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まぁまぁ、先生
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「遅い!」
校長室に出向くと、早速校長が怒鳴ってきた。この人の場合、怒鳴るのが普通の人の「どうも」くらいの感じなのだと解釈することにした。そう思わないと精神が持たん。
「まぁまぁ、先生」
そう言って校長をたしなめたのは警察官だった。さすがに校長も一旦黙った。猛獣使いのようだ。
校長の横には警察官が一人いたのだが、この人がまた結構ゴツい。戦隊モノなどに出てくる警察官は完全にザコキャラで、怪人にケリの一発でやられるのがデフォなのだが、本物の警察官はデカい上に威圧感がある。校長と並んでも負けていない。
「君たちが、校長室の清掃を担当していた生徒さんたち?」
「はい」
流介が答えた。清掃を担当、というより百日間連続での掃除という、ほとんど罰ゲームだったのだが(自分で言い出したことだが)、おそらく校長は警察官にはその真相は話していないだろう。あくまで「校長室の清掃担当生徒」ということにしたのだろう。細かいことを言う必要もないというのもあるが、やっぱりちょっと、大の大人相手にそんなことを言うのは恥ずかしかったのではないだろうか。時代錯誤偏屈痴れ者校長にも最低限度の時代感覚はあったようだ。
「その時に、何か変わったことはなかった?」
「いえ、特には……」
「貴様らぁ! 隠していることがあったら早めに白状しろ。さもないと、後で後悔することになるぞ」
後と後悔で「後」の字が被っている。そういうインテリジェンスもないのだろうか? この人が校長であることを横にいる警察官に知られて非常に恥ずかしい。そして、そんな高校に通っている俺まで恥ずかしくなってきた。
「まぁまぁ、先生」
再び、警察官が校長をたしなめた。さすが猛獣使い。一度ならず二度までも猛熊を黙らせた。
そんな感じで、その後しばらく校長と警察官の質問(尋問)が続いたが、知らないものは知らない。
と言いつつ、実は思い当たるものがある。もちろん、流介が俺に見せたあの小説ノートだ。
夏休みのある日に突然、あいつは俺にあのノートを見せた。タイミング的にも怪しすぎる。それに流介は校長室には毎日足を運んでいた。何がどこにあるかは完璧に把握しているはずだ。
とはいえ、あの古びたノートがそんなに価値のあるものとも思えないし、中に書かれていた字は完全に女の字だった。校長のものであるはずがない。何より金庫には鍵がかけられている。それを開けることは不可能であろう。
校長はいつもの、腹を減らした熊のような目で俺たちを睨みつけて尋問を繰り返したが、俺はホントに知らないし、流介も俺と同じように「知らない」の一点張りなので、いい加減ラチがあかないと判断したのだろう。十五分ほどで俺たちは解放された。
それにしても何が盗まれたのだろうか。やはり金目のものなのだろうか。そして誰が盗んだのだろうか。
◇ ◇ ◇
教室に戻ると既に授業は始まっていたが、早速クラスの連中は元より、教師にまで物珍しい目で見られた。
授業が終わり、休み時間になると、待ってましたとばかりに俺らの周りに人が集まった。お前らが盗んだのか、そんなわけねぇだろ、どうやって金庫を開けたのか、その前にやってねぇっつったろ、というような問答を続けた結果、どうもこいつらは関係ないという判断が下され、すぐに飽きられ、束の間の有名人気分は約五分で終了した。
すると、その後に本物の有名人がやってきた。氷堂である。
俺と流介を呼び出し、話したいことがあるから、今日一緒にランチでもどうかな、ということだ。氷堂の方から誘ってくるとは珍しい。これは余程のことに違いない。ひょっとしたら校長室盗難事件に関する事かもしれない。
俺は氷堂が何を話すのか気になって仕方なく、その後の授業はまるで上の空となり、昼休みまでの長い暇つぶしタイムでしかなくなった。
◇ ◇ ◇
ようやく昼のチャイムが鳴り、氷堂と待ち合わせ、いつものように学食に行った。
俺と流介は、俺がラーメン、流介はカレーライスを頼み、一旦カレーのルーだけラーメンに乗せ、それを二等分し、更にライスも二等分して、俺ら特製カレーラーメンライスにした。これがまた美味いのだ。
氷堂はもちろんカロリーや栄養のバランスを計算した、持参のお弁当である。スポーツ選手は食事から気を配らなくてはいけないので大変だ。それに比べて俺ら一般人は気楽なものである。
さて、食事を進めながら最初に切り出したのは、話があるはずの氷堂ではなく流介であった。いやお前黙ってろよ、俺が聞きたいのは氷堂の話なんだよ。とはいえ流介の話も大事だったので仕方がない。一人芝居用の脚本が昨日完成したそうである。
原作があるとはいえ、脚本を一本書き上げるのは大変だ。曲がりなりにも、俺もこの夏、脚本を書いたことがあるからそこはわかる(本当に酷いもの作っちゃったけど)。それを思うと、流介の声優にかける意気込みはやはり並々ならぬものがある、と素直に思う。
そして、流介の話を受けて氷堂が話し始めた。いよいよである。
校長室に出向くと、早速校長が怒鳴ってきた。この人の場合、怒鳴るのが普通の人の「どうも」くらいの感じなのだと解釈することにした。そう思わないと精神が持たん。
「まぁまぁ、先生」
そう言って校長をたしなめたのは警察官だった。さすがに校長も一旦黙った。猛獣使いのようだ。
校長の横には警察官が一人いたのだが、この人がまた結構ゴツい。戦隊モノなどに出てくる警察官は完全にザコキャラで、怪人にケリの一発でやられるのがデフォなのだが、本物の警察官はデカい上に威圧感がある。校長と並んでも負けていない。
「君たちが、校長室の清掃を担当していた生徒さんたち?」
「はい」
流介が答えた。清掃を担当、というより百日間連続での掃除という、ほとんど罰ゲームだったのだが(自分で言い出したことだが)、おそらく校長は警察官にはその真相は話していないだろう。あくまで「校長室の清掃担当生徒」ということにしたのだろう。細かいことを言う必要もないというのもあるが、やっぱりちょっと、大の大人相手にそんなことを言うのは恥ずかしかったのではないだろうか。時代錯誤偏屈痴れ者校長にも最低限度の時代感覚はあったようだ。
「その時に、何か変わったことはなかった?」
「いえ、特には……」
「貴様らぁ! 隠していることがあったら早めに白状しろ。さもないと、後で後悔することになるぞ」
後と後悔で「後」の字が被っている。そういうインテリジェンスもないのだろうか? この人が校長であることを横にいる警察官に知られて非常に恥ずかしい。そして、そんな高校に通っている俺まで恥ずかしくなってきた。
「まぁまぁ、先生」
再び、警察官が校長をたしなめた。さすが猛獣使い。一度ならず二度までも猛熊を黙らせた。
そんな感じで、その後しばらく校長と警察官の質問(尋問)が続いたが、知らないものは知らない。
と言いつつ、実は思い当たるものがある。もちろん、流介が俺に見せたあの小説ノートだ。
夏休みのある日に突然、あいつは俺にあのノートを見せた。タイミング的にも怪しすぎる。それに流介は校長室には毎日足を運んでいた。何がどこにあるかは完璧に把握しているはずだ。
とはいえ、あの古びたノートがそんなに価値のあるものとも思えないし、中に書かれていた字は完全に女の字だった。校長のものであるはずがない。何より金庫には鍵がかけられている。それを開けることは不可能であろう。
校長はいつもの、腹を減らした熊のような目で俺たちを睨みつけて尋問を繰り返したが、俺はホントに知らないし、流介も俺と同じように「知らない」の一点張りなので、いい加減ラチがあかないと判断したのだろう。十五分ほどで俺たちは解放された。
それにしても何が盗まれたのだろうか。やはり金目のものなのだろうか。そして誰が盗んだのだろうか。
◇ ◇ ◇
教室に戻ると既に授業は始まっていたが、早速クラスの連中は元より、教師にまで物珍しい目で見られた。
授業が終わり、休み時間になると、待ってましたとばかりに俺らの周りに人が集まった。お前らが盗んだのか、そんなわけねぇだろ、どうやって金庫を開けたのか、その前にやってねぇっつったろ、というような問答を続けた結果、どうもこいつらは関係ないという判断が下され、すぐに飽きられ、束の間の有名人気分は約五分で終了した。
すると、その後に本物の有名人がやってきた。氷堂である。
俺と流介を呼び出し、話したいことがあるから、今日一緒にランチでもどうかな、ということだ。氷堂の方から誘ってくるとは珍しい。これは余程のことに違いない。ひょっとしたら校長室盗難事件に関する事かもしれない。
俺は氷堂が何を話すのか気になって仕方なく、その後の授業はまるで上の空となり、昼休みまでの長い暇つぶしタイムでしかなくなった。
◇ ◇ ◇
ようやく昼のチャイムが鳴り、氷堂と待ち合わせ、いつものように学食に行った。
俺と流介は、俺がラーメン、流介はカレーライスを頼み、一旦カレーのルーだけラーメンに乗せ、それを二等分し、更にライスも二等分して、俺ら特製カレーラーメンライスにした。これがまた美味いのだ。
氷堂はもちろんカロリーや栄養のバランスを計算した、持参のお弁当である。スポーツ選手は食事から気を配らなくてはいけないので大変だ。それに比べて俺ら一般人は気楽なものである。
さて、食事を進めながら最初に切り出したのは、話があるはずの氷堂ではなく流介であった。いやお前黙ってろよ、俺が聞きたいのは氷堂の話なんだよ。とはいえ流介の話も大事だったので仕方がない。一人芝居用の脚本が昨日完成したそうである。
原作があるとはいえ、脚本を一本書き上げるのは大変だ。曲がりなりにも、俺もこの夏、脚本を書いたことがあるからそこはわかる(本当に酷いもの作っちゃったけど)。それを思うと、流介の声優にかける意気込みはやはり並々ならぬものがある、と素直に思う。
そして、流介の話を受けて氷堂が話し始めた。いよいよである。
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