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恐怖から救ってくれた
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目覚ましが鳴って、目が覚める。
身体中が重くて、頭痛がするこの感覚に慣れはしないがもうどうしようも無いと諦めている部分はある。
「あの日、以来だよな。」
一人暮らしのこの家で俺の独り言を拾ってくれる人はいない。この独り言を拾って追求されても困るのだが。
二週間ほど前のことだ。事故現場を見てしまったのだ。現場、と言うより瞬間だった。
小さな男の子が飛び出して行ったのは交通量が多く、ほとんどの車が結構なスピードを出して走ってくるような道路だった。トラックにぶつかって、さらに後ろから来た車に轢かれたのだ。男の子が泣き声をあげることもなく、道路に倒れた。血が飛び散っていて、男の子の手足が普通では考えられない方向に曲がっていた。
そこから、気がつくと警察がいて救急車が来ていて、現場にはブルーシートがかけられていて中は見えないようになっていた。
スローモーションのように見えたその一瞬は俺の中で忘れることの出来ない一瞬となってしまった。
衝撃的なそれは夢にまで出てくる始末。夢を見ても恐怖で十分な睡眠がとれず、夢を見たくないから寝ないというような悪循環を二週間、繰り返していた。ここ最近は食事もまともに取れていない。それが睡眠不足からくるものか、精神的なものかはわからない。
スーツに腕を通して会社に行く準備をする。食欲は無いため、せめてもとお茶だけは飲む。それすらも吐き気を覚えてしまう。
「うぇ、、ん。」
一人暮らしってこういう時本当、誰に気づかれることもないから楽だと思う。会社でさえ気を張っていればそれでいいから。
満員電車はたくさんの匂いが充満していて、吐き気を助長してくる。気持ち悪さはあるものの胃に何もないからかキリキリと胃が痛む。だけど吐くものがないというのは今の俺にとっては救いなのだ。吐く心配は少ないというこだから。
なんとか会社について自分のデスクに座り、パソコンの電源を入れる頃には息が上がっている。それを周りの人に気づかれないように整えながら今日一日の予定を頭の中で整理する。
「山ちゃん!おはよ。今日家行っていい?」
「西川さん。おはようございます。今日はちょっと…」
「なんでー」
「西川さーん。あんまりしつこいとさすがに高山さんも怒りますよ!」
「いえいえ原さん、大丈夫ですよ。」
のんびりとしたここの会社が好きだ。最近の寝不足も食欲のなさも、事故当時のことも全て忘れてしまえそうになる。忘れることは出来ないのだけれど。ガンガンと内側から殴られるような頭痛にいつまでも付きまとう気持ち悪さがそれは許してくれなさそうだ。
トントンと机を軽く叩かれてそちらに目を向けると、西川さんがスマホのメモ機能を立ち上げて、画面を俺に見せていた。
『行くから。とりあえず無理はすんなよ。』
ノリが軽い西川さんにしては珍しく真剣な文章で文字上なのに真剣な顔が浮かび上がるほどだ。
諦めるしかないか。と無理やり納得して自分の仕事に向かった。
「西川さん、俺帰りますよ。」
「いいよ。僕はもう少しかかるから~。」
「…?わかりました。お疲れ様です!」
「おつかれ~」
「お疲れ様でした~」
西川さんに帰ることを伝えて最寄り駅に向けて歩き出す。
昼ごはんは食堂に行くふりをして人気のない場所でぼんやり過ごしてやり過ごした。
これから一人かぁ、と最近は少し憂鬱になったりしてたが今日は西川さんがくる。気をはらなければいけないことよりも一人では無い安心感が強くて自分でもびっくりする。
家に着いて、ご飯くらいは出そうと冷蔵庫を見る。ギリギリ何か作れるくらいの材料はあって良かったと安心したのも束の間で、頭の中でいくつかの候補をあげるも、さすがに限られてくる。
「味噌汁、とほうれん草あるから…おひたし。?」
自分の分を作ろうかどうか迷った。吐き気がして食べられないのに、バレたくないという理由だけで食材たちを無駄にするのも申し訳がない。外で食べてきた、というのもおかしな話だし、結局、自分の分は半分にして、計1.5人分作ることにした。
米を洗ってお釜にセットし、ほうれん草は洗って鍋に入れた。即席味噌汁を作るためのお湯を沸かせばこれ以上することがない。
ほうれん草が湯掻けたタイミングでおひたしにしてしまい、西川さんが来るまでソファで待つことにした。
しばらくするとインターフォンがなって、西川さんが来たことを知らせてきた。定時からはだいぶ過ぎていて、残業代ちゃんと出してもらってますか。と内心だけで問いかける。
玄関を開けて西川さんを迎え入れる。西川さんの手にはスーパーの袋があって買い物をしてきたことがわかる。
「ご飯食べていきますよね。すみません簡単なものですけど。」
「山ちゃん?無理しなくていいよ。こっちおいで。」
こっちおいでって…、そもそも俺の家だけどなあなんて思うけれど、それを言う気はあまりない。素直に西川さんの元に行く。
さっき座っていた位置に座った。そしたら、西川さんは俺の額に手を当てた。
「微熱、かな。頭痛いでしょ。食欲はある?他は?」
俺の症状を当てていく西川さんはなんだかお医者さんみたいだな。と少し場違いなことを思ったりした。
バレたくないと思っていた気持ちは何処へやら、逆に安心して、気づいて貰えたことに嬉しさも覚えて考えるより先に口が動いていた。
「頭、痛いです。少し気持ち悪い、のと寝れないです。食欲が、無いのは今日だけではない、です。少し前から…。」
「そっか。レトルトだけど、お粥買ってきたけれど、食べられそう?」
気は進まない。食べなければいつか限界が来るということは分かるが、今は食べたくない。
というか、スーパーの袋から出てくる商品の数々が普通では買わないものばかりで、西川さんが自分のためではなく俺のための買い物をしてから来たことがわかって、凄く申し訳なくなる。
食事うんぬんよりもそっちのほうに頭が回ってしまった。
「西川さん、それって…。」
「あぁ。最近の山ちゃんは顔色悪かったから、子供じゃないし、放っておいても大丈夫かなぁって思ったんだけど、なかなか治らなさそうな感じだったからね。」
「すみません。ご迷惑をおかけしました。払います。いくらですか?」
「謝らないでいいよ。それにこれは僕が勝手にやったことだから山ちゃんがお金出す必要もないしね。山ちゃんの家に来たのも結構強引にだったでしょ。それより、お粥が無理ならゼリーとかならいけそう?」
自分では、仕事はやってお昼ごはんは上手く誤魔化して、時々残業したりしながら普段通り過ごしていたつもりだったけれど、普段通り過ごしていると思わせてくれていたのは周りの方だったようだ。
袋から出てきたのはぶどうゼリーとみかんゼリーで、容器の中でプルプルと震えるそれは俺の頭の中で候補の上がらなかったものだ。それなら食べられるかもしれない。という意味をこめて少し頷けば、またしても袋の中から小さい透明のスプレーンが出てきた。
「はい。」と丁寧に蓋を開けて手渡されたものを受け取って、ゼリーにスプーンを入れる。
「よっこいしょ。じゃあ僕は山ちゃんが僕のために作ってくれたご飯いただこうかな~。ご飯とー、味噌汁ー、おひたしー!」
「す、すいません。」
「いいよいいよー!!座ってて~。食器棚勝手に漁るよ!」
「はい。全然。構いません。」
西川さんは適度に食器にご飯や味噌汁を入れて持ってきた。西川さんの自然な軽いノリは乗りやすくて安心する。
相手はご飯で自分はゼリーというのは本当に病人のようだ。
それでもただでさえ一人暮らしで一人飯が多い俺の生活から昼ごはんを抜いていたこともあって久しぶりの誰かとの食事に思わず頬が上がる気がした。甘めのゼリーはさらに甘く感じて、そんなに多くは食べられそうにないが、いつもよりはきちんと食べられる気がした。
「なんかあったの?」
「はい?」
いきなり世間話をするように切り出された会話に西川さんを見ると、目は声とは正反対のように真剣で、目が逸らせなくなってしまった。
こうなる原因を聞いているのは分かっている。でもそれを口にするのは少し勇気がいる。人生で初めての二度とあって欲しくない瞬間が、頭の中を駆け回る。途端、食欲がなくなって、スプーンをゼリーにさした状態で固まった。
「あ、ごめんね。なんか。無理に問い詰めるつもりはないよ。」
「は、い。。」
「でも、話して楽になることもあると思うから、ね?無理にとは言わないけれど、少し僕を頼ってみない?」
「…。この前の、事故、あったじゃないですか。」
西川さんの優しい言葉に、事故当時と同じ恐怖が少し薄れた気がした。年下なのを利用して、西川さんに頼ってみるのもいいんじゃないだろうか。そう思うと少しだけ勇気が出た。思い出すことに若干の抵抗はあるものの、気持ちが楽になるかもしれないならそっちの方がいいかもしれない。
「男の子の、あの事故かな?」
「そうです。現場に、、いたんだす。俺。」
「そう。」
「事故の、瞬間を、見ました。。。残酷で、あんな感覚、初めてで……どうしたらいいのか、わからなくて。」
「うん。」
「男の子、、血が出てて、手足が、曲がってしまっていて、、。」
思い出すと、体が震えて、恐怖だけが俺の中を支配しようとしてくる。西川さんが背中を摩ってくれて、恐怖に支配されることはなく済んでいる。
「…。」
「あの子、亡くなったんですよね。」
「病院に運ばれてからね。」
「そう、、です、よね」
言葉が違う気がしたがどう返せばいいかもわからなくて、かろうじて頭に浮かんだ文字を声にして出した。
「寝れないです。。夢でも、、その光景が、出てきて…。」
「そりゃ怖いだろうな。僕には想像しきれない。」
「…。」
「でも、高山くんの話を聞くことは出来るし、怖かったら抱きしめてあげることも出来るよ。こうやって。でも僕は専門家ではないから、酷いようなら病院に行くんだよ。?」
そう言いながら、西川さんは俺を小さい子を抱きしめるように、ぎゅっと抱きしめた。
安心と恐怖とが入り交じって頭が破裂しそう。だけど、とても心地いい。
「西川さん、、って、、おとうさん、みたい…ですね。」
「ふふ、ありがとう。山ちゃん、眠そうだね。寝ちゃえば?」
「すみません、、れんじつ、ねぶそ、くで…」
「いいよ。」
久しぶりの心地いい眠気にそれでも西川さんの腕の中だと考えるとそれに身を委ねることは戸惑われた。けれど西川さんがいいと言うなら、それに身を任せてしまおうか。
西川さんは結構俺の家に遊びに来るから、大体の場所は分かるだろうし。
「いえ、なか、、かってに、つかって、、くださ…い。。」
「ん。じゃあお言葉に甘えて、そうさせてもらうね。」
頭を撫でられる感じにさらに眠気が襲ってきて、もうこれ以上何も考えずに、素直に身を任せた。西川さんに今度お礼しようと、それだけ決めて、後は全部後回しだ。
身体中が重くて、頭痛がするこの感覚に慣れはしないがもうどうしようも無いと諦めている部分はある。
「あの日、以来だよな。」
一人暮らしのこの家で俺の独り言を拾ってくれる人はいない。この独り言を拾って追求されても困るのだが。
二週間ほど前のことだ。事故現場を見てしまったのだ。現場、と言うより瞬間だった。
小さな男の子が飛び出して行ったのは交通量が多く、ほとんどの車が結構なスピードを出して走ってくるような道路だった。トラックにぶつかって、さらに後ろから来た車に轢かれたのだ。男の子が泣き声をあげることもなく、道路に倒れた。血が飛び散っていて、男の子の手足が普通では考えられない方向に曲がっていた。
そこから、気がつくと警察がいて救急車が来ていて、現場にはブルーシートがかけられていて中は見えないようになっていた。
スローモーションのように見えたその一瞬は俺の中で忘れることの出来ない一瞬となってしまった。
衝撃的なそれは夢にまで出てくる始末。夢を見ても恐怖で十分な睡眠がとれず、夢を見たくないから寝ないというような悪循環を二週間、繰り返していた。ここ最近は食事もまともに取れていない。それが睡眠不足からくるものか、精神的なものかはわからない。
スーツに腕を通して会社に行く準備をする。食欲は無いため、せめてもとお茶だけは飲む。それすらも吐き気を覚えてしまう。
「うぇ、、ん。」
一人暮らしってこういう時本当、誰に気づかれることもないから楽だと思う。会社でさえ気を張っていればそれでいいから。
満員電車はたくさんの匂いが充満していて、吐き気を助長してくる。気持ち悪さはあるものの胃に何もないからかキリキリと胃が痛む。だけど吐くものがないというのは今の俺にとっては救いなのだ。吐く心配は少ないというこだから。
なんとか会社について自分のデスクに座り、パソコンの電源を入れる頃には息が上がっている。それを周りの人に気づかれないように整えながら今日一日の予定を頭の中で整理する。
「山ちゃん!おはよ。今日家行っていい?」
「西川さん。おはようございます。今日はちょっと…」
「なんでー」
「西川さーん。あんまりしつこいとさすがに高山さんも怒りますよ!」
「いえいえ原さん、大丈夫ですよ。」
のんびりとしたここの会社が好きだ。最近の寝不足も食欲のなさも、事故当時のことも全て忘れてしまえそうになる。忘れることは出来ないのだけれど。ガンガンと内側から殴られるような頭痛にいつまでも付きまとう気持ち悪さがそれは許してくれなさそうだ。
トントンと机を軽く叩かれてそちらに目を向けると、西川さんがスマホのメモ機能を立ち上げて、画面を俺に見せていた。
『行くから。とりあえず無理はすんなよ。』
ノリが軽い西川さんにしては珍しく真剣な文章で文字上なのに真剣な顔が浮かび上がるほどだ。
諦めるしかないか。と無理やり納得して自分の仕事に向かった。
「西川さん、俺帰りますよ。」
「いいよ。僕はもう少しかかるから~。」
「…?わかりました。お疲れ様です!」
「おつかれ~」
「お疲れ様でした~」
西川さんに帰ることを伝えて最寄り駅に向けて歩き出す。
昼ごはんは食堂に行くふりをして人気のない場所でぼんやり過ごしてやり過ごした。
これから一人かぁ、と最近は少し憂鬱になったりしてたが今日は西川さんがくる。気をはらなければいけないことよりも一人では無い安心感が強くて自分でもびっくりする。
家に着いて、ご飯くらいは出そうと冷蔵庫を見る。ギリギリ何か作れるくらいの材料はあって良かったと安心したのも束の間で、頭の中でいくつかの候補をあげるも、さすがに限られてくる。
「味噌汁、とほうれん草あるから…おひたし。?」
自分の分を作ろうかどうか迷った。吐き気がして食べられないのに、バレたくないという理由だけで食材たちを無駄にするのも申し訳がない。外で食べてきた、というのもおかしな話だし、結局、自分の分は半分にして、計1.5人分作ることにした。
米を洗ってお釜にセットし、ほうれん草は洗って鍋に入れた。即席味噌汁を作るためのお湯を沸かせばこれ以上することがない。
ほうれん草が湯掻けたタイミングでおひたしにしてしまい、西川さんが来るまでソファで待つことにした。
しばらくするとインターフォンがなって、西川さんが来たことを知らせてきた。定時からはだいぶ過ぎていて、残業代ちゃんと出してもらってますか。と内心だけで問いかける。
玄関を開けて西川さんを迎え入れる。西川さんの手にはスーパーの袋があって買い物をしてきたことがわかる。
「ご飯食べていきますよね。すみません簡単なものですけど。」
「山ちゃん?無理しなくていいよ。こっちおいで。」
こっちおいでって…、そもそも俺の家だけどなあなんて思うけれど、それを言う気はあまりない。素直に西川さんの元に行く。
さっき座っていた位置に座った。そしたら、西川さんは俺の額に手を当てた。
「微熱、かな。頭痛いでしょ。食欲はある?他は?」
俺の症状を当てていく西川さんはなんだかお医者さんみたいだな。と少し場違いなことを思ったりした。
バレたくないと思っていた気持ちは何処へやら、逆に安心して、気づいて貰えたことに嬉しさも覚えて考えるより先に口が動いていた。
「頭、痛いです。少し気持ち悪い、のと寝れないです。食欲が、無いのは今日だけではない、です。少し前から…。」
「そっか。レトルトだけど、お粥買ってきたけれど、食べられそう?」
気は進まない。食べなければいつか限界が来るということは分かるが、今は食べたくない。
というか、スーパーの袋から出てくる商品の数々が普通では買わないものばかりで、西川さんが自分のためではなく俺のための買い物をしてから来たことがわかって、凄く申し訳なくなる。
食事うんぬんよりもそっちのほうに頭が回ってしまった。
「西川さん、それって…。」
「あぁ。最近の山ちゃんは顔色悪かったから、子供じゃないし、放っておいても大丈夫かなぁって思ったんだけど、なかなか治らなさそうな感じだったからね。」
「すみません。ご迷惑をおかけしました。払います。いくらですか?」
「謝らないでいいよ。それにこれは僕が勝手にやったことだから山ちゃんがお金出す必要もないしね。山ちゃんの家に来たのも結構強引にだったでしょ。それより、お粥が無理ならゼリーとかならいけそう?」
自分では、仕事はやってお昼ごはんは上手く誤魔化して、時々残業したりしながら普段通り過ごしていたつもりだったけれど、普段通り過ごしていると思わせてくれていたのは周りの方だったようだ。
袋から出てきたのはぶどうゼリーとみかんゼリーで、容器の中でプルプルと震えるそれは俺の頭の中で候補の上がらなかったものだ。それなら食べられるかもしれない。という意味をこめて少し頷けば、またしても袋の中から小さい透明のスプレーンが出てきた。
「はい。」と丁寧に蓋を開けて手渡されたものを受け取って、ゼリーにスプーンを入れる。
「よっこいしょ。じゃあ僕は山ちゃんが僕のために作ってくれたご飯いただこうかな~。ご飯とー、味噌汁ー、おひたしー!」
「す、すいません。」
「いいよいいよー!!座ってて~。食器棚勝手に漁るよ!」
「はい。全然。構いません。」
西川さんは適度に食器にご飯や味噌汁を入れて持ってきた。西川さんの自然な軽いノリは乗りやすくて安心する。
相手はご飯で自分はゼリーというのは本当に病人のようだ。
それでもただでさえ一人暮らしで一人飯が多い俺の生活から昼ごはんを抜いていたこともあって久しぶりの誰かとの食事に思わず頬が上がる気がした。甘めのゼリーはさらに甘く感じて、そんなに多くは食べられそうにないが、いつもよりはきちんと食べられる気がした。
「なんかあったの?」
「はい?」
いきなり世間話をするように切り出された会話に西川さんを見ると、目は声とは正反対のように真剣で、目が逸らせなくなってしまった。
こうなる原因を聞いているのは分かっている。でもそれを口にするのは少し勇気がいる。人生で初めての二度とあって欲しくない瞬間が、頭の中を駆け回る。途端、食欲がなくなって、スプーンをゼリーにさした状態で固まった。
「あ、ごめんね。なんか。無理に問い詰めるつもりはないよ。」
「は、い。。」
「でも、話して楽になることもあると思うから、ね?無理にとは言わないけれど、少し僕を頼ってみない?」
「…。この前の、事故、あったじゃないですか。」
西川さんの優しい言葉に、事故当時と同じ恐怖が少し薄れた気がした。年下なのを利用して、西川さんに頼ってみるのもいいんじゃないだろうか。そう思うと少しだけ勇気が出た。思い出すことに若干の抵抗はあるものの、気持ちが楽になるかもしれないならそっちの方がいいかもしれない。
「男の子の、あの事故かな?」
「そうです。現場に、、いたんだす。俺。」
「そう。」
「事故の、瞬間を、見ました。。。残酷で、あんな感覚、初めてで……どうしたらいいのか、わからなくて。」
「うん。」
「男の子、、血が出てて、手足が、曲がってしまっていて、、。」
思い出すと、体が震えて、恐怖だけが俺の中を支配しようとしてくる。西川さんが背中を摩ってくれて、恐怖に支配されることはなく済んでいる。
「…。」
「あの子、亡くなったんですよね。」
「病院に運ばれてからね。」
「そう、、です、よね」
言葉が違う気がしたがどう返せばいいかもわからなくて、かろうじて頭に浮かんだ文字を声にして出した。
「寝れないです。。夢でも、、その光景が、出てきて…。」
「そりゃ怖いだろうな。僕には想像しきれない。」
「…。」
「でも、高山くんの話を聞くことは出来るし、怖かったら抱きしめてあげることも出来るよ。こうやって。でも僕は専門家ではないから、酷いようなら病院に行くんだよ。?」
そう言いながら、西川さんは俺を小さい子を抱きしめるように、ぎゅっと抱きしめた。
安心と恐怖とが入り交じって頭が破裂しそう。だけど、とても心地いい。
「西川さん、、って、、おとうさん、みたい…ですね。」
「ふふ、ありがとう。山ちゃん、眠そうだね。寝ちゃえば?」
「すみません、、れんじつ、ねぶそ、くで…」
「いいよ。」
久しぶりの心地いい眠気にそれでも西川さんの腕の中だと考えるとそれに身を委ねることは戸惑われた。けれど西川さんがいいと言うなら、それに身を任せてしまおうか。
西川さんは結構俺の家に遊びに来るから、大体の場所は分かるだろうし。
「いえ、なか、、かってに、つかって、、くださ…い。。」
「ん。じゃあお言葉に甘えて、そうさせてもらうね。」
頭を撫でられる感じにさらに眠気が襲ってきて、もうこれ以上何も考えずに、素直に身を任せた。西川さんに今度お礼しようと、それだけ決めて、後は全部後回しだ。
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