行くゼ! 音弧野高校声優部

涼紀水無月

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反撃権その2

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「君ィ。着替える時間はあるのかい?」

「あぁ?」

 ヤンキーがかった奴は、なぜ問いかける時「あぁ?」と言うのだろう? アホだからか?

「野球部ってのは、そんな泥だらけの服で神聖な学び舎を汚すような輩の集まりだったのかね?」

「……どういう意味だコラ」

「これから一悶着起こせば、それ相応の時間はかかるだろう。こちらとしても腕に覚えはあるのでね。そうなると授業は始まってしまう。着替える時間はなくなる。それでもいいのかい?」

 星野は近藤さんの顔から上履きまでを三回くらい往復して視線を走らせた後(なぜヤンキーがかった奴は怒ると上から下までを見るのだろう?)、

「……覚えとけよ」

 と、かなり低いトーンで捨て台詞を吐き、トイレを出て行った。

「おっ。君か。また会ったね。奇遇奇遇」

 近藤さんは何事もなかったように俺に気付き、横を通り過ぎる。所定の位置につき、ちぃーッ、と音を立てて前面のチャックを開け、用を足し始める。さすがとしか言いようがない。あ、いけないいけない。俺も用を足さねば。忘れてた。俺は近藤さんから容器を開けて用を足した。我ながら適正な距離感だと思った。

「彼。エキサイトしてたね」

「はぁ……」

「まぁ、無理もないけどね」

「……? と、申しますと?」

「野球部ね、また部費を下げられそうになったらしくてね。そうなると、ほぼゼロに等しい。それでね、さっきの彼、待ってくださいと直談判に行ったそうだ。校長のとこに」

「え!」

 あ、やべ……。あんまりびっくりしたから……。それにしても、まさか、そんなアホが流介の他にいたとは。

「反撃権を行使したそうだよ」

「えー!」

 あ、やべ……。またしても……。俺はひょっとしたらびっくりした時のリアクションが大きすぎるのかもしれない。

「その甲斐あったか、部費の減額を回避する条件を得たそうだ」

「条件……?」

「甲子園出場」

 かっこいい……。素直にそう思ってしまった。我々声優部とはえらい違いだ。まぁ、俺は声優部じゃないのだが。

「そんな矢先、エースの西元が我がOWEに来たもんだから、そりゃ怒るよね」

「マジッすか!」

 あーあ……。もう、ビッチャビチャ。それにしても、元野球部のエースがプロレスか……。なんだかすごいことになりそうだ。それにしてもプロレス……。やはり近藤さん曰く、交渉力というやつなのだろうか。

 その近藤さんは、ちいぃぃっ、とチャックを上げ、所定の場所を離れた。水の流れる音が響く。そして、その流れを確認するように見つめながら、言った。

「でも、正確に言うと、それは彼の逆恨みなんだけどね」

「え、どういうことですか?」

「だって、確かに僕はスカウトには行ったよ。でも、決断は西元に任せた。ウチに来たいのなら受け入れるよ、ってね。だから、OWE入団はあくまで本人の希望なんだ。希望してウチに来るってことは、それだけ野球部にも落ち度があった、ってことじゃないのかな」

 うーん、そうかもしれないが、どうなんだろうなぁ。スカウトには行っちゃったわけだし……。やはり星野が怒るのも無理はないと思う。甲子園出場、ひいては部の存続を賭けたこの大事な時期に、大黒柱を持って行かれたんだからなぁ。

 用を済ませた近藤さんは俺の後ろを通った。前回の平手打ちのことがあるので、反射的に身がすくんでしまった。その拍子に体勢が崩れた。嗚呼、またしても……。水洗いで大丈夫だろうか?


   ◇   ◇   ◇


「声優部作ったところで、どうやって活動すんだよ?」

 昼休み。いつものように学食で食事を終え、給茶機で入れたお茶をすすっていた時だった。朝、トイレで星野に言われた疑問をまんま流介にぶつけてみた。星野はムカつくが、奴の疑問は確かに当然のものだった。ちなみに今日のメニューは俺ら特製『カレーチャーハン』。俺がカレーライスを頼み、流介がチャーハンを頼んで、二人の頼んだものを一旦一つの皿に入れてグチャグチャにし、改めてお互いの皿に分けるというものだ。これがまたうまい。

「うん。アニメ作っていいよ」

「またそれかよ! 作んねーって言っただろ。作れるはずもない」

「そうかなー。下手ウマの魅力って知ってる?」

「だーかーらー!」

 俺が強烈に抗議しようとしたその時、校内放送が流れた。それは流介に宛てた放送で、今すぐ校長室に来いという。こいつ、また何かやらかしたのか? それとも昨日の掃除で粗相でもしたのだろうか……。思い返してみたが、思い当たることはない。

「あ、なんか呼ばれちゃったよ。これ飲んだら行こうぜ」

「行こうぜって……、俺も行くの? 呼ばれたのはお前だけだろ?」

「多分声優部関連のことだよ。そしたら太一も来る義務がある」

「いや、俺関係ねーし」

 しかし流介は聞く耳を持たず、悠然と茶をすすっている。

「急がなくていいのかよ」

 逆に俺が焦ってしまう。

「だって昼休みは俺たちの時間だよ。それを一時潰して時間作ってやるんだから、ちょっとくらい遅れてもオッケイだよ」

 何でこんなにこいつは肝が据わってるんだろう? 俺は気もそぞろにお茶を一気に飲み干した。
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