今度こそ長生きしたいけど、憑依先が悪役令嬢とは聞いてませんっ!?

竹林 花奏(たけばやし かなで)

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75.夏休み②~ジャックside~

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ベネットとリチャードに会うために喫茶店へと向かっていた俺は、ジェシカから急に呼び止められた。


「ジャック様!お願いがあるんです……」


今にも泣きそうな顔で声を掛けられ、俺は少々煩わしく思いながらも、笑顔を作って振り返った。


「ジェシカ嬢、どうかしたのか?」


優しいフリをして聞けば、彼女ははらはらと涙を流しながら「実はさっき、サルバトレー嬢に意地悪をされたんです……」と悲劇のヒロインみたいな顔をして言ってきた。


(ベネットがそんなことをする筈がないだろう――それより、ベネットとリチャードにこっそり会っているのを一番バレたくない人間に捕まってしまったな……)


「そうなのか?……リーリア嬢はそんなことをする人には見えないが」


俺がやんわりと否定すると、一瞬こちらを睨んできたジェシカは、また泣き真似を再開して「サルバトレー嬢に転ばされただけじゃなくて、オルガノフ嬢とそれからヴァン嬢に暴言を吐かれたんです……サルバトレー嬢は最後には、ステファン様から貰った賞品を私に自慢してきたんです……」と両手で顔を覆い、肩を小刻みに震えさせた。


確かにベネットはジェニット嬢とヴァン伯爵令嬢と最近仲良くしているが、2人ともそんなことをしそうな人間には見えない。


だが、ジェシカの制服が所々土で汚れているのを見て、誰かに本当に転ばされたのか、はたまたわざと自分で転んで制服を汚したのかは現時点では分からない。


その土の汚れを軽く叩いて落としてやりながら、さっと周りを見た。


ベネットがこちらに歩いて来ていたが、ジェシカの存在に気が付いて、人目のつかない場所へと逃げて行くのが見えた。


(ベネットは、ステファンから賞品を貰ったのか……)


どういう経緯て貰ったのかがとても気になるが、今はそれどころではない。


「あんなに言われて悔しいの。だから、ジャック様お願い。ジャック様の賞品を私にください。くれたら、私の心が救われる気がするの……」


ジェシカの本当の狙いが剣術大会の賞品だったと知り、俺はこっそり苦笑した。


そういえば、数日前に影からの報告でジェシカがかなり荒れていたと聞いていた。


(ベネットがステファンから賞品を貰ったからか……)


ステファンから自分が貰う予定だった賞品が手に入らなかったから、俺から何としても貰うつもりの様だが、残念ながら俺も既にベネットに贈った後だ。


でも俺がベネットに賞品を渡したことが彼女に知られれば、ジェシカは更に荒れ狂ってベネットを恨むだろう。


リチャードの言う通り、ジェシカが元のリーリア嬢だとすれば、現段階でも有りもしない出来事をベネットのせいにしているのならば、今後更に警戒しなければならない。


リチャードの読みは当たっていれば、これからジェシカの怒りの矛先がベネットに向かい、ベネットを徹底的に悪者に仕立て上げるだろう。


俺は眉を下げてジェシカに嘘を伝えた。


「あげたい所だが……可愛い弟に手紙で勝ったらあげる約束をしていて、弟はそれを俺から貰うのを楽しみにしていんだ。だから、すまない」


ジェシカの涙は引っ込み、ガッカリしたように「そうなの……先約があるなら仕方ないわ」と肩を落として、何処かへと歩き出してしまった。


(分かりやすいな……)


ジェシカの後ろ姿を見送りつつ、俺は影から報告の上がっている荒れた日のジェシカの言動を思い出していた。


『私、どうやら選択肢を間違えてしまったみたいなの……どうすれば、ここから挽回出来ると思う?』


義兄のシヴァに伝えた言葉で、確信が出来た。


ジェシカは転生者であり、この世界はゲームの世界なのだろうと。


確かに所々ではあるが、この世界には日本の要素が入っている。


それを以前から少し妙だと感じつつも、気のせいかと流してしまっていた。


だが、気が付いてしまった以上は知らんぷりは出来ない。


この世界の元になったゲーム内容を知らないのがもどかしいが、姉が読ませてくれた物語の内容を参考に考えてみれば、ジェシカがこの世界のヒロインで、リーリア嬢が悪役令嬢という存在だろう。


で、リーリアは知らなかっただろうが結果として、ジェシカの中へと一度宿ったベネットの魂と交換をすることになった。


そして、リーリアがジェシカと魂の交換を行ったのは、彼女が悪役ではなくてヒロインになりたかったから。


(そうすると、もしかしたらベネットも美緒の頃の記憶を取り戻しているかもしれないな……)


今までのベネットがリーリアとして動いてきた様子を見ていると、"悪役令嬢"としてのリーリアのイメージをなんとか解消しようとしているように見える。


その行動のお陰か、一部を除いてリーリアを悪く言う者も減ってきている。


と、すれば――美緒はこの世界の元になったゲームの存在を知っているということになる。


(ベネットだけには前世のことを打ち明けても良いかもしれないな)


けれどリチャードが居ない時に言わなければ、ベネットはきっと俺に真実を話してくれない。


「ジャック殿下、中に入らないんですか?」


喫茶店の前で立ち止まって考え事をしていた俺を不審そうに見ながら、リチャードが話しかけてくる。


「いや、ちょっとジェシカに捕まってしまってな。直ぐに入ると目につくと思って、ここにいた」


最もらしいことを言って誤魔化した。


「そうですか……ところで、殿下は夏休みはどうされるんですか?」


「2週間くらいはアエーマに戻るつもりだが、それがどうかしたのか?」


色々リチャードから聞いてみれば、ベネットとリチャードで親しい同級生を何名かサルバトレー家へ招いて、お泊まりをする計画が持ち上がっているようだった。


(これは、チャンスかもしれないな……)


タイミングが良ければ、前世の話をベネットと2人きりで出来るかもしれない。


そう思うと早くて、俺は「よければ俺もその集まりに呼んでくれないか?」とリチャードに言っていた。


リチャードは笑って「元々殿下は誘うつもりでしたから、安心してください……何より、貴方が居ると姉上も喜びますから」と返してくれた。
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