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第四章 わたし、子を、授かりました
託された思い
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あまり眠れないままに、代理戦争と火刑の朝を迎えた。
シルヴィアは机に広げた羊皮紙に、静かにペンを走らせていた。筆先に込められた思いが、震えとなって伝わる。
その横で、ラシェルが黙って見守っている。
「これを、ホープ様に届けて」
封をした書簡を差し出しながら、シルヴィアはまっすぐラシェルを見た。
「早朝に、異端審問所からの報告があったの。ジェード様は、今日、午後に処刑されます」
ラシェルの顔が蒼ざめる。
「そんな……」
「調べたら、処刑台は中央大教会の管轄で、わたしの名では止められない。でも、宰相府と宮廷聖徒の立場の、ホープ様なら……法の名で一時停止を命じることができそうなの」
「……命じることが?」
「……正式には照会という名目で、書面には『王妃の関心』として記したわ」
手元の封筒を握り締めながら、シルヴィアは目を伏せた。
「あなたに、危ないことはさせたくないんだけど。でも、ジェードを、見捨てたくないの」
ラシェルはしばし黙っていたが、唇を引き結んだ。
「……私、行きます」
「ラシェル……」
「私は、王妃様に仕える者です。たとえ、民の中に飛び込むことになっても」
そう言って受け取った封筒を、ラシェルはしっかりと握り締めた。
「ホープ様を見つけて、必ずお渡しします。そして、ジェード様を連れ戻します」
「お願い」
シルヴィアは、強く頷いた。
* * * * *
火刑台のある広場まで、あとわずかという通り。
ホープの行く手は、黒山の人だかりに阻まれていた。
衛兵たちの怒号、火刑台設営の金属音、ざわめきが渦巻いている。
(まだ間に合う……!)
左肩の包帯を押さえながら、ホープは歯を食いしばった。
その時。
「ホープ様!!」
人垣の向こうから、聞き慣れた声が響いた。
振り返ると、スカートの裾を乱しながら走る、ひときわ美しい少女が一人。
金の髪が日差しを弾き、真剣な蒼い瞳が、こちらを見つめている。
「ラシェル……!?」
ラシェルは、人の波を巧みにすり抜けながらホープに駆け寄り、胸元から封筒を取り出した。
「王妃様から……王妃様から、これを!」
息を切らしながら差し出されたその封筒は、王妃の紋章が封蝋されていた。
「異端審問所の裁定を照会するよう、宰相府に命じられています。王妃の関心として……!」
ホープは封筒を受け取り、わずかに驚いたような目をした。
「……シルヴィア様が……? じゃあ、これは、王妃の名の、正式な延期要求状だ……!」
「はい。ジェード様を見捨てないと……そうおっしゃって」
ラシェルの肩が震えていた。
ホープは一瞬、空を見上げた。
白い雲。高く、熱い空気。そして、まだ遠くない、松明の匂い。
「ありがとう……!」
ホープはラシェルの手を強く握り、しっかりと目を合わせた。
「ここから先は、危険だから。君は戻って――」
「一緒に行きます!」
その言葉に、ホープが一瞬驚く。
「だって私、王妃様に命じられました。あなたを信じて支えなさいって」
その瞳に、一分の迷いもなかった。
ホープは頷いた。そして、ラシェルの手をひいて、人波をかき分け、火刑台の方へ駆け出した。
シルヴィアは机に広げた羊皮紙に、静かにペンを走らせていた。筆先に込められた思いが、震えとなって伝わる。
その横で、ラシェルが黙って見守っている。
「これを、ホープ様に届けて」
封をした書簡を差し出しながら、シルヴィアはまっすぐラシェルを見た。
「早朝に、異端審問所からの報告があったの。ジェード様は、今日、午後に処刑されます」
ラシェルの顔が蒼ざめる。
「そんな……」
「調べたら、処刑台は中央大教会の管轄で、わたしの名では止められない。でも、宰相府と宮廷聖徒の立場の、ホープ様なら……法の名で一時停止を命じることができそうなの」
「……命じることが?」
「……正式には照会という名目で、書面には『王妃の関心』として記したわ」
手元の封筒を握り締めながら、シルヴィアは目を伏せた。
「あなたに、危ないことはさせたくないんだけど。でも、ジェードを、見捨てたくないの」
ラシェルはしばし黙っていたが、唇を引き結んだ。
「……私、行きます」
「ラシェル……」
「私は、王妃様に仕える者です。たとえ、民の中に飛び込むことになっても」
そう言って受け取った封筒を、ラシェルはしっかりと握り締めた。
「ホープ様を見つけて、必ずお渡しします。そして、ジェード様を連れ戻します」
「お願い」
シルヴィアは、強く頷いた。
* * * * *
火刑台のある広場まで、あとわずかという通り。
ホープの行く手は、黒山の人だかりに阻まれていた。
衛兵たちの怒号、火刑台設営の金属音、ざわめきが渦巻いている。
(まだ間に合う……!)
左肩の包帯を押さえながら、ホープは歯を食いしばった。
その時。
「ホープ様!!」
人垣の向こうから、聞き慣れた声が響いた。
振り返ると、スカートの裾を乱しながら走る、ひときわ美しい少女が一人。
金の髪が日差しを弾き、真剣な蒼い瞳が、こちらを見つめている。
「ラシェル……!?」
ラシェルは、人の波を巧みにすり抜けながらホープに駆け寄り、胸元から封筒を取り出した。
「王妃様から……王妃様から、これを!」
息を切らしながら差し出されたその封筒は、王妃の紋章が封蝋されていた。
「異端審問所の裁定を照会するよう、宰相府に命じられています。王妃の関心として……!」
ホープは封筒を受け取り、わずかに驚いたような目をした。
「……シルヴィア様が……? じゃあ、これは、王妃の名の、正式な延期要求状だ……!」
「はい。ジェード様を見捨てないと……そうおっしゃって」
ラシェルの肩が震えていた。
ホープは一瞬、空を見上げた。
白い雲。高く、熱い空気。そして、まだ遠くない、松明の匂い。
「ありがとう……!」
ホープはラシェルの手を強く握り、しっかりと目を合わせた。
「ここから先は、危険だから。君は戻って――」
「一緒に行きます!」
その言葉に、ホープが一瞬驚く。
「だって私、王妃様に命じられました。あなたを信じて支えなさいって」
その瞳に、一分の迷いもなかった。
ホープは頷いた。そして、ラシェルの手をひいて、人波をかき分け、火刑台の方へ駆け出した。
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