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第五章 王のいない側近
下僕視点4
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最初からぼくたちは間違っていたのだ。
伝承を解いてスヴァルトアルフを味方に付けようとした計画は見事に崩れていたのだ。
「こんなの悪魔の叡智がなければ絶対に起こり得ない。ぼくたちは想像以上に強大な敵と戦わないといけないみたいだ」
「それだと、これはどうしようもないのですか?」
リムミントの不安が大きくなってくる。
神へ戦いを挑むなんてただの人間がしていいものではない。
「そうか、それでマリアさまは最後にあの言葉を残したのか」
ーーわたくしをまた笑わせてくれますか
ぼくはその言葉に聞き覚えがある。
セルランが裏切ったあの日にぼくが騎獣に乗せて空へと逃げた。
その時、みんながマリアさまを心配して駆け付けてくれた。
ぼくはみんなに応えるために笑うようお願いした。
本当に幸せそうな顔をしていた。
つまりーー。
「仲間を集めて、助けに来てってことですね」
ぼくはしっかりマリアさまの言葉を受け取った。
彼女はぼくたちを待っている。
その事実だけがぼくの心に勇気をくれた。
早速ぼくはクロートへそのことを伝えに行こうとすると、体の痛みと共に先ほどの出来事を思い出した。
……どの面で行けばいいんだろう。
彼には完全に軽蔑されている。
だがこれだけは伝えなければならない。
「行くんだろう? 肩を貸してやる」
ヴェルダンディはぼくを引き寄せてくれた。
友人に感謝して、クロートの部屋へと急いだ。
「これではダメだ。戦力が足りない。資金ならまだ売れば何とかなるが……」
クロートの部屋でボソボソと声が聞こえる。
何度も机を叩く音が聞こえてきた。
ぼくは勇気を出して部屋をノックする。
ノックの音で部屋は静かになり声が返ってくる。
「誰ですか?」
「ぼくです」
返事が返ってこない。
それは何を意味するのか分かっている。
ぼくと取り合う気がないのだ。
だがヴェルダンディの言葉なら無視できないはずだ。
ぼくはヴェルダンディにお願いをした。
「おい、クロート開けてやってくれ」
「ヴェルダンディ? しょうがありませんね、入りなさい」
ドアを開けて中に入ると、部屋中に資料が散乱しており、必死にどうにかしようとしている痕跡がある。
ぼくがただ無力を嘆いている間にも彼は先へと進んでいたのだ。
「一体どうしたのです? そのお荷物が何か粗相をしましたか?」
辛辣な言葉を投げかけられてすぐに言葉を返せない。
だがここでぼくは立ち止まってはいけない。
彼を従えて、マリアさまをお救いしなければならない。
「クロート話を聞いてほしい。ぼくが見つけた真実を」
クロートがこちらを見つめる。
それは彼も葛藤があるのだろう。
今これほど悩んでも答えが出ないのに、その突破口があるかもしれない。
彼は理性でどうするか考えているに違いない。
「話しなさい」
クロートへ先ほど分かった考察を伝える。
上を向いて、ボソッと何かを呟いていた。
それはマリアさまへ向けた言葉なのかもしれない。
「なるほど、面白い考察だね。さっそくフォアデルヘに向かいましょう。アビ・フォアデルヘに聞きたいことが出来ました。もしこいつらがあの件に関わっているのならーー」
クロートの無言の殺気が漏れている。
ぼくたちは黙って息をのんだ。
「ちょっと待ったあぁ!」
部屋の外からいきなり部屋に入ってきたのは、謎の仮面を付けた女性だった。
後ろにいる男性のほうは顔を押さえていた。
ぼくたちは敵だとすぐに認識して、トライードを抜いた。
「え?」
「後ろに下がって!」
間抜けな声を上げる女性を後ろにやって男性の方が前に出た。
この男がクロートを一撃で倒したという戦士だろう。
「待って待って! 今までこれだけサポートしたんだからそろそろ味方と思っていいでしょ?」
後ろの女性の声でどこか戦闘としては締まらない。
敵意は本当にないようなので、ぼくたちは一度トライードを下ろした。
「うんうん、やっぱり伝わるものね」
「危うく戦闘でしたがね」
どうやら二人の間で上手く連携が出来ていたわけではないようだ。
これまでの情報を統合すると、おそらくこの女がグレイルヒューケンの伝承を解放したに違いない。
「君たちは一体何者? グレイルヒューケンの伝承を解放したんでしょう?」
「うん、そうよ。だから貴方たちはみんな助かったでーー」
その仮面を付けた女性はぼくの姿を見て、明るい声が急激にしぼんだ。
一体どうしたのだろうか。
次はさきほどとは違い低い声で喋り始めた。
「その怪我……明らかに暴力を受けていますね。シルヴィ・スヴァルトアルフから受けたの?」
どうしてぼくの心配をするのか分からないが、この怪我はヴェルダンディとクロートによって目を覚まさせてもらうために受けたものだ。
クロートが訂正してくれる。
「何か勘違いしていますが、これはわたしがやりました。腑抜けた弟にはちょうどいい罰です」
それで謎の女はなるほど、と納得してくれた。
元の元気な声に戻った。
「ならいいのよ。それで早速だけどフォアデルヘに行く前にパラストカーティへ行きなさい」
「どうしてパラストカーティに行ったほうがいいのですか?」
「そんなの決まっています。パラストカーティとビルネンクルベの因縁ですから、晴らすべきは彼らでしょ?」
百年前の内乱のせいで、二領土は犬猿の仲になった。
さらにはジョセフィーヌとゼヌニムに確執も生まれてしまい、やっと今代で仲が良くなりかけたのだ。
彼らへの誤解は解かなければならない。
「それとマリア・ジョセフィーヌを助けるのは結婚式当日、それもフォアデルヘを制圧したその日に行きなさい」
具体的に日にちまで指定してくる。
だがわざわざギリギリにする意味はなんだろうか。
クロートは分かっているようで頷いた。
「それはフォアデルヘからの援軍を断つためですね」
「うん、王族の結婚式なら全ての五大貴族が王都へ集まるはずだから、その時にこの国の闇を全て暴くの。そうすればーー」
「どうして貴方はそこまで詳しいのですか?」
クロートの真っ直ぐな質問にどう答えるのか気になった。
だが彼女は口元に人差し指を置いて微笑んでみせた。
「それは乙女の秘密よ」
相手の方が一枚上手だ。
どうやら流石のクロートでもその一言で何も言えなくなった。
「なあなあ、たしかに当日に救う意味は分かったけど、もう少し早く助けてあげたいんだ。あんなクソ野郎と近くにいるマリアさまが不憫でたまらねえ」
ヴェルダンディの考えはもっともだ。
ぼくだってすぐにでも助け出したい。
だが彼女はそう思っていないようだ。
「馬鹿ねえ。それじゃ意味ないのよ」
「はぁ? どういうことだよ」
何も分かっていないと謎の女は言う。
男の方は何か知っているのか顔を押さえている。
「結婚式で攫われるお姫さまにみんな憧れるものよ?」
どうにもくだらない理由だが、何故だかぼくたちは丸め込まれた。
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「それだと、これはどうしようもないのですか?」
リムミントの不安が大きくなってくる。
神へ戦いを挑むなんてただの人間がしていいものではない。
「そうか、それでマリアさまは最後にあの言葉を残したのか」
ーーわたくしをまた笑わせてくれますか
ぼくはその言葉に聞き覚えがある。
セルランが裏切ったあの日にぼくが騎獣に乗せて空へと逃げた。
その時、みんながマリアさまを心配して駆け付けてくれた。
ぼくはみんなに応えるために笑うようお願いした。
本当に幸せそうな顔をしていた。
つまりーー。
「仲間を集めて、助けに来てってことですね」
ぼくはしっかりマリアさまの言葉を受け取った。
彼女はぼくたちを待っている。
その事実だけがぼくの心に勇気をくれた。
早速ぼくはクロートへそのことを伝えに行こうとすると、体の痛みと共に先ほどの出来事を思い出した。
……どの面で行けばいいんだろう。
彼には完全に軽蔑されている。
だがこれだけは伝えなければならない。
「行くんだろう? 肩を貸してやる」
ヴェルダンディはぼくを引き寄せてくれた。
友人に感謝して、クロートの部屋へと急いだ。
「これではダメだ。戦力が足りない。資金ならまだ売れば何とかなるが……」
クロートの部屋でボソボソと声が聞こえる。
何度も机を叩く音が聞こえてきた。
ぼくは勇気を出して部屋をノックする。
ノックの音で部屋は静かになり声が返ってくる。
「誰ですか?」
「ぼくです」
返事が返ってこない。
それは何を意味するのか分かっている。
ぼくと取り合う気がないのだ。
だがヴェルダンディの言葉なら無視できないはずだ。
ぼくはヴェルダンディにお願いをした。
「おい、クロート開けてやってくれ」
「ヴェルダンディ? しょうがありませんね、入りなさい」
ドアを開けて中に入ると、部屋中に資料が散乱しており、必死にどうにかしようとしている痕跡がある。
ぼくがただ無力を嘆いている間にも彼は先へと進んでいたのだ。
「一体どうしたのです? そのお荷物が何か粗相をしましたか?」
辛辣な言葉を投げかけられてすぐに言葉を返せない。
だがここでぼくは立ち止まってはいけない。
彼を従えて、マリアさまをお救いしなければならない。
「クロート話を聞いてほしい。ぼくが見つけた真実を」
クロートがこちらを見つめる。
それは彼も葛藤があるのだろう。
今これほど悩んでも答えが出ないのに、その突破口があるかもしれない。
彼は理性でどうするか考えているに違いない。
「話しなさい」
クロートへ先ほど分かった考察を伝える。
上を向いて、ボソッと何かを呟いていた。
それはマリアさまへ向けた言葉なのかもしれない。
「なるほど、面白い考察だね。さっそくフォアデルヘに向かいましょう。アビ・フォアデルヘに聞きたいことが出来ました。もしこいつらがあの件に関わっているのならーー」
クロートの無言の殺気が漏れている。
ぼくたちは黙って息をのんだ。
「ちょっと待ったあぁ!」
部屋の外からいきなり部屋に入ってきたのは、謎の仮面を付けた女性だった。
後ろにいる男性のほうは顔を押さえていた。
ぼくたちは敵だとすぐに認識して、トライードを抜いた。
「え?」
「後ろに下がって!」
間抜けな声を上げる女性を後ろにやって男性の方が前に出た。
この男がクロートを一撃で倒したという戦士だろう。
「待って待って! 今までこれだけサポートしたんだからそろそろ味方と思っていいでしょ?」
後ろの女性の声でどこか戦闘としては締まらない。
敵意は本当にないようなので、ぼくたちは一度トライードを下ろした。
「うんうん、やっぱり伝わるものね」
「危うく戦闘でしたがね」
どうやら二人の間で上手く連携が出来ていたわけではないようだ。
これまでの情報を統合すると、おそらくこの女がグレイルヒューケンの伝承を解放したに違いない。
「君たちは一体何者? グレイルヒューケンの伝承を解放したんでしょう?」
「うん、そうよ。だから貴方たちはみんな助かったでーー」
その仮面を付けた女性はぼくの姿を見て、明るい声が急激にしぼんだ。
一体どうしたのだろうか。
次はさきほどとは違い低い声で喋り始めた。
「その怪我……明らかに暴力を受けていますね。シルヴィ・スヴァルトアルフから受けたの?」
どうしてぼくの心配をするのか分からないが、この怪我はヴェルダンディとクロートによって目を覚まさせてもらうために受けたものだ。
クロートが訂正してくれる。
「何か勘違いしていますが、これはわたしがやりました。腑抜けた弟にはちょうどいい罰です」
それで謎の女はなるほど、と納得してくれた。
元の元気な声に戻った。
「ならいいのよ。それで早速だけどフォアデルヘに行く前にパラストカーティへ行きなさい」
「どうしてパラストカーティに行ったほうがいいのですか?」
「そんなの決まっています。パラストカーティとビルネンクルベの因縁ですから、晴らすべきは彼らでしょ?」
百年前の内乱のせいで、二領土は犬猿の仲になった。
さらにはジョセフィーヌとゼヌニムに確執も生まれてしまい、やっと今代で仲が良くなりかけたのだ。
彼らへの誤解は解かなければならない。
「それとマリア・ジョセフィーヌを助けるのは結婚式当日、それもフォアデルヘを制圧したその日に行きなさい」
具体的に日にちまで指定してくる。
だがわざわざギリギリにする意味はなんだろうか。
クロートは分かっているようで頷いた。
「それはフォアデルヘからの援軍を断つためですね」
「うん、王族の結婚式なら全ての五大貴族が王都へ集まるはずだから、その時にこの国の闇を全て暴くの。そうすればーー」
「どうして貴方はそこまで詳しいのですか?」
クロートの真っ直ぐな質問にどう答えるのか気になった。
だが彼女は口元に人差し指を置いて微笑んでみせた。
「それは乙女の秘密よ」
相手の方が一枚上手だ。
どうやら流石のクロートでもその一言で何も言えなくなった。
「なあなあ、たしかに当日に救う意味は分かったけど、もう少し早く助けてあげたいんだ。あんなクソ野郎と近くにいるマリアさまが不憫でたまらねえ」
ヴェルダンディの考えはもっともだ。
ぼくだってすぐにでも助け出したい。
だが彼女はそう思っていないようだ。
「馬鹿ねえ。それじゃ意味ないのよ」
「はぁ? どういうことだよ」
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