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序章 これは愛ではない
初夜と言う名の儀式*
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少女は、机の上の古い名簿に、ふと視線を落とす。
そこに書かれた、一つの名前が、不意に目に飛び込んできた。
──シルヴィア・フォン・レーヴェンヌ
かつてシーランド王国の『炎派』の名家に生まれながら、今はヴァロニア王ギリアンの妃――『氷派』の王家に嫁いだ人物。
まるで、敵の中にほり込まれたようだ。
(……どうして、そんな選択をしたんだろう)
少女は想像してみる。
シルヴィア王妃が、玉座のある宮殿で、どんな表情をして生きているのかを。
好きな人だったのか、
それとも政略だったのか。
思想を捨てたのか、
それとも何かを守るためだったのか、
何かを変えようとしたのか。
(……幸せなのかな)
読書室に同行している女官に声をかけた。
「……ねえ。王妃って、幸せなのかな?」
女官は少しだけ驚いた顔をした。
「……王妃? なぜ、そう思われたのです?」
「これ、昔の貴族の名簿を見てるんだけど。ヴァロニア王妃のシルヴィア。この国の炎派のレーヴェンヌ家に生まれて、十八歳の時に氷派のヴァロニア王家に嫁いで……それで……
・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。..。:*・゜゜・*:.
それは、シルヴィアがヴァロニア王都に到着した夜のこと――
まだ妃として名を呼ばれることに慣れぬうちの、最初の儀式であった。
蝋燭の炎が五つ、静かに揺れていた。
壁の織物の影が長く伸び、天蓋付きの寝台の縁にかかる。
王太子が室内に入り、扉を閉める。
足音が近づき、寝台の脇で立ち止まった。
「……痛むようなら、言ってください」
短い言葉のあと、彼は花嫁の背へ手を伸ばし、留め金を一つずつ外していく。
脱ぎやすい仕立ての衣服が緩み、布地が肩から滑り落ちた。
指先が素肌に触れる。力も弱くも強くもなく、必要な動作としての接触だった。
衣服が床に落ち、薄い下着だけが残る。
胸元の布が払われ、腰をなぞる手が下着を下ろす。
足元まで布が落ち、花嫁はベッドへと導かれた。
覆いかぶさる影が頬をかすめる。
片膝が持ち上げられ、体温が触れ合う。
静かな間のあと、体が押し入っていく。
短い停止、そして一定の動きが始まった。
規則的な呼吸と動作が続く。
蝋燭の炎が揺れ、影が壁を移ろう。
数度深く踏み込まれたのち、小さな声が洩れる。
「……大丈夫です」
応答はなく、動きはやがて緩やかになり、最後の一突きで止まる。
短い息を吐き、王太子は体を離した。
毛布が掛け直される。
「休んでください」
そのまま部屋を出ていく。
残されたのは蝋燭の炎と、夜の静けさだけだった。
・゜゜・*:.。. .。.:*・゜゜・*:.。..。:*・゜゜・*:.
そこに書かれた、一つの名前が、不意に目に飛び込んできた。
──シルヴィア・フォン・レーヴェンヌ
かつてシーランド王国の『炎派』の名家に生まれながら、今はヴァロニア王ギリアンの妃――『氷派』の王家に嫁いだ人物。
まるで、敵の中にほり込まれたようだ。
(……どうして、そんな選択をしたんだろう)
少女は想像してみる。
シルヴィア王妃が、玉座のある宮殿で、どんな表情をして生きているのかを。
好きな人だったのか、
それとも政略だったのか。
思想を捨てたのか、
それとも何かを守るためだったのか、
何かを変えようとしたのか。
(……幸せなのかな)
読書室に同行している女官に声をかけた。
「……ねえ。王妃って、幸せなのかな?」
女官は少しだけ驚いた顔をした。
「……王妃? なぜ、そう思われたのです?」
「これ、昔の貴族の名簿を見てるんだけど。ヴァロニア王妃のシルヴィア。この国の炎派のレーヴェンヌ家に生まれて、十八歳の時に氷派のヴァロニア王家に嫁いで……それで……
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それは、シルヴィアがヴァロニア王都に到着した夜のこと――
まだ妃として名を呼ばれることに慣れぬうちの、最初の儀式であった。
蝋燭の炎が五つ、静かに揺れていた。
壁の織物の影が長く伸び、天蓋付きの寝台の縁にかかる。
王太子が室内に入り、扉を閉める。
足音が近づき、寝台の脇で立ち止まった。
「……痛むようなら、言ってください」
短い言葉のあと、彼は花嫁の背へ手を伸ばし、留め金を一つずつ外していく。
脱ぎやすい仕立ての衣服が緩み、布地が肩から滑り落ちた。
指先が素肌に触れる。力も弱くも強くもなく、必要な動作としての接触だった。
衣服が床に落ち、薄い下着だけが残る。
胸元の布が払われ、腰をなぞる手が下着を下ろす。
足元まで布が落ち、花嫁はベッドへと導かれた。
覆いかぶさる影が頬をかすめる。
片膝が持ち上げられ、体温が触れ合う。
静かな間のあと、体が押し入っていく。
短い停止、そして一定の動きが始まった。
規則的な呼吸と動作が続く。
蝋燭の炎が揺れ、影が壁を移ろう。
数度深く踏み込まれたのち、小さな声が洩れる。
「……大丈夫です」
応答はなく、動きはやがて緩やかになり、最後の一突きで止まる。
短い息を吐き、王太子は体を離した。
毛布が掛け直される。
「休んでください」
そのまま部屋を出ていく。
残されたのは蝋燭の炎と、夜の静けさだけだった。
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