半月後に死ぬと告げられたので、今まで苦しんだ分残りの人生は幸せになります!

八代奏多

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38. 余命7日④

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「到着いたしました」

 そんな言葉に続けて馬車が止まる。

 ここはルードリッヒ侯爵領にある最大の都市グレール。私達はそこにある教会に来ている。

「殿下、お待ちしておりました」

 早速数人に出迎えられ、教会には入らず隣にある建物へと向かう私達。
 その中に入ると、子供が遊んでいる声が聞こえてきた。

 それと同時に……

「何故壁に穴が開いている」

 ……殿下がそんなことを口にした。

「先月空いてしまったのですが、直すための予算がなくて……」
「侯爵家からの援助は無いのか?」
「ありますが、今年から減らされていて……建物の修理をする余裕はないのです」

 領地を持つ貴族は、領内にある孤児院や診療所に支援することが義務付けられている。
 だから私の家も例に漏れず支援しているのだけど、お父様が私欲を肥やすために金額を減らしてしまっていた。

「お嬢様方が直接いらっしゃられた時は満足いく支援を得られたのですが、今年からはそれも途絶えてしまって」
「そうか。生活の方は大丈夫なのか?」
「いえ、孤児が増えたのもあってかなり厳しい状態です」

 そんな話をしながら足を進める殿下。
 それを聞いている私は生きた心地がしなかった。

「レティシア、どういうことか知っているか?」
「去年まではお父様から領地の管理の一部を任されていましたの。もちろん私達は充分な支援をしていました。
 しかし今年になって予算の使い過ぎと言われてしまって、お父様が全て管理することになりましたの」
「要するに、侯爵が馬鹿なことをしているんだな」

 殿下はそう口にすると、何かを考えるような仕草を見せた。
 そして次の瞬間、こんな言葉が飛び出してきた。

「視察は中止だ。一旦王都に戻って支援のための予算を組み直す」
「ありがとうございます」

 嬉しそうに頭を下げる孤児院の方。
 私は「畏まりました」とだけ口にして、無言で殿下の後を追った。

「あ、レティシア様だ! こんにちは。こっちのおにーさんは誰ー?」
「こんにちは。彼はジグルド王太子殿下よ」

 男の子に話しかけられて、目線が合うようにしゃがんでから笑顔で返す私。

「王太子様!? えっと、王太子様ってことは……」
「将来の王様だよ! ノアはそんなことも知らないのね!」
「アリスが物知りなだけだよ」

 楽しそうに会話する子供達は去年来た時よりも痩せていて、申し訳ない気持ちになった。
 こんな状況になるまで支援を削ったお父様に怒りを覚えた。

 でも、表情に出すわけにはいかない。

「ノア君とアリスちゃんか。ここでの暮らしは楽しい?」
「「うん!」」
「だってみんな優しいから!」
「ご飯は減っちゃったけど、シスターさんは優しくて、みんな仲良しだもの」
「そうか、それは良かった」

 しゃがんで子供達と会話をする殿下。
 すると、ノアと呼ばれてた男の子がこんなことを口にした。

「レティシア様とセシル様が来てくれたらもっと楽しいのに……。侯爵様はウザいし来なくていいけど」
「何言ってるの? レティシア様もセシル様も忙しいのよ」
「中々来れなくてごめんね」
「じゃあお詫びとして魔術見せて!」

 私が謝ると、近くの部屋からこっそり覗いていた男の子にそんなことを言われた。

「殿下、少しお時間頂いてもよろしいですか?」
「ああ、構わない」
「ありがとうございます」

 小声で殿下に許可を取り、子供達へと向き直る私。

「ここだと狭いから、食堂に行きましょう」
「「やったー!」」
「カイト、ナイス!」

 一斉に上がる子供達の歓声。
 正直私の魔術のどこがいいのか分からないけど、何故か人気なのよね……。

 そんなわけで孤児院で一番広い部屋、食堂へと移動して、早速呪文を唱えた。

「……あれ、光らないよ?」
「少しずつ明るくなるわ」

 私がそう口にすると、テーブルの上に浮かび上がった魔法陣が光を放ち始めた。
 その上には黄緑色の淡い光が浮かんでいて、幻想的な光景を生み出している。

「すごい、綺麗……」
「なんかつまんない。火の魔術が見たい」

 見入る子もいれば、こんな反応をする子もいた。
 だから、リクエスト通り火の魔術を見せたりもした。

 すると予想通り男の子中心に盛り上がって、たくさんの笑顔を見ることが出来た。
 でも、魔術でお腹いっぱいにさせてあげることは出来ないから、少し申し訳ない気持ちになってしまった。

「そろそろ戻ろう。みんな、俺達はそろそろ戻らないといけない。
 また近いうちに来るから、楽しみにしてくれ」
「えー、もう帰っちゃうのー」
「仕方ないよ。殿下、レティシア様、さようならー!」
「また来てねー!」

 そんな言葉と共に見送ってくれる子供達。

「ああ。では、また会おう」
「ええ、さようなら」

 私はあと1週間で死んでしまうかもしれないから、「またね」を言うことは出来なかった。
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