半月後に死ぬと告げられたので、今まで苦しんだ分残りの人生は幸せになります!

八代奏多

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51. 余命5日④

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(アレ、どうするの?)

 取り乱すお父様を見ていると、フレアにそんなことを言われた。
 反射的に振り向いてみると、そこには誰もいなくて、フレアがいつの間にか姿を消していたと悟った。

(恥ずかしいけど……声、かけてみるわ)

 今更私の大切さに気付いたのか、それとも周囲への印象作りか、どちらかは分からない。
 でも、このままだと確実に恥晒しになってしまう。そう思ったから、とりあえず声をかけてみることに決めた。

「お父様、みっともないから泣くのはやめてください」

 お父様の動きが止まって、静寂が訪れる。
 ううん、違う。お父様の声がうるさすぎただけ。

「レティシア……?」
「そうですわよ?」
「無事……だったのか。良かった……!」

 そんなことを言いながら、私に抱きつこうとするお父様。
 それを躱すと、転びそうになっていた。

「ええ、魔術のおかげで無事に脱出できましたわ」
「そうか……」

 しばらくの沈黙。
 さっきまでの取り乱していたお父様はどこへやら、完全に安心した様子で私の前に立っていた。

「謝りたいことがある。少し場所を移してもらえないか?」
「さっきはあんなに泣いていたのに、ですか?」
「あれは私自身の評価にのみ影響するからいい。だが、今から話したいことは別だ」

 疑問に思って聞き返してみると、そんな答えが返ってくる。

 正直、私に酷い扱いをしてきた人の言うことを聞きたくはない。
 でも、家に関係することで失態を晒すとお兄様の迷惑になってしまう。

 そのお兄様も私を心配する手紙を送ってこなかったけれど、これには理由があると思っているから。
 仕方なく頷く私だった。

「分かりましたわ」
「ありがとう、助かるよ」

 未だに燃え続けている建物から少し離れて、近くに停まっている侯爵家の馬車に乗り込む私達。
 するとすぐに、お父様がこんなことを語り始めた。

「まずは、謝らせてほしい。今まで冷たい扱いをしてきて済まなかった」
「あれだけ酷いことをしてきて、それで済むとお思いですの? 実際に手を出してきたのはお母様ですけど、忌み子だなんて呼び出したのはお父様が最初ですのよ?」
「もちろんこれで赦してもらえるとは思っていない。だが、気持ちは伝えたかった」

 赦す気が無いことを伝えると、そんな答えが返ってくる。
 お父様が考えていることは全く分からないけど、関係を直したいことだけは分かった。

「気持ちだけは受け取っておきますわ」
「ありがとう。本題に入る前に、これを見てほしい」

 そんな言葉と共に差し出される2つの封筒。
 そこには、それぞれ違う筆跡で私への宛名が書かれていた。

「どうしてこれをお父様が持っていますの?」

 この封筒はお兄様とお姉様からのものに違いない。だから、こうしてお父様が持っていることが不思議だった。

「メアリーが隠し持っていた。どういう意図かは分からないが、何も連絡出来ていなかったのは、これが原因だったようだ」
「そうでしたのね……」

 私はてっきり見捨てられたと思っていたのだけど、全てお母様の工作だったのね……。

 お母様に怒りを覚えながら、封を開ける。
 そこには、私を心配する手紙が入っていて、余計にお母様への怒りが湧いてきてしまった。

 文章自体は長くないから読み終わるのはあっという間で、そのタイミングでお父様が口を開いた。

「こんなことがあったから、メアリーが使用人にしじできないようにした。私もレティシアが困らないように手を尽くす。
 それに、ここは危険だ。だから、屋敷に戻ってきてほしい」

 都合が良すぎる言葉。
 それを聞いて、私はこんなことを口にしていた。

「都合が良すぎますわ。どういうつもりで言っていますの?」

 表情からは読めないけど、何か他の意図がある。
 そう思ってしまった。
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