59 / 182
第四章 わたし、子を、授かりました
誰かを守るために
しおりを挟む
この話は、本編のサイドストーリー的なものとなります。ルースとヴィンセントの前提の情報提示不足で申し訳ありません。読み飛ばしても問題ありません。m(_ _"m)
次回 ※センシティブ です。ご注意ください。
* * * * *
王への報告を終えたホープは、王宮の静まり返った回廊を歩いていた。
灯りの漏れる療養室の扉の前に立つと、ホープは軽くノックをした。
「……ジェード、起きてる?」
「うん。……入って」
ホープが入ると、ジェードは椅子の上で膝を抱え、薄い毛布にくるまっていた。
ホープは扉を静かに閉め、ジェードの向かいに腰を下ろす。しばらく言葉が見つからず、ホープは指先を絡めたまま目を伏せた。
「今日の……庭での話。……ルー姉さん、……妊娠してたの?」
ジェードの肩が小さく揺れた。
二人には七歳年上のルースと言う姉がいた。
しばらく沈黙のあと、ジェードは、ほんの少しだけ頷いた。
「……うん。わたしたちが九歳の時。女中の仕事を辞めて、アレー村に帰ってきたでしょ」
「……九歳……」
忘れもしない。ルースが魔女として火刑された年だ。
「……ルー姉さん、一人で産んで育てるって言ってた」
ジェードの声は淡々としていたが、その奥には今も色濃く残る痛みがあった。
「……なんで、黙ってたの?」
「ルー姉さんが、誰にも言っちゃだめだって。パパとママにも言っちゃだめって言われたの。約束したから……」
その言葉に、ホープの胸が静かに締めつけられた。
「父親が誰かも聞いてないの。でも、ルー姉さん、言ってた。『生まれてきた赤ちゃんの髪が金色でも驚かないで』って」
ホープは、すぐに察した。
上の姉の恋人だった相手。……ヘーンブルグの領主。
ヴィンセント。
「……そんな……ヴィンセントは、知ってるのかな……」
「ホー……ルー姉さんは、何かを守るために黙っていたのよ。だから、わたしたちも」
そう言いながら、ゆっくりと頭を横に振った。
ホープはゆっくりと立ち上がると、何も言わず、ジェードの隣に腰を下ろした。
「……ジェード」
「……何?」
「ずっと、一人で抱えてたんだね……。九歳の時から……。気づかなかったよ……」
言い終えると、ホープはジェードをきつく抱きしめた。
ジェードも、自然に抱きしめ返す。
弟としてでも、仲間としてでもなく――双子の、たったひとりの対の存在として。
「ぼくも言わない。誰にも。……でも、これだけは言わせて。……よく、頑張ったね」
ジェードの目が、じわりと滲む。
声は出なかった。ただ、ホープの胸に顔を伏せて、静かな腕の中で、ジェードはほんの少しだけ震えた。
それは、少女のころから守り続けてきた秘密が、ようやく分かち合えた瞬間だった。
「わたし、領主様に、伝えようとしたの。でも、言えなかった」
「……多分、言ったとしても、ヴィンセントは揺るがない。どうしてルー姉さんがヴィンセントに伝えなかったのか、きっと簡単にその意図を汲んでしまうと思う。ヴィンセントは、そういう人なんだ」
「……領主様と話してて、ルー姉さんは、領主様を愛していたんだって気付いたわ」
「ほんと? ぼく、ヴィンセントの片思いじゃないかって思ったんだけど、……違ったか」
ホープが少し軽い口調になったので、ジェードは抱きついたまま顔だけ上げて弟を見上げる。
「……それに、領主様も、ルー姉さんを愛してた。ううん、多分、今もそう……。一緒にヘーンブルグに戻った時に、わかったの」
「……それは知ってる。ヴィンセントって、こっちが恥ずかしくなるくらい気障な事とか、平気で言うんだよ……」
ジェードは、ホープに抱きついたままくすくすと笑った。
「よし、じゃあさ。賭け、しよっか? ルー姉さんとヴィンセント、どちらから告白したか。ぼくはヴィンセントに賭ける」
「じゃ、わたしは、ルー姉さんにするわ」
二人は離れていた時間をうめるように、明け方まで話し続けた。
* * * * *
賭けの結果は、本編『天国の扉』断章にて書いてます。
A.→ https://www.alphapolis.co.jp/novel/431092500/907200603/episode/9671951
いつもお読みいただきありがとうございます。
今回の話は、本編でも入れなかったシーンです。シルヴィア自体が本編ではカットした人物でした。
次回 ※センシティブ です。ご注意ください。
* * * * *
王への報告を終えたホープは、王宮の静まり返った回廊を歩いていた。
灯りの漏れる療養室の扉の前に立つと、ホープは軽くノックをした。
「……ジェード、起きてる?」
「うん。……入って」
ホープが入ると、ジェードは椅子の上で膝を抱え、薄い毛布にくるまっていた。
ホープは扉を静かに閉め、ジェードの向かいに腰を下ろす。しばらく言葉が見つからず、ホープは指先を絡めたまま目を伏せた。
「今日の……庭での話。……ルー姉さん、……妊娠してたの?」
ジェードの肩が小さく揺れた。
二人には七歳年上のルースと言う姉がいた。
しばらく沈黙のあと、ジェードは、ほんの少しだけ頷いた。
「……うん。わたしたちが九歳の時。女中の仕事を辞めて、アレー村に帰ってきたでしょ」
「……九歳……」
忘れもしない。ルースが魔女として火刑された年だ。
「……ルー姉さん、一人で産んで育てるって言ってた」
ジェードの声は淡々としていたが、その奥には今も色濃く残る痛みがあった。
「……なんで、黙ってたの?」
「ルー姉さんが、誰にも言っちゃだめだって。パパとママにも言っちゃだめって言われたの。約束したから……」
その言葉に、ホープの胸が静かに締めつけられた。
「父親が誰かも聞いてないの。でも、ルー姉さん、言ってた。『生まれてきた赤ちゃんの髪が金色でも驚かないで』って」
ホープは、すぐに察した。
上の姉の恋人だった相手。……ヘーンブルグの領主。
ヴィンセント。
「……そんな……ヴィンセントは、知ってるのかな……」
「ホー……ルー姉さんは、何かを守るために黙っていたのよ。だから、わたしたちも」
そう言いながら、ゆっくりと頭を横に振った。
ホープはゆっくりと立ち上がると、何も言わず、ジェードの隣に腰を下ろした。
「……ジェード」
「……何?」
「ずっと、一人で抱えてたんだね……。九歳の時から……。気づかなかったよ……」
言い終えると、ホープはジェードをきつく抱きしめた。
ジェードも、自然に抱きしめ返す。
弟としてでも、仲間としてでもなく――双子の、たったひとりの対の存在として。
「ぼくも言わない。誰にも。……でも、これだけは言わせて。……よく、頑張ったね」
ジェードの目が、じわりと滲む。
声は出なかった。ただ、ホープの胸に顔を伏せて、静かな腕の中で、ジェードはほんの少しだけ震えた。
それは、少女のころから守り続けてきた秘密が、ようやく分かち合えた瞬間だった。
「わたし、領主様に、伝えようとしたの。でも、言えなかった」
「……多分、言ったとしても、ヴィンセントは揺るがない。どうしてルー姉さんがヴィンセントに伝えなかったのか、きっと簡単にその意図を汲んでしまうと思う。ヴィンセントは、そういう人なんだ」
「……領主様と話してて、ルー姉さんは、領主様を愛していたんだって気付いたわ」
「ほんと? ぼく、ヴィンセントの片思いじゃないかって思ったんだけど、……違ったか」
ホープが少し軽い口調になったので、ジェードは抱きついたまま顔だけ上げて弟を見上げる。
「……それに、領主様も、ルー姉さんを愛してた。ううん、多分、今もそう……。一緒にヘーンブルグに戻った時に、わかったの」
「……それは知ってる。ヴィンセントって、こっちが恥ずかしくなるくらい気障な事とか、平気で言うんだよ……」
ジェードは、ホープに抱きついたままくすくすと笑った。
「よし、じゃあさ。賭け、しよっか? ルー姉さんとヴィンセント、どちらから告白したか。ぼくはヴィンセントに賭ける」
「じゃ、わたしは、ルー姉さんにするわ」
二人は離れていた時間をうめるように、明け方まで話し続けた。
* * * * *
賭けの結果は、本編『天国の扉』断章にて書いてます。
A.→ https://www.alphapolis.co.jp/novel/431092500/907200603/episode/9671951
いつもお読みいただきありがとうございます。
今回の話は、本編でも入れなかったシーンです。シルヴィア自体が本編ではカットした人物でした。
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)
スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」
唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。
四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。
絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。
「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」
明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは?
虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!
「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした
しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」
十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。
会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。
魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。
※小説家になろう様にも投稿しています※
【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~
世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。
──え……この方、誰?
相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。
けれど私は、自分の名前すら思い出せない。
訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。
「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」
……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!?
しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。
もしかして、そのせいで私は命を狙われている?
公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。
全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね!
※本作品はR18表現があります、ご注意ください。
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる