今度こそ長生きしたいけど、憑依先が悪役令嬢とは聞いてませんっ!?

竹林 花奏(たけばやし かなで)

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44.全ては彼女のために②~ジャックside~

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次に目を覚ました時にはベッドの上で寝かされており、王宮医と母が居た。


「ジャック、大丈夫なの?」


目を覚ました俺にひと足早く気が付くと俺の顔を両手でそっと包んで持ち上げて、心配そうに目線を合わせた。


「……うん、大丈夫だよ」


いつも以上に大人しく、されるがままになりながら素直に返事をすると、今度は驚いた顔をされた。


「ジャック、本当に大丈夫?ねぇ、あなたも過労で倒れただけって言ったわよね?」


俺の顔から手を話すと、母は近くで控えていた王宮医に近寄り、問いただし始めた。


アエーマ王国の王妃である母から質問攻めに合っている王宮医は、涙目になりながらもしどろもどろに答えている。


精神年齢が10歳も上がったジャックフリートは王宮医である彼を可哀想に思い、「母上、落ち着いてください」と声をかける。


「……ジャック、本当に大丈夫なの?もしかして何処かで変な物とか摘み食いしてないわよね?」


いつも使用人や両親を困らせるだけで気遣っても来なかった9歳の悪童が、この日を境に鳴りを潜めた。


それから謹慎が明け、一週間後くらいにベネットに会う機会があった。


今まではただ彼女に一目惚れして嫌なことをしているただの嫌な奴だったが、この日再会した時に新たな感情が芽生えた。


直感がベネットを"坂本美緒"だと言っている。


でも、彼女には"坂本美緒"としての記憶が無いようで……記憶が無いのに変なことを言えば、今以上に避けられるような気がしてただ、木登りの一件を謝罪した。


他にも色々と嫌なことをしたことを詫びれば、最初こそ俺の変わりように驚いていたベネットもしつこくてうんざりしたのか、しばらくして彼女から「もう謝るのはなしね!うっとおしいから!」と言われ、内心泣きたくなったのは、自分だけの秘密だ。


それからは関係改善をするため、両親から『外遊び禁止』を言い渡されたことを良いことに、彼女と色んな話をした。


特に白熱したのが『この国の今後』に関する話だ。


喧嘩も沢山したが、それでもお互いがこの国をどう思っているのか知るきっかけになった。


何より、"正樹"と"美緒"の間柄では起きなかった喧嘩がジャックフリートとベネットの間では起こるから、実は新鮮で楽しかった。


きっと結婚してれば互いの結婚観の違いや子育ての仕方で喧嘩して、仲直りする場面もあっただろう。


そう思うと、あの時に彼女をちゃんと守れなかった自分の不甲斐なさに悲しくなることもあったが、いつまでもくよくよしてはいられない。


いつしか成長していく内に、ベネットによく見られたいと思い、国政のことも学び始めた。


俺の親とベネットの親が密かに「ジャックとベネットを婚約させたらどうか」と言うようになった。


ベネット本人に俺がこの話をどう思っているのか聞かれた時は、流石に恥ずかし過ぎて「……別にいいんじゃないか?」としか言えなくて、我ながら情けないと思った。


でも、世の中そんなに上手く行く訳もなく、ベネットが10歳になるとヘーリオス帝国側から「ベネットをクリストファーの婚約者に」という話が持ち上がった。


俺は当然、ショックを受けた。


今度こそ彼女を幸せにしたかったのに……。


だが、ヘーリオス帝国側にも何か事情があるようでクリストファーからは「確かにベネット嬢と婚約したけど、時期が来たら婚約を白紙に戻すつもりだから安心して」と笑われた。


クリスは、俺がベネットのことを好きなのを理解していたから、その一言以降はベネットとの接触は婚約者として最低限なものだった。


だが、ベネット側にはそういった込み入った事情が説明されていなかった。


だから彼女は過度な期待を両親からかけられ、皇后教育も厳しいものだった。


彼女も自分も多忙で中々会えず、1年後に久しぶりに会えたと思ったら、ベネットはかなり憔悴しきっていた。


ベネットを守るためになんとか手を回して皇后教育に関して口を出し、少しは緩和させることに成功したが、これ以上の口出しをしないように両親から言われてしまった。


例え形ばかりの婚約だとクリスが言っていても、世間では彼がベネットの正式な婚約者なのだ。


クリスが直接働きかけなければ、これ以上ベネットの環境が良くなるとは思えない。


クリスに会った日に言った。


「今のままだとベネットが可哀想だ」


少しでもベネットの環境がどうにかなれば……という気持ちで、ローガン公爵夫妻にこの婚約の事情を話してくれるようにお願いした。


だが、クリスは申し訳なさそうに首を横に振るだけだった。


「ジャック……君にもベネット嬢にも事情が言えないし、なんなら彼女には婚約が白紙になるかもしれないことも話せないんだ。本当は君に話すのも駄目だったんだけど、僕は親友の前で平気な顔出来ないからさ――だから君にだけ話したんだ。時期が来るまでは申し訳ないけど、耐えて欲しい」


それだけ言って、頭を下げられた。


(……今まで頑張ってきたベネットに、これ以上どうやって耐えろと言うんだ)


クリスは昔から自分の関心がない事柄に関しては、動いてくれない部分があった。


ようは――一時的な婚約者にしか過ぎないベネットが苦労しようが知ったことではない、ということだった。


クリスに対する怒りと殺意でどうにかなりそうだったが、何とか3日頭を冷やして冷静に考えた。


(これ以上、皇后教育に関しては俺からどうにも出来ない……ならば、せめてベネットの心の支えになろう)


そう考えて、暇を見つけてはローガン公爵家に足を運んだり、逆にベネットに息抜きにと王宮まで遊びに来てもらったりした。


以前に比べればベネットの顔色は良くなり、頬も健康的にふっくらとしてきた。


そんな穏やかな時間が続いていたから、セーラス神から言われていた"ベネットの体のタイムリミット"が近いことをうっかり忘れていた。


14歳の誕生日パーティーを終えてしばらくすると、ベネットは急に倒れた。


最近各国で流行っている原因不明の病だった。


怪我であれば治癒魔法でどうにかなることもあったが、体内で起こる病には治癒魔法は使い物にならない。


セーラス神の言う通り、ベネットの体は持たないのであろう。


それでも居ても立っても居られず、どうにかしてベネットの流行病を治す術は無いか探したが、どの医者に聞いても『何か方法があれば他の患者にも対応が出来ていた』と首を振られ、絶望した。


結局はどうしようも無いことだったとようやく理解出来た俺は、ベネットに会いに行くことにした。


ベネットが流行病で倒れてから、これまで何度かローガン公爵家に『面会を希望する』という内容の手紙を送っていたが、断られていた。


自分が"王太子"という立場だから、流行病が移ったらいけないという配慮だろう。


特にクリスなんかは分かりやすく、ここ1週間くらいこちらから手紙を送っても、なんのリアクションも返して来ない。


(薄情な奴だな……)


そう思いもしたが、その国のトップである王族とはそれが当たり前だった。


でも俺は、どうしてもベネットに一目会ってちゃんとお別れが言いたかった。


今までは事前に手紙を出していたから断られたに違いない。


(だったら、突然訪ねて無理やり中に入れてもらおう)


普段はこんな傲慢な態度を取らないが、ベネットの最後に会えなくなるのは嫌だった。


いくらこの後、別の体に移るとしても"ベネット"として会うのは最後になる。


次に会った時に、あの時は見舞いにも来なかった薄情な男だと彼女にだけは思われたくない。


俺は執務室の椅子から立ち上がると、部屋を出た。
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