悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

文字の大きさ
246 / 259
最終章 希望を託されし女神

結婚式

しおりを挟む
 馬車でコロシアムまで移動する。
 わたしとの結婚式を行うには大人数を収容できる場所が必要だ。
 そしてコロシアムなら一般の平民にも魔道具で映すことで見せることもできる。
 今日はそのためにかなり改装したらしい。
 わたしは国民に愛想を振りまくために手を振る。
 そうすると国民たちもこちらに手を振り返してくれる。

「街も賑やかですね」
「当たり前だ。王子の結婚となれば平民共も騒がずにはいられまい」

 何とも傲慢な台詞だ。
 聞く限りだとガイアノスに実績があるとは聞かない。
 おそらく顔すら知られていないのではないか。
 だが国民たちもこれほど騒いでいるので少なからずは興味関心があるのだろう。
 国民たちから見送られてコロシアムに辿り着いた。

「いくぞ」

 ガイアノスがわたしの手を引いて、馬車から下ろしてくれる。
 赤いカーペットが用意されており、その上を歩いていく。
 そして入り口を抜けると、大勢の貴族がわたしたちの結婚をお祝いするために集まっていた。

「これから新しい道へと向かう夫婦を迎えよ」

 わたしたちを迎える言葉を受けて一歩ずつゆっくり進む。

「マリア、俺がお前を幸せにしてやる」
「あら、嬉しい事を言ってくれますね。なら一年後も生きたいですね」

 少し意地悪な返事になってしまった。
 ガイアノス自身がドルヴィに交渉したのは一年間という制限だ。
 光の神たるデアハウザーがそれを了承してくれるとは思えない。
 一体どのような返事を返すのか興味はある。

「分かった。俺が叶えてやる。どんな手を使ってでも」

 まさか小心者の男であるガイアノスからそのような言葉が出るとは思ってみなかった。
 しかしそれを信じられるほどわたしもお人好しではない。
 わたしは作り笑いして返事をした。


「なら楽しみにしていますね」

 わたしの言葉をどう受け取ったのか分からないが、一度喉を鳴らして決意した目つきをする。
 そしてわたしたちはどんどん前に進み、今日のために作られた中央にある祭壇まで辿り着いた。
 そこには法王としてデアハウザーが待っていた。

 ……法王になったのは、神々への信仰を管理するためだったのね。

 昔はドルヴィと法王は別々の者がなっていた。
 しかし、聖典の間違いを理由にドルヴィが法王を務めるようになった。
 本当に偽の神々は好き放題やってくれる。
 デアハウザーは唱え出した。


「汝ガイアノス・デアハウザーは、この女マリア・ジョセフィーヌを妻とし、光の神が来た時も闇の神が来た時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、闇の神が審判を降すまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに誓いますか?」

 ガイアノスは迷わず答えた。

「誓います」

 デアハウザーは次にわたしを見た。
 わたしを捕まえた安堵からかこちらを見下した顔で見る。


「汝マリア・ジョセフィーヌは、この男ガイアノス・デアハウザーを夫とし」

 ……何をしているの下僕!

 もう結婚式が始まるのに何も起きない。
 やはりヨハネの言ったとおり全員捕まったのか。
 時間が間延びした感覚が襲ってくる。

「光の神が来た時も闇の神が来た時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、闇の神が審判を降すまで、愛を誓い、夫を想い」


 どんどん時間が迫ってくる。
 やはり神々へ歯向かうのは無謀だったのか。
 わたしはもうガイアノスと結婚をしないといけないのか。
 やはりどんなに強がってもガイアノスを夫としては見られない。
 しかし時間は残酷にも待ってはくれない。

「夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに誓いますか?」

 法王の言葉が止んで、わたしの答えを待っている。
 神々へ誓って、わたしは夫を一生愛さなければならない。
 心臓がこれまで以上に脈打ってくる。

「マリア?」

 小声でガイアノスが尋ねてくる。
 これ以上待たせてしまっては式を台無しにしてしまう。
 わたしは観念した。

「ちかーー」

 その時、大きな音が鳴った。
 これは何者かが攻めてきた時に鳴る非常事態の警告だ。

「何事だ!」

 デアハウザーが声を上げる。
 ここを守っている騎士たちが一斉に動き出す。


「北の方から多数の騎士が攻めてきてます! 騎獣は水竜と風竜です!」

 騎士団長が報告すると共に魔道具によってその光景が映し出された。
 その先頭はアクィエルが率いており、隣を飛ぶヴェルダンディがネツキを縛り上げて盾にしていた。


「おい、ヨハネどういうことだ! 貴様の報告ではアリア・シュトラレーセを捕まえたのではないのか!」

 デアハウザーからの叱責がヨハネに飛ぶ。
 しかし彼女は慌てることなく、扇子で口を隠して答えるのだった。

「どうやら脅迫して嘘の報告をさせたようね。ですが、慌てることではないでしょう。反逆者たちが何をしようとも、貴方様の魔力は越えられませんでしょうから」

 その言葉の意味はすぐに分かった。
 デアハウザーが床に手をやって魔力を送り出した。
 わたしたちジョセフィーヌも持っていた防衛の魔道具はこのリングそのものなのだ。
 すると淡い光が半円を作り出していく。
 この王都全体を覆い、侵入者を誰も入れない。
 強大な魔力を持つデアハウザーだからそこ出来る魔力の障壁だ。
 ドルヴィの力の一端を見た貴族たちが感嘆をあげる。

「おい、ガイアノス! 早く誓いの儀を終えよ」

 デアハウザーの一喝にガイアノスも我に返る。
 それと同時にわたしの体が金縛りに遭う。
 何か不思議な力でわたしを動けなくしたようだ。

 ……このキモ男!

 デアハウザーへの悪口も届くことはない。
 ガイアノスはわたしの背中に手を回して逃げないように抱き締める。
 形容し難いほどの不愉快感が増してくる。
 わたしはガイアノスとは結婚をしたくない。

 ……早く助けに来なさい!

 そう思った直後に空からひび割れる音が聞こえた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...