1 / 1
酷く疲れた君は
しおりを挟む
ソファに座って、イヤホンをつけて、寝落ちしている愛しい恋人。
起こさないようにそっと近づいて、歩が座る横にそっと腰かけた。
危うげな雰囲気を纏った歩はこの頃は見ていなかった姿だ。
「今回は何がきっかけかな。」
理由は特にない。
いや、理由はあるのだろうが、原因となるストレスの類をうまく発散出来ない歩は、時々こうなることで発散している。
小さなストレスが溜まり溜まって爆発点がここだと言うのなら、これといった特定の理由はない。
歩の耳からイヤホンをぬいて、自分の耳にはめると、美しいピアノが流れてきた。
『別れの曲』
歩が好きな曲だ。別れ、という題名でありながら、別れをあまり感じないアンバランスさのような、それがいいのだとか。
感覚はよく分からないものの、俺でも知っているこの曲が美しいとは思う。
涙のが流れた跡が残る頬を、親指でゆっくりとなぞった。
そして、薄く開く唇にそっとキスを落とす。
「ん…」
「ぁ。」
「起こしてしまったか。?」
「んー?」
まだぼんやりしている目を見ながら言った。返事は思った通りハッキリしなくて、目は覚めているが頭は覚醒していないのだろう。
「友也…」
甘えるように俺の名を呼んで抱きついてくる。それが単純な甘えなら、存分に甘やかしてあげるのだが、そうでは無い。
言いようのない不安、理由のない喪失感。ただぼんやりとしたものが作り出す、誰かに甘えたい、縋りたい、なんて思いに、単純に甘やかすのは少し方向性が違うと思う。
軽く頭を撫でて、ぽんぽん、と背中を叩く。
鼻をすする声とも音とも取れない声音が耳に入った。続いて肩が濡れる感覚に、泣いているな。ということはすぐに分かるが、今はそれを指摘することはしない。
ただゆっくりと泣き止むのを待とう。
リピート再生で流れ出した『別れの曲』は歩の耳にもきこえているだろう。
俺は歩がこの曲が好きな理由が分からない。別れをあまり感じない、とは言っても、題名は別れだ。紛れもない。
「歩?」
「…」
「俺は、歩から離れたりしないぞ?」
「…」
小さく頷いたような気がする。わかっていても、想像してしまうなんてことは、誰しもある事だ。離れないとはわかっていても、いずれ…もしかしたら…などと考えてしまっているのだろうか。
きっと疲れているからだ。
「ベッド行こうか。」
「ん」
抱きつく力が強くなるのは運んで欲しい、の合図。そっと抱き抱える。
その拍子に俺の耳からはイヤホンが離れてしまった。
最後に聞いたのは中間部分の盛り上がるところか…。ここは、何となく悲惨な別れを感じなくはないな。
今言葉に出せば歩は泣いてしまうから、言わない。
感じ方は人それぞれか。
なんて言葉も自分の中で飲み込んだ。
ベッドに下ろした歩は泣き疲れたのか再び眠っていた。
俺も歩の隣に寝転んで、新しく出来た泣き跡を指でなぞって、再びそっとキスを落とした。
今度は起きてしまうことはなかった。
起こさないようにそっと近づいて、歩が座る横にそっと腰かけた。
危うげな雰囲気を纏った歩はこの頃は見ていなかった姿だ。
「今回は何がきっかけかな。」
理由は特にない。
いや、理由はあるのだろうが、原因となるストレスの類をうまく発散出来ない歩は、時々こうなることで発散している。
小さなストレスが溜まり溜まって爆発点がここだと言うのなら、これといった特定の理由はない。
歩の耳からイヤホンをぬいて、自分の耳にはめると、美しいピアノが流れてきた。
『別れの曲』
歩が好きな曲だ。別れ、という題名でありながら、別れをあまり感じないアンバランスさのような、それがいいのだとか。
感覚はよく分からないものの、俺でも知っているこの曲が美しいとは思う。
涙のが流れた跡が残る頬を、親指でゆっくりとなぞった。
そして、薄く開く唇にそっとキスを落とす。
「ん…」
「ぁ。」
「起こしてしまったか。?」
「んー?」
まだぼんやりしている目を見ながら言った。返事は思った通りハッキリしなくて、目は覚めているが頭は覚醒していないのだろう。
「友也…」
甘えるように俺の名を呼んで抱きついてくる。それが単純な甘えなら、存分に甘やかしてあげるのだが、そうでは無い。
言いようのない不安、理由のない喪失感。ただぼんやりとしたものが作り出す、誰かに甘えたい、縋りたい、なんて思いに、単純に甘やかすのは少し方向性が違うと思う。
軽く頭を撫でて、ぽんぽん、と背中を叩く。
鼻をすする声とも音とも取れない声音が耳に入った。続いて肩が濡れる感覚に、泣いているな。ということはすぐに分かるが、今はそれを指摘することはしない。
ただゆっくりと泣き止むのを待とう。
リピート再生で流れ出した『別れの曲』は歩の耳にもきこえているだろう。
俺は歩がこの曲が好きな理由が分からない。別れをあまり感じない、とは言っても、題名は別れだ。紛れもない。
「歩?」
「…」
「俺は、歩から離れたりしないぞ?」
「…」
小さく頷いたような気がする。わかっていても、想像してしまうなんてことは、誰しもある事だ。離れないとはわかっていても、いずれ…もしかしたら…などと考えてしまっているのだろうか。
きっと疲れているからだ。
「ベッド行こうか。」
「ん」
抱きつく力が強くなるのは運んで欲しい、の合図。そっと抱き抱える。
その拍子に俺の耳からはイヤホンが離れてしまった。
最後に聞いたのは中間部分の盛り上がるところか…。ここは、何となく悲惨な別れを感じなくはないな。
今言葉に出せば歩は泣いてしまうから、言わない。
感じ方は人それぞれか。
なんて言葉も自分の中で飲み込んだ。
ベッドに下ろした歩は泣き疲れたのか再び眠っていた。
俺も歩の隣に寝転んで、新しく出来た泣き跡を指でなぞって、再びそっとキスを落とした。
今度は起きてしまうことはなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる