氷の王と炎の王妃

藤井 紫

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第三章 わたしの身体で証明してみせます

わたしは、あなたを、見ています*

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 その夜、シルヴィアは初めて、自ら王の寝室へと足を運んだ。
 歩を進めるたび、薄絹の上衣が静かに揺れ、胸の奥で何かが脈打つようだった。

 迷いはなかった。ただ、足元の冷たさが、ほんの少しだけ身にしみた。
 扉の前に立ち、そっと手を添えて叩く。だが、中から返事はない。

 それでもシルヴィアは、静かに扉を押し開けた。

 窓辺には、背を向けたまま立つギリアンの影。
 ゆっくりと、彼がこちらを振り返る。

「……シルヴィア?」

 その声に、シルヴィアは静かに頷いた。
 光の届かない瞳の奥に、わずかな疲れの色がにじんでいた。



*   *   *   *   *



 ギリアンの指が、寝台の中でゆっくりとシルヴィアの腿をなぞった。
 熱が、柔らかなところを伝い、やがて奥へと触れてくる。
 指が触れた瞬間、反射的に脚が揺れ、
「……あっ……」
 小さな息が、喉から漏れた。

 ギリアンは何も言わず、その反応を丁寧に拾っていく。
 手のひらで腰を抱き寄せ、口づけで胸元を開かせる。

(……この人は、愛や寂しさの言葉を知らないんだわ……)

 胸の尖りに舌先が触れた瞬間、震えるほどの快感が一閃して、シルヴィアの背がぴくりと跳ねた。
「……んっ……く……」

 ギリアンの手が肩を抑え、シルヴィアを静かに寝具に沈める。
 身体が、ゆっくりと重なってくる。
 脚が自然に開かされ、温かな圧が下腹にかかると、自然と呼吸が荒くなった。

 入ってくる。そのわずかな予兆だけで、喉の奥が震えた。

「……シルヴィア……」

 切なげな低い声が、耳元にそっと落ちる。
 そのまま、腰がゆるやかに沈み込んだ。

「……っ……ん……っ……!」
 入口を押し開かれる感覚に、シルヴィアはぎゅっとシーツを握った。

 痛みと快感が、ゆっくりと交互に押し寄せる。
 ギリアンの額が彼女の肩に触れ、荒くなった呼吸が肌を打つ。
 濡れた熱が深く絡み合い、結ばれるたびに、ギリアンの息が荒くなった。

「……誰も、僕を、見ない……」

 低く沈んだ声が、動きの合間に紛れて落ちる。

「……声を枯らしても……振り返らない。……光しか、見ようとしない」

 一瞬だけ、ギリアンの動きが止まった。

(……お願い。そんなふうに、自分を突き放さないで……)

 それでもシルヴィアは、何も言わなかった。
 ただ、そっと腰を浮かせ、彼を奥へと迎え入れ直す。
 ギリアンの背に腕を回し、微笑みながら、いつものように寄り添った。

『……わたしは、あなたを、見ています』

 そう声に出したかった。けれど、出せなかった。

 代わりに、ギリアンの黒髪を両手で包むように撫で、優しく口づけを返す。

 ギリアンは、それ以上何も言わず、ふたたび静かに動き始めた。
 深く、深く、何かを埋めるように。

 ふたりの熱が絡まり、甘く、重い音が寝台に混じる。

 快感に揺られながら、シルヴィアはひとつだけ、確かに感じていた。

(この人は、声にしないだけ……きっと、ずっと、一人で痛みを抱えていたんだわ)

 そして、だからこそ。
 抱かれるこの痛みも、熱も、すべてが、シルヴィアにとっては愛おしかった。
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