悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

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第五章 王のいない側近

託した願い

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 あまりにも突然色々なことが起こりすぎて頭が付いていかない。
 わたしは急いで頭の中で現状を整理して大事なものから並べる。

 一、ドルヴィが光の神であり、わたしを殺そうと躍起になっている。
 二、ヨハネの夫であるアビ・フォアデルへがドルヴィの元へ行っていた。
 三、謎の仮面を付けた者たちが好き勝手動いているせいで、伝承の仮定が根本からどんどん否定されていく。
 四、伝承の力でスヴァルトアルフの信頼を得て、ヨハネから城を取り戻す。

 最優先すべきことがいつの間にか後回しになっていた。
 頭を精一杯動かして何をすべきかを一生懸命考えた。
 このままではわたしは状況に身を委ねて、偶然に全てを任せるしかない。

 ……一体どうすればいいの?

 わたしは頭の中で自問自答をする。
 これしか方法はない。
 全ての問いを自分で作り、自分で回答する。

 これは偶然今起きているのか、違う。
 前から計画的に行われたことなのか、はい。
 誰が計画の中心にいるのか思い付く限り出す、ドルヴィ、ガイアノス、ヨハネ、アビ・フォアデルへ、仮面の者たち。
 この者たちで共通点があるか、……。
 ドルヴィ、神、魔物、伝承。

 わたしはどんどん足りない部分を見つけ出して行く。
 そしてその答えが出てしまった。

「マリアさま?」

 下僕の心配そうな声が聞こえたが、わたしは彼に答えられない。
 一瞬で気分が悪くなってくる。
 わたしは全て思い違いをしていた。

「まずい……やられた。このままだとーー」

 わたしが階段の方へ顔を向けた時、階段を降りてくる複数人の足音が聞こえてきた。
 鎧の音が鳴って、騎士たちが迫っていることがわかる。
 わたしは失敗していたのだ。
 それは昨日、今日ではなくもっと前から。
 わたしが気付いたことを伝えたい。
 だがどうしようもない。
 誰に何を伝えればいいのだ。
 多くは伝えることはできない。
 そのような時間もない。
 わたしはこの中で一番気付きそうな人物に全てを任せる。

「下僕」
「はい?」

 どこか頼りなさそうな顔をしている彼はいずれクロートになるという。
 騎士としての力量も文官としての策略もまだまだだが、彼ならやってくれるはずだ。
 クロートでは絶対に分からない。
 これまで近くにいたのは側近たちの方だ。

「わたしの剣を任せます。錆を落としてーー」
「そこまでだ!」

 騎士たちが多数押し寄せてくる。
 スヴァルトアルフの騎士たちがこちらを逃すまいと圧を掛けてくる。
 そしてその代表として、セルランのライバルであり、側近であるディアーナの恋人でもあるエルトが勅命を持ってきて宣言する。


「マリア・ジョセフィーヌ、シルヴィ・スヴァルトアルフより命が降った。黙って付いてくればレティア・ジョセフィーヌは見逃してやる、だがシルヴィの命に従わぬのなら、全ての側近を生きたまま神へ奉納する」


 彼の表情は辛そうだ。
 わたしを裏切ること、そして恋人を裏切ることを必死に耐えている。

「動くな!」

 ヴェルダンディとルキノがトライードを抜こうとするよりも早くわたしは大声を張り上げた。
 わたしを捕まえるつもりなら、わたしの命なんて無くなっても構わないというのと同義だ。
 わたしは自殺用のネックレスを外して床に置く。
 そしてあちらに足を進める。
 わたしの命令によって誰も動かない。

「エルト、一言だけ喋っていいかしら?」
「こちらを向いたままならわたしの責任で許します」

 彼は最後の優しさを見せた。
 わたしにはこれしか方法はない。
 わたしが王となるのに最後の関門と言ってもいいだろう。

「下僕、わたくしをまた笑わせてくれますか?」
「えーー」


 その言葉と同時に騎士たちがわたしの元へ来てわたしを連行する。
 下僕の顔がどうなっているのか分からない。
 彼はわたしの言葉に気付いただろうか。
 階段を抜けていくと、玉座の間にシルヴィ・スヴァルトアルフが来ていた。

「しくじったな、マリア・ジョセフィーヌ」

 その顔は落胆だった。
 確かにわたしは大きな間違いを犯した。
 だがそれでも。

「やはりヨハネ・フォアデルへほどの才覚はなしか」
「さあ、それはどうでしょう?」

 わたしはとぼけた感じで返した。
 だがシルヴィは怒ったりはしない。
 わたしの表情をしっかり観察して、何を考えようとしているか読み取ろうとしている。

「お前はこれからガイアノスに引き渡す。あいつはお前を妻として迎え入れれば、お前の死は許してくれるそうだ」
「分かりました、お受けましょう」
「きっちり三十日後に結婚式を行うそうだ」
「そうですか」

 わたしは今後の予定をすんなりと受け入れる。
 彼ならこうするだろうと思っていた。

「そなたの側近たちだがーー」
「それはグレイルヒューケンの件で相殺してください。彼らには彼らの人生があるのですから」
「そういえばそのような報告があったな。いいだろう、これで貸し借り無しだ。他にわたしがすることはあるか?」
「ご心配なく」

 シルヴィの最後の助け舟をわたしは自ら断った。
 エルトはわたしに目で訴える。
 助けを乞えと。

「良さぬかぁぁぁあ!」

 シルヴィからエルトへ叱咤が飛んだ。
 あまりにも大きな声で、騎士の数人が震えてしまった。
 エルトも初めてシルヴィの本気の威圧を受けたのだろう。
 その目は戸惑いがあった。
 だがわたしに心配などない。
 わたしはただ王へとなる頂きから自分の歩んできた足跡を一度振り返るだけだ。
 役目は終わった。
 王のいない側近とは断じて違う。

「では行きましょうか」

 わたしはそのまま離宮に移され、王族へ引き渡されるだろう。
 退屈な日々だろうと思う。

「マリア・ジョセフィーヌよ」

 シルヴィから声を掛けられる。
 わたしは振り向き、彼の目をしっかりと見つめた。


「何かするつもりか?」

 彼の目は真剣にわたしを見ている。
 ただの小娘ではなく、一人の王として。
 ならわたしも王に倣おう。

「わたくしは待つだけです。いい女の条件は待てることですから」

 シルヴィ・スヴァルトアルフはニヤリと笑った。
 彼も待つつもりだろう。
 彼を動かす何かが来ることを信じて。
 その日、マリア・ジョセフィーヌガイアノス・デアハウザーの妻となる決定が国中へ駆け巡った。
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