梅雨の時期のある日

トウモロコシ

文字の大きさ
1 / 1

梅雨の時期のある日

しおりを挟む
音もなく振り続ける雨。雨が降っているだけで気分はずんと沈む。
その上、今は古典の時間だ。先生の教科書を読む声は、どんな子守唄にも勝るほどの効果がある。それを知ってか知らずか、寝ていれば容赦なしに点数を引いていくのだから溜まったものでは無い。

俺は眠気覚ましに、後ろの席であることを最大限活用して、教室の全体を見渡して人間観察を始めた。

大抵は机に突っ伏して寝ているか、シャーペンを持ってウトウトしているか、だ。真面目にノートを取っている人なんてほとんどいない。そもそも起きていることが難しい授業で、誰が先生が言ったことをメモする余裕があるのだ。二パターンの代わり映えしないニンゲンたちに、眠気覚ましのつもりが逆に眠気を誘われてきた。
そんな中で一人、違うのがいた。

俺の席からよく見えるそいつ、真吾は、頭を抑えていた。雨が降ると、気圧に弱い人は頭痛がする、というのは俺でも聞いたことのある有名な話だ。それだろうな、と思いはしたものの、特に気にすることも無く、この時間、何度目か分からない欠伸を殺して黒板に目を向けた。








やっとチャイムがなった。
長い長い古典の時間が終わった。途中、所々眠気に負けた気もするが、仕方がない。

みんなが伸びをしたり、ノートを見せあったりしている。真吾だけは、その場から動かず、じっとしていた。

「あいつ、マジでやばいんじゃね?」

一人、そう呟きながら、慎吾の席へ向かった。


「真吾、真吾、大丈夫か?」
「あ、敦貴……って。」
「頭痛?」
「ん。そう……」

グリグリとこめかみ辺りを押す真吾は見ているこちらまで痛くなってくるようだ。よく見れば若干青白い顔色をしている。
これは、ちょっと頭が痛い、では済まないレベルではないだろうか。保健室案件ではないのか。と思い始めた。そう思い始めたらそうとしか思えなくて、気がついたら口が勝手に動いていた。

「保健室行くぞ。」
「え、、やだ。」
「やだって…。こんなとこいるより絶対いいだろ…」
「うーん、保健室の人、香水の、においきつい、」

思っていた反応とは違う、ハッキリとした拒絶にびっくりしたものの、理由を聞くと納得した。
あの先生は性格的な評判は良いが、匂いがきついらしい。保健室にお世話になることはほとんどないし、あの先生が赴任してきた時に流れたちょっとした噂話程度にしか認識していなかったから、あまり気にしていなかった。

「でも、教室にいんのもきついだろ?」
「そう、なんだけど…」
「真吾が安心できる先生って誰?」
「強いて言うなら、担任、かなぁ」
「じゃあ、担任のとこ行くか。」

言うが早いか真吾の腕を掴んで立たせた。近くのやつには保健室に行く、と伝えて教室を出た。後ろから怠そうに着いてくる真吾に無理に連れ出したほうが辛かったのではないか、と罪悪感にも似た気持ちが湧き上がってくる。
真吾に合わせてゆっくり歩いても、どうしたって俺のほうが早くなる歩み。

「あそこの椅子まで頑張ろ。先生呼んでくるから。」

普通ならあと五歩歩けば着くベンチを指した。こくっと頷いたのを確認すると、そこまで真吾の歩幅に合わせて歩いた。



ベンチに真吾を座らせて、職員室に走った。チャイムがなってしまった早くしなければサボり扱いになってしまう。
そんな思いもあって、廊下は走らない、なんて張り紙を無視して職員室まで全力疾走した。



幸い、担任は授業はなくて、職員室に行くとすぐに見つけられた。
話しながら経緯を説明し、真吾の待つベンチへと行った。



「あー、酷そうですね。分かりました。僕がみておきます。」
「お願いします。」

先生は、保健室の先生の香水がきつい、ということには苦笑いを零して、やんわりと俺の言葉を肯定した。だから真吾に保健室に行くことは強制しなかった。

先生に授業に行くように促されて、真吾に「お大事に」とだけ伝えて教室に、、行こうとした。


「まって。伊月…」
「ん?」
「強いて言うなら、、、っていっ、ただろ。」
「え、うん。だから…」
「伊月が、いて、くれたほうがいい。」

こいつがここの先生をよく思っていないことは、普段の行動を見ていればわかる。しかし、目の前にいるのにはっきり言うのか…。と感心半分、呆れ半分のような気持ちでいながらも、知っているからこそ、ここで真吾を先生に任せるのもどうかと思えて、どうしたらいいですか、という意味を込めて先生を見つめた。

「まぁ、いいでしょう。後で僕から言っておきます。ただし、ここに二人はサボりにも見えますし、僕はここに残りますよ?」

その言葉に真吾がひとつ、頷いたのを確認して、俺も真吾が座るベンチに腰掛けた。

「ごめん、むちゃ、いって………」
「いいよ。先生許可してくれたし。楽な体制とってたら?」
「ありがと。」

軽く体重をかけられれば、そこから動くことは出来ず、たまたまポケットの中に入っていた英単語帳をペラペラと片手でめくっていった。
隣の真吾が心配で、単語なんてひとつも頭に入っていない。









心配、とは少し違う感情が胸の中にある。
これは、なんというものなのだろうか…。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

同性愛者であると言った兄の為(?)の家族会議

海林檎
BL
兄が同性愛者だと家族の前でカミングアウトした。 家族会議の内容がおかしい

二杯目はあなたと

夕月ねむ
BL
すぐそこが戦場の野営地で、公爵令息セオドアは優雅にお茶を飲む。そばに仕えるのはアシュリーという名の侍従。二人が恋仲であることは、公然の秘密だった。 結界魔法が得意な主人と、水魔法で熱湯も出せる従者のファンタジーBL掌編。 ※他サイトにも投稿しています。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

処理中です...