今度こそ長生きしたいけど、憑依先が悪役令嬢とは聞いてませんっ!?

竹林 花奏(たけばやし かなで)

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33.皇太子と宮廷へ

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ヘーリオス学園に入学して、初めての試験が行われた。


日本でいうところの『期末テスト』だ。


日本と少し違うところと言えば、学科に『魔法』があることと時期が少し早い部分だ。


この3日間の試験が終わると、夏イベントの剣術大会に向けて男子生徒は1ヶ月の準備期間として自主練に励む。


一方女性は特にやることが無いため、自主勉強をする者や今後の社交界での繋がりを強化するために、上級生や来年入学する予定の令嬢たちを呼び寄せて、お茶会を開いたりする。


中には自分の婚約者が自主練をしている姿を眺めたり、応援したりする人も居る。


だが、夏イベントの前に私には憂鬱なことが一つあった。


「姉上、今日ですよね?」


「ええ」


試験が終わり、リチャードに聞かれて溜息を吐きながら頷く。


今日は両陛下――つまり、婚約者のクリストファーの両親から、彼と一緒に宮廷に顔を出すように言われていた。


次の日は学園がお休みということもあり、今から馬車で皇太子と一緒に向かい、宮廷に1泊する予定となっている。


「姉上、気をつけて行ってきてください」


不安そうに言ったリチャードに私は無理をして、微笑む。


「大丈夫よ。特に何かあるとも思えないから、なんとか一日乗り切るわ」


2人で話しているとジェニットが声をかけてくる。


「久しぶりの婚約者との時間、楽しんできてね!」


「ありがとう。それじゃあ、行ってくるわね」


リチャード、ジェニット、レイトンから手を振られて私も手を振り返し、歩き出した。


馬車の前にはクリスがもう既におり、その隣には腕を絡ませたジェシカとそのジェシカを引き離そうとしている会長のマリアンヌ・ディーゼル公爵令嬢が居た。


マリアンヌ会長を久しぶりに見たが、彼女は変わらず元気そうだ。


また、その2人をおろおろした表情で見つめるカインとつまらなそうにしているステファン、我関せずで珍しく助けもしないジャックが居た。


「クリストファー様、お待たせしてしまいすみません」


「いいよ。気にしないで。リーリア、それじゃあ行こうか」


「えー!私も宮廷に行きたいですぅ~。一緒に連れて行って!」


腕に絡んだジェシカの手を名残り惜しそうに引き離したクリスは我儘を言うジェシカに、首を振った。


「今回はね、両親に私とリーリアだけが呼ばれているんだ。だから……そんな可愛いこと言われても、今日だけは連れて行ってあげられないんだ」


「……じゃあ、いつかは連れて行ってくれますか?」


「もちろんだ。今度は2人で行こうか」


「絶対ですよ!約束ですっ!」


遠距離恋愛で別れを惜しむカップルのような茶番を見せられ、私は苦笑しながら見守った。


「クリス、そろそろ行かないと到着が遅れて皇帝陛下と皇后陛下が心配なさるんじゃないか?」


ジャックに声をかけられ、ハッとしたようにデレデレだった表情を引き締めるとクリスが言った。


「それもそうだね――リーリア手を」


「はい」


私は彼の手を掴み、馬車に乗り込んだ。


その後に続き、彼も乗り込んでくる。


睨んでくるジェシカに心配そうな表情のジャック。


(そんなに睨まないで欲しいわね……私だって、望んでクリストファー様と一緒に居る訳ではないのだから)


ジャックとはあの一件以降も手紙でのやり取りをしていて、夏休みに入ったら一度リチャードも交えて会うことにしている。


それまではなるべく接触を控えているので、あれ以来は直接的に会話をしていない。


私は安心させるようにまた、無理をして笑った。


しばらくして馬車が動き出した。


「婚約者の前で他の男に向かって微笑むなんて、嫉妬してしまうよ」


クリスからそう言われ、窓から視線を彼に移した。


彼は"嫉妬してしまうよ"と言っている割には、態度は余裕そうでやっぱり読めない男だと思った。


「そういうクリストファー様こそ、婚約者が居る身でありながらあの伯爵令嬢と随分と親密そうではありませんか?」


いつだったか、ヴァン伯爵令嬢に言った『婚約者本人に忠告はする』がここで叶ってしまうとは思わなかった。


「そんなに嫉妬しないでよ、安心して?君のことはちゃんと皇后にするつもりだから」


(……本当に、気持ち悪くて気分が悪くなるわ)


クリスは私の頭から下まで舐め回すような視線を向け、笑った。


「そういう問題ではありません。貴方様の軽はずみな行動のせいで、私が周囲からどんな目で見られるかとか考えたこともありませんか?」


言い返すと、ただの焼きもちではないと気がついたのか、冷えるほど冷めた目を向けられてから言われた。


「私は前に君に言わなかったかな?これから問題を起こしたら、この婚約は白紙になるよって」


「私のこの発言が問題と、言いたいんですね?」


クリスは体制を崩すとやれやれと首を振った。


「そうだよ。君が僕に口出しすることも問題だ。せっかく最近は君が大人しくしていて、君には少しばかり好意を抱いていたというのに、残念だよ……もう次からは気をつけてくれ。うっかり婚約を破棄してしまうかもしれないから」


『好意』と言われた瞬間、何故か背筋がゾワゾワし、身震いした。


「……わかりました」


そんな状態で頷いたものだから、彼は私が"婚約破棄"を恐れて怯えていると勘違いしたのだろう。


満足そうな笑顔で言った。


「頼むよ。君は顔も悪くないし、手放すには惜しいからさ」


気持ち悪いと思いながらも、ちょっとした疑問が芽生え。


(あれ?皇太子殿下は、ベネットの時にはこんなに気持ち悪い性格の人だったかしら?)


確かにゲームの時からクリスには苦手意識を持っていたが、こんなに身震いする程ではなかった。


ベネットの時は胡散臭い男だとは思っていたが、一応幼馴染みみたいな感じではあったので、ここまで嫌悪はしていなかった気がする。


馬車の中では沈黙が流れている。


その長い沈黙の中、私はこの不安な気持ちのまま馬車に揺られ、クリスと一緒に宮廷へと向かった。
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