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8. 幸せ
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レオン様と婚約を結んでから1週間が経つ今日、私はつい先日始まった妃教育のために王城に来ていた。
「もっと背筋は伸ばして! 手が震えてますよ!」
次から次へと飛んでくる注意に1つ1つ気を付けながら、空のティーカップを持ち上げる私。
一応礼儀作法は学んでいたのだけど、まさかここまで指摘されるとは思っていなくて、自分の無知さが恥ずかしくなっていた。
「見違えるほど良くなりました。今日はこの辺で終わりにしましょう」
「ありがとうございました」
さっきまでのキツい表情はどこへやら。
穏やかに微笑む王妃殿下に、私は礼を口にした。
ええ、ええ、まさか王妃殿下が教育係になるとは思いませんでしたよ。
初日は緊張しっ放しで、持ち上げたティーカップが常にカタカタと音を立ててしまっていて。
「そんなに緊張しなくていいのですよ。私も最初は拙かったのですから」
そう苦笑しながら言われていた。
それからは家族のように親密に接してくれているお陰で、翌日には緊張しなくなっていた。
2年後には家族になるのだから、すごく嬉しかった。
「リーシャ、今日もお疲れ様」
「レオン様も政務お疲れ様です」
そんな言葉を交わし、寄り添ってテラスに向かう私達。
赤い光が照らす中、テーブルを挟んで雑談を始める私達。
少し遅れてお茶とお菓子が運ばれてきて、私はそれを少しだけ口に含んだ。
それからどれくらい経ったのか、すっかり日が落ちた時だった。
「重い話になるけど、いいか?」
「ええ」
「クレシンス伯爵家の取り潰しが決まった」
「そうですのね……。教えてくれてありがとうございます」
お父様は数々の不正を行っていたようで、私の置かれていた状況を調べていく内に次々と明らかになったらしい。
正直、あの家族が没落しても気にはならないのだけど、気がかりなことが1つだけあった。
「侍女はどうなりますの?」
「当然クビだな」
「侍女長だけはなんとか助けてほしいですわ……」
「何故だ?」
あの家の人間が全員私の敵だと思っているのか、不思議そうにするレオン様。
「私の唯一の味方でしたの……」
「そうか。身辺調査を済ませたら紹介状を書こう」
「ありがとうございます……!」
出来ることは限られていたけれど、ずっと味方でいてくれた彼女が救われる。
そうと分かり、私はレオン様に礼を言った。
それからは将来のことについて話したり、次の夜会に着ていくドレスのリクエストをされたり。
レオン様との会話を楽しむ私だった。
そんな時……
「あ、流れ星だ」
「どこ……?」
「ほらあそこ」
レオン様が指差す先を見上げる私。
そこには確かに流れ星があった。
「消えてしまいましたわ……」
「また出てきた。何か願い事をしないとな」
そんな言葉が聞こえて、すぐに私は目を閉じて祈った。
レオン様との幸せがずっと続きますように。
願い事を終えて目を開けると、流れ星と夜空の星々が瞬いた。
「リーシャは何を願ったんだ?」
「秘密ですわ」
「そうか……」
それから私達は馬車に乗るために庭園に向かった。
そして……
「リーシャ、君を幸せにすると約束する」
「私も、約束します」
……馬車の窓から差し込む月明かりが、私達を穏やかに照らした。
************
今回で本編完結となります。ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
「もっと背筋は伸ばして! 手が震えてますよ!」
次から次へと飛んでくる注意に1つ1つ気を付けながら、空のティーカップを持ち上げる私。
一応礼儀作法は学んでいたのだけど、まさかここまで指摘されるとは思っていなくて、自分の無知さが恥ずかしくなっていた。
「見違えるほど良くなりました。今日はこの辺で終わりにしましょう」
「ありがとうございました」
さっきまでのキツい表情はどこへやら。
穏やかに微笑む王妃殿下に、私は礼を口にした。
ええ、ええ、まさか王妃殿下が教育係になるとは思いませんでしたよ。
初日は緊張しっ放しで、持ち上げたティーカップが常にカタカタと音を立ててしまっていて。
「そんなに緊張しなくていいのですよ。私も最初は拙かったのですから」
そう苦笑しながら言われていた。
それからは家族のように親密に接してくれているお陰で、翌日には緊張しなくなっていた。
2年後には家族になるのだから、すごく嬉しかった。
「リーシャ、今日もお疲れ様」
「レオン様も政務お疲れ様です」
そんな言葉を交わし、寄り添ってテラスに向かう私達。
赤い光が照らす中、テーブルを挟んで雑談を始める私達。
少し遅れてお茶とお菓子が運ばれてきて、私はそれを少しだけ口に含んだ。
それからどれくらい経ったのか、すっかり日が落ちた時だった。
「重い話になるけど、いいか?」
「ええ」
「クレシンス伯爵家の取り潰しが決まった」
「そうですのね……。教えてくれてありがとうございます」
お父様は数々の不正を行っていたようで、私の置かれていた状況を調べていく内に次々と明らかになったらしい。
正直、あの家族が没落しても気にはならないのだけど、気がかりなことが1つだけあった。
「侍女はどうなりますの?」
「当然クビだな」
「侍女長だけはなんとか助けてほしいですわ……」
「何故だ?」
あの家の人間が全員私の敵だと思っているのか、不思議そうにするレオン様。
「私の唯一の味方でしたの……」
「そうか。身辺調査を済ませたら紹介状を書こう」
「ありがとうございます……!」
出来ることは限られていたけれど、ずっと味方でいてくれた彼女が救われる。
そうと分かり、私はレオン様に礼を言った。
それからは将来のことについて話したり、次の夜会に着ていくドレスのリクエストをされたり。
レオン様との会話を楽しむ私だった。
そんな時……
「あ、流れ星だ」
「どこ……?」
「ほらあそこ」
レオン様が指差す先を見上げる私。
そこには確かに流れ星があった。
「消えてしまいましたわ……」
「また出てきた。何か願い事をしないとな」
そんな言葉が聞こえて、すぐに私は目を閉じて祈った。
レオン様との幸せがずっと続きますように。
願い事を終えて目を開けると、流れ星と夜空の星々が瞬いた。
「リーシャは何を願ったんだ?」
「秘密ですわ」
「そうか……」
それから私達は馬車に乗るために庭園に向かった。
そして……
「リーシャ、君を幸せにすると約束する」
「私も、約束します」
……馬車の窓から差し込む月明かりが、私達を穏やかに照らした。
************
今回で本編完結となります。ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
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リクエストありがとうございます。
長編のストックが出来たら書いていこうと思います。
退会済ユーザのコメントです
ご指摘ありがとうございます。
修正しました。
感想ありがとうございます。
はい、幸せです😊