悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

文字の大きさ
213 / 259
第五章 王のいない側近

新たな勢力

しおりを挟む
 あまり自己主張をしない下僕が珍しくお願いをしてきた。
 そこでクロートが言っていたことを思い出す。
 もう両親を始末した。
 本来結婚は魔力が近い者、つまりは同じ中級貴族同士でお見合いをする。
 そうなると普通は親が相手を見つけてくるが彼を紹介してくれる者はもういない。
 さらに彼は中級貴族以上の魔力を持っているので、上級貴族から相手を探さないと子を残せないだろう。
 そうなるとわたしが縁談を持ってこないと彼は一生結婚できないかもしれない。
 アスカは楽しげな顔をしていた。

「下僕もそういうの興味あったんですね」
「も、もちろんです。ぼくだっていつかは結婚をします。アスカはカオディさまと仲はどうなっているのですか?」


 そういえばカオディとダンスを踊っていた気がする。
 二人とも実験が大好きなのでお似合いではある。
 しかしカオディもラナに振られたからってそんなに早く好きな相手を変えるのはいかがなものか。
 アスカは少し悩ましげだった。

「うーん、正直恋愛についてはあまりよく分からないから、とりあえず実験さえできればわたくしは困りません」


 アスカらしい答えだ。
 そこでわたしは返答をしていないことに気が付いた。

「アスカはゆっくり考えなさい。それで下僕、その答えですが……」

 下僕に視線を移した。
 真剣な顔でこちらを見つめてくる。
 よっぽど気に病んでいたことなのだろう。
 わたしもこれまで支えてくれる側近たちには報いたいと思っている。


「いいでしょう。わたくしが必ず相手を見つけます!」
「必ずですか?」
「もちろんよ。わたくしに任せなさい」

 わたしは自信満々に答える。
 すると下僕は嬉しそうな顔をする。
 側近の悩みを解決できたのならいい。

「さて、休憩も終えてそろそろ続きをやりましょうか」

 頭も十分休養を取ったので再度文献の調査を始めた。
 その後、夕食を終えた後にわたしたちは一度これまで調べた内容について共有し合う。

「このようなものですね。時に姫さま」

 クロートが眼鏡をあげて、わたしを呼んだ。
 どこか恐い雰囲気を持っており、わたしは何か怒られると実感した。


「いつの間に一人コソッと抜け出して、メルンの実を食べたんですか?」
「ほぇ?」


 わたしは思わず変な声が出た。
 その声を聞いてクロートの周りの温度が下がるのを感じる。


「ほぉ、ここでとぼけるとはお仕置きが必要ですね」
「ちょ、ちょっと待ちなさい! 何の話よ!」

 全く身に覚えのない話だ。
 わたしはずっとこの部屋で本を読む毎日しか過ごしていないので、わたしには全く知らない話だ。
 怒るのなら、その取った犯人を怒って欲しい。

「姫さま以外にどうやって何個もメルンの実を当てられるのですか」

 たしかに運が絡むので、わたしの超幸運がなければ出来ないかもしれないが、この世には確率というものがある。
 誰かが偶然当てただけではないか。

「ひどい、クロート。わたくしはずっとここで頑張ってきたのに」

 わたしはうずくまって泣いたフリをする。
 だがクロートが教鞭をパチンと鳴らした。
 完全に嘘だとバレていた。
 そういえば下僕に前使ったことを思い出す。


「ひぃ、今のは嘘泣きだけど、メルンの実は本当に知りません!」
「本当ですか?」

 わたしは大きく頷いた。
 これで信用してもらえないとわたしは本気で拗ねる。
 だがクロートはそれを信じてくれた。

「ならわたしも疑いません。では本題に移りましょう」

 わたしはホッとしてクロートの質問に頷いた。

「まずすべきは光の神の眷属を起こすべきですかね?」

 ここから最短で行ける場所なのとノヴァルディオンの力は借りたいと思っている。
 今回は慎重にことを運ばないといけない。
 まずはスヴァルトアルフにお伺いを立てて、互いに了承を得てからの行動になる。

「それはやめときなさい」

 突然後ろの方から女性の声が聞こえた。
 だがここに誰かがいるはずがない。
 わたしたちは声の方へ向いた。
 仮面とローブを付けた謎の人物がいる。
 すぐにクロートはわたしの前に立って危険に備えた。

「貴女はだれ!」

 わたしは呼びかけたがそれに答えることなく、再度言葉を続ける。

「行くべきはスヴァルトアルフの玉座の後ろ。そこに全てがある。アリアを連れて行きなさい」

 どうしてアリアが必要なのだ?
 彼女が味方か敵かも分からないし、目的も全く読み取れない。
 だがこの場所で暴れるわけにはいかない。
 大事な書物の部屋で荒らすことだけは絶対にしてはならない。

「貴女たちなら馬鹿なことはしないと思っていたわ」

 どうやらわたしの考えを先読みしたようで、そのためにこの図書館でわたしに話しかけたようだ。
 予想以上に頭が切れる。


「それと貴女の騎士と侍従、そしてホーキンスも無事よ」

 思いがけない言葉にわたしの心臓が脈打った。
 本当に無事かは分からないが、それでもその言葉を他の人から聞けただけでも嬉しいと思ってしまったのだ。


「どうして貴女がそのようなことを知っているのです?」

 クロートから警戒した声が漏れた。
 そうだ、この女が知っているということは何か関与している可能性がある。
 女は何も答えない。

「貴女には捕まってもらいましょう」
「あら、恐いわね」


 ヒュッと風を切る音が聞こえた。
 クロートが一瞬で謎の女との距離を詰めていた。
 流石はセルランと互角にやり合っている。
 昔の下僕がここまで頼れる男になると思うと成長が楽しみだ。

 ……将来クロートに?

 なんだか今思ったことに対して自分で疑問が生じた。
 だがその疑問も戦いの最中によって吹き飛ぶ。
 クロートの手が謎の女を掴む前にいきなり現れた仮面を付けた人物が手を弾き飛ばして、隙のできたお腹に強烈な一撃をくらわせた。

「うぐっ!」

 机を吹き飛ばして体をぶつけていた。
 クロートを吹き飛ばした仮面を付けた男は涼しげな顔で、女を背負い窓を壊して出て行った。

「大丈夫、クロート?」

 わたしはクロートに駆け寄って彼をゆっくり起こす。
 大きな怪我もなくうまく受け身を取っていたようだ。

「油断しました。まさかもう一人隠れていたとは。アビに報告して不審な人物がいないか調べてもらいましょう」

 わたしはその言葉に頷く。
 一体あれらは何をしに来たのか分からないままだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...