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おめぇ、面白ぇ奴だなぁ
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「声優部作りますけどいいですかー?」
流介は校長室へ入るなり、ヘラヘラと締まらない薄ら笑いを浮かべながら、校長に言った。
「笑止!」
言うが早いか、校長の丸太のような腕から放たれた拳が流介の顔面に炸裂する。小柄な流介は壁まで吹っ飛んだ。
しかし流介はすぐに起き上がると、その勢いを利用して校長に殴りかかった。大きなモーションであるにもかかわらず、校長は避ける素振りを見せない。むしろ、受け止めるように顔面を突き出した。流介の右拳が校長の左頬に突き刺さる。
しかし校長は微動だにしない。受け止めた拳を顔にメリ込ませたまま、しっかと流介を見据え、ニヤリと笑った。
「おめぇ、面白ぇ奴だなぁ」
◇ ◇ ◇
「その時の笑顔がさー、物凄くてさー。うわっ、キモッ!って思ったんだけどね」
「そこじゃない! お前、校長相手に『反撃権』使ったのか!」
またコーラをこぼしてしまった。今度は飲んでなかったが、蓋がないから大きなリアクションを取ってしまうとすぐに中身がこぼれてしまう。もう、手とか制服とかベッタベタ……。
ちなみに音弧野高は教師の生徒に対する体罰が許されている。時代を何十年も逆行する、もはや蛮行と言っても過言ではない時代錯誤ぶりである。
しかし生徒には『反撃権』なるものが付与されており、教師が殴る理由に対して生徒が納得できない時はすぐさま殴り返すことができる。
これに対し、教師の方は基本殴り返すことはできないし、避けてもいけない。公正と言えば公正だが、どうにもこうにもマッチョである。
「あんまりにも理不尽なことをされたんだからね。そこはちゃんと権利を行使しないと。俺だって殴られたまま黙ってスゴスゴ退散するほどアホじゃないよ」
流介は俺よりも五センチは低いので、百七十はないであろう。そんな吹けば飛ぶような小男がよくもまあ、あんな熊みてぇな校長を殴ろうとしたものだ。こいつは本当にアホを通り越したその向こう側の住人なのかもしれない。
「そうだな……、お前は向こう側の住人だもんな」
「そうだよ。俺は向こう側の住人なんだから」
まるで皮肉が通じない。本物のアホが俺の隣にいると思うと薄ら寒いものを感じる。そんな、ドン引きしている俺を全く気にすることもなく、流介は更に校長室でのことを揚々と語った。
◇ ◇ ◇
「話だけ聞いてやろう。貴様、なぜ声優部を作りたい?」
「声優は、何にでもなれるからです。せっかくこの世に生まれてきたのに、一人の人、一つの人生、一つの生物じゃもったいないじゃないですか。その点、声優なら何にでもなれます。役者以上に何にでもなれるのです。役者もいいけど、基本、人にしかなれませんからね。せいぜいが着ぐるみ着たりメイクしたりして化け物になるか宇宙人になるか。だけど、声優ならもっと色んなものになれます。形だって人型に限定されない。こんなに出鱈目で面白いもの、他にないじゃないですか。言ってみれば、何にもとらわれない、向こう側の世界の住人です。俺は向う側の住人になりたいんです」
「ほう……。向こう側の住人ときたか。……グワッハッハッハ! 面白い。その声優部とやらの発足、考えてやらんでもない」
「え、そうですか? じゃあ……」
「ただひ! 条件がある」
校長は、肝心なところで少し咬んだ。
「我々音弧野高校は、『自由、勝利、男気』を校是として掲げた男子高である。つまり、武を尊ぶ男の高校である。男子たる者、文など二の次、三の次。武こそが男の本懐」
「古いですね」
「では、この話はなかったことに……」
「つまり、一周回って逆にナウいということです」
校長は、どういうことか、と少し考えたが「ナウい」という言葉を重んじたようで、話を続けた。
「……でだ、そんな我が音弧野高は武、つまりスポーツに力を入れている。それによって現在の地位を築いてきた」
音弧野高はスポーツに力を入れた結果、各競技大会で実績を上げいき、現在ではスポーツ有名高として全国でも名が通った存在となっている。
「音弧野高に軟弱な文化部などは要らん。必要なしだ。しかし……、今回は特別、お前の熱意を買ってやる。熱意は男気だ。男気ある者にはチャンスを与える。それが我が音弧野高校だ」
「チャンスをいただけるんですか!」
「無論! しかし、それをチャンスとするか絶望とするかは貴様次第だ。そして、そのチャンスとは……試練だ! その試練を乗り越えた暁には、声優部発足を認めてやろう」
「どんな試練ですか?」
「それを貴様が考えるのだ。今! ここで!」
「え、俺が?」
「自らで試練を決められずにどうする! そして、それを乗り越えてみせよ! 自分を乗り越えた時に、初めて道は開ける!」
「え? いいんですかぁ? じゃあ……」
「ただひ! 生半可な試練を決めた時は、その瞬間にこの話は立ち消えとする」
またしても、校長は少し咬んだ。
「うーん……。そうだなぁ……。では! こういうのはどうです?」
「言ってみろ」
「この、校長室を、百日間連続で掃除するんです」
「……それだけか?」
「もちろん、それだけではございません。それは第一条件に過ぎません。百日連続清掃を達成した後は、声優部を仮発足させていただきます」
「発足ぅ?」
「だから、『仮』です。試練を達成して、いざ発足しても、満足のいく活動ができなければ、やっても意味がありません。ですから、校長の納得のいく活動をすることができることを証明してみせます。そのためには、仮の発足が必要です」
「ふむ、なるほどな……。で、『仮』に発足したとして、何をやる?」
「音弧祭りで千人動員します」
「ほう……」
校長は片頬だけの笑みを浮かべた。
◇ ◇ ◇
流介は校長室へ入るなり、ヘラヘラと締まらない薄ら笑いを浮かべながら、校長に言った。
「笑止!」
言うが早いか、校長の丸太のような腕から放たれた拳が流介の顔面に炸裂する。小柄な流介は壁まで吹っ飛んだ。
しかし流介はすぐに起き上がると、その勢いを利用して校長に殴りかかった。大きなモーションであるにもかかわらず、校長は避ける素振りを見せない。むしろ、受け止めるように顔面を突き出した。流介の右拳が校長の左頬に突き刺さる。
しかし校長は微動だにしない。受け止めた拳を顔にメリ込ませたまま、しっかと流介を見据え、ニヤリと笑った。
「おめぇ、面白ぇ奴だなぁ」
◇ ◇ ◇
「その時の笑顔がさー、物凄くてさー。うわっ、キモッ!って思ったんだけどね」
「そこじゃない! お前、校長相手に『反撃権』使ったのか!」
またコーラをこぼしてしまった。今度は飲んでなかったが、蓋がないから大きなリアクションを取ってしまうとすぐに中身がこぼれてしまう。もう、手とか制服とかベッタベタ……。
ちなみに音弧野高は教師の生徒に対する体罰が許されている。時代を何十年も逆行する、もはや蛮行と言っても過言ではない時代錯誤ぶりである。
しかし生徒には『反撃権』なるものが付与されており、教師が殴る理由に対して生徒が納得できない時はすぐさま殴り返すことができる。
これに対し、教師の方は基本殴り返すことはできないし、避けてもいけない。公正と言えば公正だが、どうにもこうにもマッチョである。
「あんまりにも理不尽なことをされたんだからね。そこはちゃんと権利を行使しないと。俺だって殴られたまま黙ってスゴスゴ退散するほどアホじゃないよ」
流介は俺よりも五センチは低いので、百七十はないであろう。そんな吹けば飛ぶような小男がよくもまあ、あんな熊みてぇな校長を殴ろうとしたものだ。こいつは本当にアホを通り越したその向こう側の住人なのかもしれない。
「そうだな……、お前は向こう側の住人だもんな」
「そうだよ。俺は向こう側の住人なんだから」
まるで皮肉が通じない。本物のアホが俺の隣にいると思うと薄ら寒いものを感じる。そんな、ドン引きしている俺を全く気にすることもなく、流介は更に校長室でのことを揚々と語った。
◇ ◇ ◇
「話だけ聞いてやろう。貴様、なぜ声優部を作りたい?」
「声優は、何にでもなれるからです。せっかくこの世に生まれてきたのに、一人の人、一つの人生、一つの生物じゃもったいないじゃないですか。その点、声優なら何にでもなれます。役者以上に何にでもなれるのです。役者もいいけど、基本、人にしかなれませんからね。せいぜいが着ぐるみ着たりメイクしたりして化け物になるか宇宙人になるか。だけど、声優ならもっと色んなものになれます。形だって人型に限定されない。こんなに出鱈目で面白いもの、他にないじゃないですか。言ってみれば、何にもとらわれない、向こう側の世界の住人です。俺は向う側の住人になりたいんです」
「ほう……。向こう側の住人ときたか。……グワッハッハッハ! 面白い。その声優部とやらの発足、考えてやらんでもない」
「え、そうですか? じゃあ……」
「ただひ! 条件がある」
校長は、肝心なところで少し咬んだ。
「我々音弧野高校は、『自由、勝利、男気』を校是として掲げた男子高である。つまり、武を尊ぶ男の高校である。男子たる者、文など二の次、三の次。武こそが男の本懐」
「古いですね」
「では、この話はなかったことに……」
「つまり、一周回って逆にナウいということです」
校長は、どういうことか、と少し考えたが「ナウい」という言葉を重んじたようで、話を続けた。
「……でだ、そんな我が音弧野高は武、つまりスポーツに力を入れている。それによって現在の地位を築いてきた」
音弧野高はスポーツに力を入れた結果、各競技大会で実績を上げいき、現在ではスポーツ有名高として全国でも名が通った存在となっている。
「音弧野高に軟弱な文化部などは要らん。必要なしだ。しかし……、今回は特別、お前の熱意を買ってやる。熱意は男気だ。男気ある者にはチャンスを与える。それが我が音弧野高校だ」
「チャンスをいただけるんですか!」
「無論! しかし、それをチャンスとするか絶望とするかは貴様次第だ。そして、そのチャンスとは……試練だ! その試練を乗り越えた暁には、声優部発足を認めてやろう」
「どんな試練ですか?」
「それを貴様が考えるのだ。今! ここで!」
「え、俺が?」
「自らで試練を決められずにどうする! そして、それを乗り越えてみせよ! 自分を乗り越えた時に、初めて道は開ける!」
「え? いいんですかぁ? じゃあ……」
「ただひ! 生半可な試練を決めた時は、その瞬間にこの話は立ち消えとする」
またしても、校長は少し咬んだ。
「うーん……。そうだなぁ……。では! こういうのはどうです?」
「言ってみろ」
「この、校長室を、百日間連続で掃除するんです」
「……それだけか?」
「もちろん、それだけではございません。それは第一条件に過ぎません。百日連続清掃を達成した後は、声優部を仮発足させていただきます」
「発足ぅ?」
「だから、『仮』です。試練を達成して、いざ発足しても、満足のいく活動ができなければ、やっても意味がありません。ですから、校長の納得のいく活動をすることができることを証明してみせます。そのためには、仮の発足が必要です」
「ふむ、なるほどな……。で、『仮』に発足したとして、何をやる?」
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校長は片頬だけの笑みを浮かべた。
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