもが相手を殺すことのできる魔法だ。
 おそらくセルランとクロートがずっと戦っているのだろう。

「やべえ戦いだな。これが二人の本気の戦い」

 ヴェルダンディは冷や汗を流していた。
 セルランに勝つことを目標にしていたが、遠くにいる今でも彼らの戦いの余波が来るのだ。

「ですが二人とも我を忘れていますね」

 ルキノは冷静に分析していた。
 ここは学生が勉強をする場所だ。

「止めましょう」

 わたしたちは二人の戦いが行われている場所まで急いだ。
 どちらも疲弊しているが、まだ十分魔力も残っており、一撃必殺を見極めているようだ。

「どうしてお前なんかが現れた」

 セルランは睨み、クロートへトライードを振るった。

「お前なんていなくてもわたしがいれば何も問題無い!」

 逃げた先を先読みして再度トライードがクロートを襲った。
 だがそれを上手く受け流した。
 隙が出来たのででクロートは反撃を始めた。

「マリアさまを殺そうとした分際が何をほざくか!」

 普段の温厚とは異なり、彼の感情がむき出しになった。
 セルランとは違い、彼は手数で勝負を仕掛けた。
 弱い魔法を囮にして、どれが必殺の一撃か悟らせない。
 だがセルランの目に誤魔化しは効かない。

「どうして裏切る、ずっとお側にいられて、才能もあり、望むものは全て手に入れられる。それなのにどうして裏切れるんだ!」


 クロートの刺突がセルランの心臓を狙った。
 だがセルランはそれを弾いた。

「お前に分かるまい!」

 また攻守が逆転した。
 お互いに譲らない意地があった。
 どちらが負けてもおかしくないほどに接してる戦いだ。

「このままじゃ二人とも危ない、止めなさい!」

 わたしが走ろうとしたら、ヴェルダンディから腕を引っ張られた。

「いや、無理ですよ!」
「そうです。マリアさまをあのような危険なところに送り出すなんて出来ません」

 ヴェルダンディとルキノから止められて、わたしは唇を噛んだ。
 一体どうすればこの戦いを止められるのかがわからない。
 その時、空から大水が降ってきた。
 もちろん戦っている二人は難なくそれを避けた。
 わたしは誰がやったのか探した。

「れ、レイナ!?」

 魔法を放っていたのはレイナだ。
 消息が分からなくなっていたようだが、無事でいてよかった。
 しかしその目は涙に濡れていた。

「お前も邪魔をするのか!」

 セルランはレイナに怒声を浴びせた。
 だがレイナは怯まず、一直線に駆け寄った。

「危ない、レイナ!」

 わたしは大声で叫んだが、それでも止まらない。
 レイナは右手を振り上げて、セルランの頬を思いっきり叩いた。
 一瞬の硬直をした。

「レイナさま、ここはあぶなーー」
「クロートは黙っててください!」

 レイナの一喝にクロートは口を開けて呆けていた。
 いつも以上に恐いレイナがそこにはいた。
 セルランだけはきつい目を向けていた。
 トライードに力が入るのが見えた。

「そんなに恐ろしいなら斬ればいいです」

 ピクッとセルランの手が止まった。
 レイナは話を続けた。

「ヨハネさまとの話は聞いていました」

 ……ヨハネ!?

 またあの女が何かをしたのか。
 そこでわたしは全て繋がってきた。
 ガイアノスにあんな頭が回ることを考えられるはずがない。
 セルランが裏切ったことだって、普通ならあり得ない。
 全部あの女が仕組んだことなのだ。
 シルヴィの幽閉も全てが仕組まれているとしか思えない。

「どうしてマリアさまの騎士なのに、ヨハネさまの言葉を一番に考えるの」
「お前に何が分かる! 姉上の恐ろしさをしらないくせに、何もしらない癖にーー」
「ヨハネさまにわたしも甘い言葉を言われました」

 ……レイナも!?

 もしかしてレイナと連絡が付かなくなっていたのはヨハネに捕まっていたからか。

「あの目は何もかも吸い込まれそうです。わたくしの意思すら捻じ曲げてしまうような。わたくしの恋を応援する、要らないものは全て排除する。腕にナイフを当てられて、思い通りの言葉を言わなければもう二度と婚姻が出来ないような体にすると。逃げたら、未来永劫眠れない日にすると、二人っきりで問答を繰り返しました」

 よく見ると彼女の腕には大量の切り傷があった。
 血が大量に出ている。
 冷たい風に当たれば激痛が走るに違いない。
 そんな腕で彼女はセルランを叩いたのだ。

「どうにか隙を見て逃げましたが、こんな腕だと好きな人に想ってもらうことはできませんね」
「……想い人がいたのか?」

 セルランの目に先程までの殺意が消えていた。
 それは同じ責め苦を受けた共感なのか、それとも同情なのか。
 レイナは泣いた顔でセルランを見上げた。

「また叩きますよ?」
「わたし……なのか……?」

 レイナは答えなかった。
 ただ涙を流すだけだ。
 セルランは重い口を開いた。

「わたしには好きな人がいる。絶対に叶うことのない恋だが」

 レイナはビクッと肩を震えさせた。

「知っています。本当は前から知っていたけど、考えないようにしていました」
「そうか……」

 セルランはトライードを落とした。
 一体彼はヨハネから何を吹き込まれたのかは分からない。
 だがやっと彼は呪縛が解けたのかもしれない。

「ラケシス、レイナの傷を癒してあげて」
「……ただちに」

 ラケシスが駆け出して、レイナの傷を急いで癒していく。

「マリア……姉さま!」

 息を絶やしながらアリアが走ってきた。
 胸の奥がドクンと跳ね上がった。
 わたしはどのような顔で彼女を見ればいいのか。
 そしてそれに追いつくように、ウィリアノスも走ってきた。
 だがその顔は必死の形相だった。

「アリア、待ってくれ!」


 どうにも様子がおかしい。
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