【完結】氷の王と炎の王妃

藤井 紫

文字の大きさ
40 / 182
第三章 わたしの身体で証明してみせます

利用価値

しおりを挟む
 午後、王妃の私室に控えていたシルヴィアのもとへ、王の側近が声をかけた。

「陛下が、少しお時間をいただきたいとの事です」

 ほどなくしてギリアンが姿を現し、侍女たちが下がると、扉が閉じられる。
 その仕草には、普段よりやや公的な空気が漂っていた。

「シルヴィア。昨日は宴の主催、感謝しています」

 シルヴィアは立ち上がり、控えめに頷く。
「初めてでしたので、あれで良かったのかどうか自信がなかったのですが」

「別件で、少しだけ、共有しておきたいことがあるのですが」
「……何でしょうか?」

「今朝未明、ホープは出立した。任務は機密扱いだが、王妃であるあなたには伝えておきます」
 ギリアンはシルヴィアの向かいの椅子に腰を下ろし、手元の巻紙を開いた。

「あなたは、西大陸のファールーク皇国についてはご存知ですか?」
「いえ……ごめんなさい」

 シルヴィアは政治について不勉強だったが、それ以上に、西大陸についてはほとんど習ったことがない。

「中央の聖地以西、ファールーク皇国は、長年、鎖国政策をとっていた国です。あなたが知らなくても当然です」

「実は、そのファールーク皇国で、少し前に革命が起こりました。その時の生き残りの第二皇子が、ヴァロニアへ護送されてくるのです。名は、ハリーファ・アル・ファールーク。ホープには、彼を迎えに行かせました」
「その方は……どのような意図で、こちらへ?」
「表向きは保護だが、実質的には捕虜として扱います」

 シルヴィアがわずかに表情を動かす。
「捕虜……それは、戦争の?」

「いずれ起こり得るかもしれない……。今までファールーク皇国は鎖国状態だったが、台頭した新興国ラシーディアがどういう動きをするかまだ不明です。だからこそ、亡国の皇子は各国にとって利用価値の高い存在だ。我々ヴァロニアはそれを考慮し、彼を確保することにしました」

「そうなのですね……」
 ふと、祖国シーランドも同じように考えるのだろうかと思ったが、シルヴィアはそのことは口にしなかった。自分はもうヴァロニアの王妃なのだから。

 だが、別の不安もあった。
 ……利用価値。
 その言葉が、どこか胸に引っかかった。
(わたしも、表向きは王妃でも……シーランドの駒なのかもしれない)
 そんな考えが、一瞬、頭をよぎった。

「今後、この件が外交問題に発展する可能性もある。だが、ヴァロニアの立場を守るためには妥当な措置だ」

 ギリアンは、もう一度巻紙を折り畳むと立ち上がる。

「あなたは気に病まなくていい。政治的な判断は僕とヴィンセントが進める。あなたの立場で、詮索されても何も答えなくて構わない」

「……わかりました。ですが、陛下、この話はわたしが聞いても良かったのでしょうか……」
「……状況によっては、彼もここに居住することになるかもしれないので」

「その皇子はおいくつなんですか?」
「……それが、第二皇子についての情報は全くありません。だけど、僕は第一皇子と密会をしたことがある。もし、彼が生きていれば今年十七歳だ。それよりは若いという事だろう」

 それだけを伝えると、ギリアンは礼も簡略に、静かに退室していった。
 重い扉の閉まる音が、少しだけ長く響いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)

スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」 唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。 四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。 絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。 「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」 明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは? 虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!

【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~

世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。 ──え……この方、誰? 相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。 けれど私は、自分の名前すら思い出せない。 訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。 「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」 ……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!? しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。 もしかして、そのせいで私は命を狙われている? 公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。 全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね! ※本作品はR18表現があります、ご注意ください。

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

処理中です...