悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

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最終章 希望を託されし女神

最凶の女

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 ヨハネのことは昔から苦手だったわけではない。
 だがわたしを誘拐した日からおかしくなった。
 それはもう関係の修復が不可能なほどに。
 どうして彼女が偽の神側に付いたのかは分からないが、彼女がいるせいでこちらは苦戦を強いられている。
 そんな彼女の策略が読めてない状況がまずい。

「わたしの夫であるアビ・フォアデルヘが行方不明らしいの」
「行方不明? そうなの?」

 わたしはなるべくヨハネと会話したくないのでレティアに尋ねる。
 アビが行方不明なんてかなり大事だ。
 だがフォアデルヘとなると、下僕たちが絡んでいるかもしれない。
 彼女は頷きわたしに教えてくれる。

「はい、何者かがアビの城を襲って城を半壊にさせたようです。その他にも街で騒ぎが起こり、大混乱が起きているとか」


 下僕たちはかなり大きく動いたようだ。
 情報がないのが本当にもどかしい。
 しかし彼女は何がおかしくて笑っているのだ。

「貴女の伴侶が行方不明なのに、それを笑っているなんて不敬ではないの?」
「ええ、そうね。でもいいじゃない。それよりも面白い情報が入ったんですもの」


 アビ・フォアデルヘの消息なんて全く気にしていない。
 所詮あの男を駒くらいにしか考えていないのだろう。
 ヨハネは続きを話し出す。

「どうやら貴方の手下がやったみたいよ。でもこれは知っているわよね。それよりもっといい情報があるの」
「言いたいことは早く言ってちょうだい」

 どこまでも勿体ぶる彼女の発言に苛立たされる。
 彼女も本題を喋り始めた。

「ネツキって覚えているかしら? セルランを罠に嵌めた男よ」

 どうしてヨハネがあの男を使っているのか正直分からない。
 念のために情報を集めて、何をされても対処できるようにしていた。
 アクィエルにも魔鉱石の提供と引き換えに、わたしに万が一があった時のために手伝いをお願いしている。

「ええ、いましたね。あの小物がどうかしましたか?」
「連絡が来たのよ。反逆者たちを捕まえたと。アクィエルさまのクーデターは失敗したってね」

 心臓を掴まれた気がした。
 顔に出さないようにしたが、体は正直に脈を早める。
 喉が渇いてきて、唾を飲み込むのも一苦労する。

「あら、そんな顔をしないで」

 ヨハネがいつの間にかわたしの目の前まで来ていた。
 手をわたしの頬に添えてゆっくり顎の下まで持ってくる。

「アクィエルさまを討つためにジョセフィーヌ領から全騎士を動かしたそうよ。それはもう百年前の内乱なんかより凄い光景でしょうね。パラストカーティも領主の命を人質に取ったら簡単に動いてくれたんですって」
「貴女はいつもそうやってーー」

 ニヤついてくるこの女は本当に鬱陶しい。
 顎に添えられた手をはね除ける。

「それと王都内で不穏な動きがあるみたいなの。対策は十分取っているのでマリアちゃんの結婚式は誰にも邪魔させません。レティアさまも安心してくださいませ」

 ヨハネはレティアににっこりと笑顔を向けた。
 レティアの顔が隠しきれないほど真っ青になっていく。
 全てが読まれている。
 この女は完全に遊んでいるのだ。
 どんな神よりも恐ろしいのはこの女だ。
 この女のせいで何もかもが裏目に出る。
 わたしではこの女を出し抜く術がない。


「ねえ、マリアちゃん。王都で頑張っている……ラケシスちゃんだっけ?」
「彼女にまで何かしたの?」

 わたしは気持ちが憎しみに囚われる感覚に陥った。
 またレイナのように拷問をしたのではないか。
 彼女はそうやって心を操ろうとしてくる。

「可愛いお人形さんだったわ」

 何かが切れてしまった。
 頭が沸騰してしまいそうで、魔力が溢れようとしてくる。
 この場で殺してしまおう、わたしは絶対に防ぐことができないように全魔力を注ぎ込む。

「やめろ!」

 部屋の外から大声が発せられた。
 今の声で多少冷静になり、その声の持ち主が入ってきたことでまた不機嫌になる。


「あんまり俺の花嫁を虐めるなよ」

 ガイアノスも正装に着替えて、普段とは見違えて見える。
 ただ元の性格を知っているので、それでもかっこいいとは思わない。
 わたしはチラッとヨハネを見ると、少し苛立っており、こちらの視線に気付いてからまたいつもの余裕のある笑みになった。

「ごめんなさい、ただあまりにも可愛いかったからからかっただけですの。美男美女の式に少しばかり嫉妬してしまったようです。わたしも夫を失ったばかりですので」
「減らず口を……大丈夫だったか、マリア?」

 わたしの事を珍しく気遣ってくるガイアノスに何か裏があるのではないかと勘ぐる。
 しかし腹芸が得意でない彼がここまで完璧に内心を隠せるなんて。
 ただいつもと違いすぎて、怪しさが全開だ。

「ええ、お気になさらず。わたくしと彼女の問題ですので。これだけ教えなさい、ラケシスに何かした?」
「危害は加えてないわよ。確かめる方法はないでしょうけど」

 これ以上聞いても意味がない。
 わたしはヨハネから離れて一度椅子へと座る。
 早くその女と共に出て行ってほしいくらいだ。

「前のことをまだ怒っているのか?」

 どこか弱々しい声で尋ねてきた。
 前に叩かれたことが思い出される。
 あれはラケシスの活動を助けるために民衆へ悲劇の姫としての役目を担ったに過ぎない。
 彼の性格を利用したとはいえ、嫌味も言いたくなる。

「ええ、かなり痛かったですもの」
「悪かった」

 珍しい言葉が出てきたので思わず振り向いた。
 あの乱暴者のガイアノスが頭を下げている。
 一体どこでそのような殊勝な態度を覚えたのか。

「それと親父が……ドルヴィが呼んでいるから一緒に来てくれ」

 用件を聞いてガッカリした。
 少しでもご機嫌を取ってから、ドルヴィのところへ連れて行きたかったのだろう。
 ドルヴィは神様だからあまり待たせすぎると何かしでかすかもしれない。
 わたしは仕方なく一緒に行くことにする。

「分かりました。レティア、これまでありがとう。レティアも素敵な殿方を見つけたらわたくしに紹介してくださいね」
「お姉さま……ごめんなさい」

 レティアが泣きそうな顔になっているので、わたしは頭を撫でて気持ちを落ち着かせる。
 まだ一年生の彼女が頑張ってくれたのだ。
 自分のために動いてくれただけで嬉しい。
 わたしはガイアノスに連れられて、廊下を歩いていく。
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