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大切な人(1)
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「えっ……」
「ーーー」
真横で一緒に駅の階段をのぼっていた旭陽が突然、俺の視界から消えた。
一瞬何が起こったのかわからなかった。
反射的に手を伸ばした。
しかし、その手が旭陽に届くことは無かった。
伸ばした手は空を切った。
旭陽はどんどん傾いていく。
完全に階段から体が離れて落ちていく。
階段の一番下、俺達から一番遠い位置そこで旭陽の体は止まった。
事の全てがスローモーションのように見える。
音もなく、ただ旭陽の体が落ちていく様子だけが目に入っていた。
どんっ
旭陽が完全に落ちた鈍い音で現実に引き戻された。
恐怖で体が動かなくて、旭陽の所に行きたいのに、体が震えて、行けなくて、どうしたらいいのかも分からない。周りの騒ぐ音などが妙に遠くに感じた。
「だ、れか……」
「大丈夫ですよ。僕の連れが救急車を呼びましたから、あなたも落ち着きましょ。深呼吸してください。」
遠くに聞こえた音の中で、男の人の声が聞こえた。背中や肩をさすられていた。
一部刺繍を見ていた人が、俺達を助けてくれる。俺は名前も知らない男の人に呼吸を合わせた。しばらくして落ち着いてきた頃、俺の体も限界が来たのか、視界が黒くなり、その人に体を預けた。
目を開けると薄暗く、ぼんやりとしたあかりがあるだけだった。カーテンで外は見えないが見える範囲には小さな棚があった。外は静かで音が聞こえない。
一瞬、死んだのかと思った。
しかし手に繋がれた点滴の管と袋をみて、ここは病院なんだとわかる。
自分に置かれた状況を理解した途端、意識がなくなる前の光景が頭に浮かぶ。
頭から血を流して倒れているのに、苦しい表情をしていなかった旭陽、その周りに群がる人々、叫び声、泣き声、色々な音が遠くに聞こえるあの感覚。動きたいのに動けない自分の体と恐怖で満たされた心、その全てが鮮明に思い出されていく。
「はっふっ…ぁ」
呼吸が乱れて、苦しくて、辛くて生理的な涙が浮かぶ。
「気が付かれましたか。」
声がこもって聞こえる。何を言われたのか分からないが、何をされたのか、呼吸が落ち着いてきた。
生理的な涙が流れる中、見えたのは薄ピンク色の服を着た女の人だった。どうみても看護師さんだ。
「自分のお名前は分かりますか?」
「はい。原崎桃也です。」
あの光景が頭に浮かぶのに、心は妙に落ち着いていた。少なくともさっきのようにパニックになることはないくらいには。
「あなたの体は特に問題ありません。ただ、お連れ様のことが相当ショックだったようで、五日間の昏睡状態が続きました。栄養を点滴で補ってはいますが、少しの間入院が必要です。」
淡々と告げられた内容は俺の体のことばかり。それよりも旭陽がどうなっているのか知りたかった。
「旭陽はっ。木下旭陽はどうなってるんですか」
「手は尽くしました。亡くなってはおられませんが、目が覚めるかどうかは私たちにもわからない状態です。原崎さんと同じく本日で五日目の昏睡状態となります。…会われますか?」
「はい。」
少し悩んだ素振りを見せた看護師さんは、恐らく俺がパニックになることを予想したのだろう。
だが、旭陽が気になる。俺は一時的なものではあるが心の整理と決意、そして覚悟をつけた。
車椅子を押してもらい、着いたのは集中治療室だった。
「こちらです。」
「ありがとうございます。」
入室は禁止されているため、窓の外からしか見ることが出来ないが、そこから見えたのは、頭や腕にに包帯が巻かれて、腕に点滴をつけられ、頭の周りにはたくさんの機械が置かれていた。
テレビドラマなどでしか見た事がない光景で、今自分が見ている状況が現実かどうか分からなくなるほどだった。
服の下も包帯だらけだろうことはあまり仕事をしていない頭でも簡単にわかる事だった。
ぎゅっと胸が締め付けられるような感覚がした。
涙が頬を伝う。
あの時何も出来なかった自分を、今こうして涙を流すことしかできない自分を酷く悔やんだ。
「め、さませよ……おねがいだから。。」
「ーーー」
真横で一緒に駅の階段をのぼっていた旭陽が突然、俺の視界から消えた。
一瞬何が起こったのかわからなかった。
反射的に手を伸ばした。
しかし、その手が旭陽に届くことは無かった。
伸ばした手は空を切った。
旭陽はどんどん傾いていく。
完全に階段から体が離れて落ちていく。
階段の一番下、俺達から一番遠い位置そこで旭陽の体は止まった。
事の全てがスローモーションのように見える。
音もなく、ただ旭陽の体が落ちていく様子だけが目に入っていた。
どんっ
旭陽が完全に落ちた鈍い音で現実に引き戻された。
恐怖で体が動かなくて、旭陽の所に行きたいのに、体が震えて、行けなくて、どうしたらいいのかも分からない。周りの騒ぐ音などが妙に遠くに感じた。
「だ、れか……」
「大丈夫ですよ。僕の連れが救急車を呼びましたから、あなたも落ち着きましょ。深呼吸してください。」
遠くに聞こえた音の中で、男の人の声が聞こえた。背中や肩をさすられていた。
一部刺繍を見ていた人が、俺達を助けてくれる。俺は名前も知らない男の人に呼吸を合わせた。しばらくして落ち着いてきた頃、俺の体も限界が来たのか、視界が黒くなり、その人に体を預けた。
目を開けると薄暗く、ぼんやりとしたあかりがあるだけだった。カーテンで外は見えないが見える範囲には小さな棚があった。外は静かで音が聞こえない。
一瞬、死んだのかと思った。
しかし手に繋がれた点滴の管と袋をみて、ここは病院なんだとわかる。
自分に置かれた状況を理解した途端、意識がなくなる前の光景が頭に浮かぶ。
頭から血を流して倒れているのに、苦しい表情をしていなかった旭陽、その周りに群がる人々、叫び声、泣き声、色々な音が遠くに聞こえるあの感覚。動きたいのに動けない自分の体と恐怖で満たされた心、その全てが鮮明に思い出されていく。
「はっふっ…ぁ」
呼吸が乱れて、苦しくて、辛くて生理的な涙が浮かぶ。
「気が付かれましたか。」
声がこもって聞こえる。何を言われたのか分からないが、何をされたのか、呼吸が落ち着いてきた。
生理的な涙が流れる中、見えたのは薄ピンク色の服を着た女の人だった。どうみても看護師さんだ。
「自分のお名前は分かりますか?」
「はい。原崎桃也です。」
あの光景が頭に浮かぶのに、心は妙に落ち着いていた。少なくともさっきのようにパニックになることはないくらいには。
「あなたの体は特に問題ありません。ただ、お連れ様のことが相当ショックだったようで、五日間の昏睡状態が続きました。栄養を点滴で補ってはいますが、少しの間入院が必要です。」
淡々と告げられた内容は俺の体のことばかり。それよりも旭陽がどうなっているのか知りたかった。
「旭陽はっ。木下旭陽はどうなってるんですか」
「手は尽くしました。亡くなってはおられませんが、目が覚めるかどうかは私たちにもわからない状態です。原崎さんと同じく本日で五日目の昏睡状態となります。…会われますか?」
「はい。」
少し悩んだ素振りを見せた看護師さんは、恐らく俺がパニックになることを予想したのだろう。
だが、旭陽が気になる。俺は一時的なものではあるが心の整理と決意、そして覚悟をつけた。
車椅子を押してもらい、着いたのは集中治療室だった。
「こちらです。」
「ありがとうございます。」
入室は禁止されているため、窓の外からしか見ることが出来ないが、そこから見えたのは、頭や腕にに包帯が巻かれて、腕に点滴をつけられ、頭の周りにはたくさんの機械が置かれていた。
テレビドラマなどでしか見た事がない光景で、今自分が見ている状況が現実かどうか分からなくなるほどだった。
服の下も包帯だらけだろうことはあまり仕事をしていない頭でも簡単にわかる事だった。
ぎゅっと胸が締め付けられるような感覚がした。
涙が頬を伝う。
あの時何も出来なかった自分を、今こうして涙を流すことしかできない自分を酷く悔やんだ。
「め、さませよ……おねがいだから。。」
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