盾を持ち死にゆく者~パーティ面接に全滅した俺はソロでダンジョンに挑む〜

山羊ノ足

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変化の兆候-1

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 最初に感じたのは匂いだった。嗅ぎ覚えのあるそれを懐かしいと感じる。
   頭を悩ませ、俺は自分が病室にいるのだと遅れながらに理解し目を開く。

「起きたか」

 重い瞼を開くと同様に飛び込んできたその声の主が誰なのかは、視線を向けるまでもなく分かった。首を傾け彼女を見る。赤い髪の間から覗く濁ったその目が、ベッドに横たわる俺を写していた。

「……どうも」

「随分遅い起床だな。良い夢でもみてたのか」

「……まあ、良い夢、だったかもしれません」

 彼女とこうして言葉を交わすことが久しぶりに感じてしまうのは何故なのだろう。随分と、長くあの場所にいた様に感じる。自分がしたことが夢ではないことは、体に残る鈍い痛みが教えてくれた。

 俺は生きている。死んだと思ったあの瞬間、誰かに助けられたのだ。記憶を思い返し、自分の中に残っている最後の記憶は、あの怪物と目があったところまでだった。そこから先は思い出せない。

「どれぐらい、寝てました?」

 ベッドの横にある椅子に座るイルマさんに問いかけた。室内には時計もなく今が何時なのかも把握することができない。俺の目の前で大した栄養もなさそうな保存食のスティックを頬張る彼女の姿は昼時によく見かける彼女の姿であり、今は大体昼頃だろうと予想する。

「三日だな。そろそろ起きるって先生が言うもんだから様子を見に来てやったんだ。感謝しろよ」

「それは、どうも」

「見舞いに来ている奴、私以外にいなかったぞ。お前、もうちょっと交友を広げた方がいいんじゃないか」

「余計なお世話です。それを言うならイルマさんだって友達いないでしょ」

「私は仕事で忙しいからな」

「それは俺も同じです」

 軽い、いつものやり取り。お互いの表情に軽い笑みが浮かび、空気が弛緩する。俺とイルマさんの会話はこうしたやり取りから始まる事が多い。お互いの壁を一旦取り払って言いたい事を言う為の準備運動を行ってから、遠慮さというものを切り捨ているのだ。だからこれの後に、彼女はいつも踏み込んだ話題を躊躇いなく入れてくる。

「今回で分かっただろ。お前に冒険者は無理だ」

「……」

「今まで色々な冒険者を担当したが、ここまで頭の螺子が飛んだことをしたのはお前が初めてだ。で、そんな前代未聞なことを行っても、お前は結局死にかけてここに運ばれた。パーティに入れないなら一人でも、なんてことを考えたのかもしれないが、無謀が過ぎたな」

 イルマさんの言葉を聞きながら俺はダンジョンでの出来事を思い出していた。

「せっかく拾った運のある命だ。餌になる為に使うんじゃなくて、自分の為に使えよ」

 スティックを全て平らげ、彼女は俺の返事を聞くまでもなく椅子から立ち上がり部屋を出ていく。その後ろ姿を眺めながら、俺は天井を見上げた。

「……それだけじゃ、ないんだけどな」

 一人になった病室で、俺は彼女言葉を否定する。彼女は知らない。俺の戦いを。俺の勝利を。俺が知らなかった、俺の可能性を。それを俺は知ることができた。だから、簡単に自分の事を諦めるなんてできやしない。

 一人でダンジョンに行くという無茶を犯した成果は、確かにあったのだ。

「まだ、諦める時じゃない」

 誰にも知られていない、俺の醜態までの過程。結果だけを見れば確かに無様だが、その間で拾った物の価値は、誰よりも理解していた。三年あって、ようやくだ。ここで降りる気はさらさらない。ようやく掴んだこの手応えを忘れないように、俺は拳を強く握る。

 自分の事は、自分しか完全に理解することはできない。

 ベッドの上で寝ころぶ俺は、これからどうするかを考える為に、目を閉じた。



 先生によれば運ばれた時の俺の状態はかなり酷かったらしい。ギリギリ命が繋がっている様な状態で、生きるか死ぬかは分からなかったと言われた。命が繋がったのは本当に運が良かったのだろう。

 ボロボロになった体は名医である先生の手によって治療され、以前までの不可よりも耐えられる体へと変わる。冒険者が強くなる為の一番の近道は、死地を経験することだ。そうする事で心も体にも経験が貯まる。その繰り返しで冒険者は強くなるのだ。

 俺を助けてくれた人は誰かという質問には、先生は答えてくれなかった。どうやら本人の希望だそうだ。俺としては礼をしたいのだが、人にはそれぞれ事情があり仕方がない事もあるだろうし、その事について深く先生から聞きだすのは諦めた。機会があれば礼を言える時も来るだろう。

 病室を出て、下へ降りる。黒塔にある冒険者専用の病室を堪能した俺は、固まった体をほぐしながら階段を降りていく。意識を取り戻してから一週間程が経ち、体はほぼ治ったと言っていい程に回復した。体の節々にある違和感を楽しむのだが、時間が経過するごとにそれはなくなっていくようで、慣れさせるためにも軽い運動ぐらいはした方がいいだろうか、なんてことも同時に考える。

 階段を降り、一回のギルドホールの扉を開く。今日も、冒険者達の声が響いている。文句を言う者、笑い合う者、口説いている人に、言い争っている人達。ここには冒険者の空気が広がっていた。俺はその空気の中に踏み込んでいく。

 いつも、この空気に自分が入れていないと感じていた。実力がないから、入ってはいけないと。実力社会のこの仕事は、力が無ければ認められない。何もできない者は、認識すらされずに死んでいく。俺はここに来るたびに、誰にも認識されていないと感じる事が辛かった。

 だが、今日は何故か、視線を感じる。決して多くはない。気のせいかとも思ったが、いつもより気配に体が敏感になっているのか、間違いなく視線を向けられていると確信できた。これも、ソロだったからこそダンジョンで強化されたと考えたらいいのだろうか。

 ここで俺が視線を感じる事は殆どない。それが嘲笑であろうと、侮蔑であろうと。そう言った類の視線すら、ここ三ヵ月は感じてこなかった。俺がパーティを首にされた時はまだ何かしらあったのだが、それも一月も経たないうちに消え失せた。だからこういった感覚は、随分と久しぶりだ。

 一人ではなく、複数。まったく違う方向から毛色の違う種類の視線。どこの誰が、どういうつもりで俺を見ているのかは分からないが、それでも認識されている今の状況は以前よりかマシだと言えるのかもしれない。

 誰が俺を見ているのか。探ろうと思えばできるだろうが、したところで意味がないなと思い直す。相手を見つけてどういうつもりで俺を見ていたんだ、何て聞けるわけもない。

 ギルドにある装備置き場。俺が使っていた物はそこに置かれているらしい。それを回収して今日のところは家に帰る、筈だった。

「まじ、か」

 預かった鍵を使ってロッカーを開けると、そこにあったのは装備、の残骸。破損しきったもう使用はできない状態となったそれが、そこには置かれていた。

「……先に言ってくれよ」

 盾も、斧も、防具も。無事な物は何一つとしてない。冒険者の仕事道具である装備がこの様ではダンジョンに行く事などできはしない。

「装備、新しいの買うか」

 とは言ったものの、治療費で今回かなりの額を請求された。この三ヵ月は今まで溜めた貯金をやりくりしていたのだが、それも限界が来ている。今のままでは食事すらままならない。ロッカーの前で頭を悩ませ、どうするべきか選択肢を用意する。

 パーティも、装備も、金も、何もない。

 俺の冒険者としての新しいスタートは、多くを持ち合わせていない、そんな始まり方を迎えた。

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