【完結】氷の王と炎の王妃

藤井 紫

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第四章 わたし、子を、授かりました

相談 ②ホープ

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 まだホープが療養室にいると聞き、シルヴィアはホープのもとを訪れた。
 王の側近を、王妃が個人的に呼び出すことができないので、療養室に居てくれたことがありがたかった。

「……お加減は、もうよろしいのですか?」
 シルヴィアが尋ねると、ホープは礼儀正しく頷いた。

「はい。双子の姉が戻ってくるまでは、ここに居候していようかと思っていまして」

 シルヴィアは、ふうっと息を吐いて、ホープを見つめた。

「……ホープ卿。あなたは、陛下と長く親しくしておられますよね」
「長く……と言っても、ここ三年程です。ぼくは平民なので、陛下には……分不相応なほどに良くしてもらっています」

「それはあなたも黒髪だから……よね?」
「はい、おそらく……」

 シルヴィアは少し何か考えてから、目を伏せ、言葉を続けた。

「実は……わたし、妊娠したの」
「……えっ!」

 ホープは思わずシルヴィアを見つめた。驚きと、喜びと、すこしの戸惑いが混じった顔だった。

「それは! おめでとうございます!」

 ホープの顔から戸惑いは消え、驚きと喜びで声が明るくなった。
 しかし、シルヴィアの瞳が、少しだけ揺れていた。

「……陛下も、喜んではくれました。でも……目をそらされたの」
 言葉に詰まりそうになって、シルヴィアは唇を噛んだ。

「陛下が……?」
「ホープ卿……あなたは、陛下の黒髪について、どう思っているの?」

 シルヴィアに問われ、ホープは眉を寄せ、しばらく考え込むようにしていたが、やがて、ぽつりと語った。

「……陛下は昔、自分で言っていました。『僕の中にも、【黒】を蔑む心がある』と」
「……黒を蔑む……?」
「黒髪を蔑むという事は、陛下は、自分で自分をずっと否定して生きてきたんです……。この話はヴィンセントも知りません。ぼくが同じ黒髪だったから、陛下の口から直接聞きました」
「……」

「陛下は、幼い頃からずっと、父王に疎まれ、母后には黒髪のせいで王位から遠ざけられたと聞きました……。それでも、王太子の正当性を支持する貴族の為に、自分の黒髪を隠して生きてきた。けれど、どこかでずっと……怖かったんだと思います。ヴァロニアの民が蔑む黒髪の自分が、王としての価値があるのかどうか」

 その言葉に、シルヴィアの胸が締めつけられる。
 ホープは、王妃に視線を戻す。

「だからきっと、黒髪の子が生まれるという現実は……黒髪が自分の呪いだと言われ続けた、自分の記憶そのものと向き合うような苦しさだったんじゃないかと、思うんです」

「……あなたも、黒髪だけど、そう思った?」

「……ぼくは黒髪しか居ない村で育ちました。ぼくの故郷、ヘーンブルグ領には黒髪しかいません。なので、十四歳の時に村を出るまで、金色の髪を見たこともなかったんです。ヘーンブルグ領の民にとっては、黒髪は呪いでも罪でもありません。ただ、生まれ持ったものです」

 シルヴィアはホープの話を真摯に受け止め、聞いていた。
 その様子に、ホープは柔らかく微笑んだ。

「だから……、陛下がまだ、黒髪の子を愛する準備が出来ていなくても……、将来、陛下が、やっぱり黒髪の子を愛することが出来なかったとしても、赦してください。そして、王妃様が、愛してあげてください。陛下の代わりに。最初はそれで、いいと思います」

 シルヴィアの目に、僅かに光がにじんだ。

「もし、陛下が、どうしても心を痛められるようなら、その時は、ぼくが父親の役目をします! ぼくはずっと陛下の隣に居てますから!」

「……ありがとう、ホープ卿。あなたって、本当に良い人なのね。陛下があなたをとても大切にされる理由も、ラシェルがあなたに恋する理由も、良く分かったわ」

 その言葉に、ホープの耳がほんのり赤く染まった。
 それを見たシルヴィアは、微笑みながらも、その照れの理由には気づかないふりをした。
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